『アサーション入門ーー自分も相手も大切にする自己表現法』平木典子/講談社現代新書

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「いちばん最近、腹が立ったこと」にたいして、どう対応した?
上司の無茶振り。息子の駄々。友人の遅刻。乗り合わせた老人の、大声の通話。ネットニュースで見た政治家の発言。なんでもいいです。

デート中に入ったお店で、店員がミスをしたとき、ぐっと我慢した? おお、頑張ったね!
けど、それでもなんとなく不機嫌さが漂ってしまった? あるある。
店員のミスではなく不機嫌な自分のせいで、デートの雰囲気にケチがついてしまったね。ドンマイ。

「感情が豊かな人」と「感情的な人」は違う。これが「アサーション」という考えかたのキモらしい。
アサーションとは主張という意味だけど、最近ある分野では、「感情的にならずに感情や考えを伝える技術」の意味で使われている。
感情的というのは、動揺や恐れ、怒りといったネガティヴ感情に言動が引きずられて、攻撃的になったり、日常生活に差し障りが出るほどめそめそしてしまったりすること。
みっともないし周囲もつらい。感情的でありたいと思う人はいない。では、感情的にならないために、自分の感情を抑えつけてしまえばいいのか(非主張的)?
ところが、非主張的にやっていると、それはそれでつらい。言葉や態度が異様に冷淡に(あるいは冷笑的に)なってしまって、結局べつの意味で攻撃的になっていたりすることもある。つまり、非主張的なコミュニケーションも、結局は感情的な形になってしまうのだった。

では、どうすれば感情的にならずにコミュニケーションできるようになるのだろうか。

アサーションという考えかたを日本に紹介したパイオニア、もと東京福祉大教授の平木典子さんの『アサーション入門 自分も相手も大切にする自己表現法』(講談社現代新書)によると、その第一歩は、不合理な思いこみを捨てることだという。
不合理な思いこみには、以下のようなものが含まれる。あなたの行動には、こういう考えかたに基づいていることがないだろうか?

(1)危険や害がありそうなときは、深刻に心配するものだ(そうすれば被害を避けたり、軽くしたりできる)。
(2)どんな仕事でも、やるからには充分に、完全にやらなくてはならない。
(3)人が失敗したり、 愚かなことをしたりしたとき、頭にくるのは当然だ。
(『図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術 人間関係がラクになる自己カウンセリングのすすめ』[PHP]を参照しました)

 じっさいに考えてみると、
(1)心配すると冷静さを失うので、落ち着いて対処を考えたほうがいい。
(2)完璧主義は完璧じゃない人への攻撃心以外のなにものでもないので、こういう人の周囲はつらい。
(3)について「そうは思いません」と答える人も、親しい相手に向かって「だけ」は例外的に怒りをぶつけてしまう、というケースがあるだろう。

〈この考えかたをする人は、自分の思いと違ったことが起こるのを嫌います。病気になったらイライラし、子どもの成績が悪いと言って怒り、妻が言うようにしなかった、夫が勝手だと言って腹を立てます。そして、思い通りにいかないのであれば、死んだほうがましだとか、全部ないものにしてしまおうと思ったりするのです〉(80頁)

暴力や殺人の被害者が行きずりの相手より家族(DV)や知人のケースが多いと言われるのは、「家族・恋人・親友だから、自分のことをわかってくれなければならない」という不合理な思いこみのせいで、近い人への要求水準だけが無駄に高いからなのだ。この他責的な思いこみはなかなか祓えない。
これに似た、「金を払っているのだからわかってもらって当然」という不合理な思いこみも、日本のお客さんにはある。
でも、自分が相手の客だろうが親兄弟だろうが恋人だろうが上司だろうが、相手だってひとりの個人なのだ。
アサーションでは、ほんとうは私たちにはだれでも、

・他人の期待に応えるかどうか決める権利がある
・過ちをし、それに責任をもつ権利がある
・自己主張をしない権利もある

と考えるという。

アサーションでは、こういう非合理な思いこみをチェックしていく。具体的な表現へのアドヴァイスはそのあと、まずは世界把握の歪みを自覚し、軽くしていくことが先決なのだそうだ。

平木さんと野末武義さんの共著『大切な人ともっとうまくいく「気持ちの伝え方」 「どうして、わかってくれないの?」がなくなる』(三笠書房)によれば、アサーションを本格的に応用した「恋愛本」として読める。これによると──
「出会ったときはこんなじゃなかったのに、この人、変わっちゃったなー」と思うときは、むしろ自分の見方のほうこそ変わった、ということらしい。同様に 「変わってほしいのに、ちっとも変わってくれない」のではなく、変わらない部分しか見ようとしていない、というのもあるよねー。

また、男性は「能力を否定する言葉」、女性は「つながりを感じられない言葉」を言われると一瞬で冷める、という説。
女性に言ってはいけない言葉→〈グチグチ言ってたってしょうがないんだから、結局どうしたいわけ?〉
男性に言ってはいけない言葉→〈あなたと結婚したのは失敗だったかも〉
だそうです。

アサーションについて何冊か読んでみて、「怒りをぶつける」のではなく、怒りの根底にある感情をまず自覚し、整理してから伝えるのが大事、ということがわかったので、目下練習中です。
それから、心理学の一般向け書籍は題名が長い、ということもわかりました。
(千野帽子)