写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●電王戦はなぜこれほどまでに人の心をひきつけるのだろうか将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが互いの意地とプライドを懸けて戦う「第3回将棋電王戦」が、いよいよ来週3月15日より開幕する。

「将棋電王戦」は、将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが互いの意地とプライドを懸けて戦う将棋棋戦。勝負は5対5の団体戦形式で行われ、最終的に勝ち越した側が勝者となる。大会の主催はドワンゴと日本将棋連盟。日程と開催地は以下のとおり。

第1局 3月15日(土)9:30 会場:有明コロシアム▲菅井竜也五段 vs △習甦(将棋電王トーナメント第5位/開発者・竹内章)

第2局 3月22日(土)9:30 会場:両国国技館△佐藤紳哉六段 vs ▲やねうら王(将棋電王トーナメント第4位/開発者・磯崎元洋、岩本慎)

第3局 3月29日(土)9:30 会場:あべのハルカス▲豊島将之七段 vs △YSS(将棋電王トーナメント第3位/開発者・山下宏)

第4局 4月 5日(土)9:30 会場:小田原城△森下卓九段 vs ▲ツツカナ(将棋電王トーナメント第2位/開発者・一丸貴則)

第5局 4月12日(土)9:30 会場:将棋会館▲屋敷伸之九段 vs △ponanza(将棋電王トーナメント第1位/開発者・山本一成、下山晃)

第2回大会は、全局東京の将棋会館で開催されたが、今回は超ビッグな会場が名を連ねている。ドワンゴさん、はっきりいって滅茶苦茶力が入っているのである。

○「将棋電王戦」人気の秘密

「将棋電王戦」は昨年、社会現象と呼ばれるほど話題になったが、ブームに乗り遅れた人にために、その人気の秘密を今一度考察してみよう。

「将棋」は、江戸時代に家元制度が発祥し、以来400年以上続く日本の伝統文化のひとつだ。とはいうものの、現代の日本ではどちらかといえばマイナーな競技である。ところが「将棋電王戦」はマイナー競技とは思えないほどの盛り上がりを見せている。昨年行われた「第2回将棋電王戦」はニコニコ生放送で数十万人の来場者を記録するほどの一大イベントとなっているのだ。人間対コンピュータの戦いが、なぜこれほどまでに人の心をひきつけるのだろうか。

ひとつには、これまで絶対的な実力者として君臨していたプロ棋士が、将棋の弱い素人が開発したコンピュータプログラムに負ける、その屈辱的な瞬間が見たい、という野次馬根性的な興味があるだろう。だが、それだけではこの盛り上がりは説明がつかない。

「第2回将棋電王戦」は初戦こそプロが快勝したものの、その後は苦しい戦いが続いた。それでも「ニコニコ生放送」の来場者数は減ることはなくむしろ増え続けたのである。そして来場者のほとんどは、プロ側が優勢になると歓声をあげ、劣勢になると悲痛な応援を送り続けていた。つまり、多くの人は人間がコンピュータに勝つ瞬間を見たくて集まっていたのだ。

その理由はきっと、人間の頭脳が持つ能力に対する期待感だ。全てを0と1に置き換えて計算だけで勝負するコンピュータに対して、人間は長い修練で培った知識や経験、勘、さらには気力、体力までをも総動員して勝負する。そうした努力や才能が、コンピュータの計算を凌駕する瞬間を見ることで、人間の価値を再確認したいのではないか、と筆者は考えている。次項では、人間対コンピュータの戦いの歴史について振り返りたい。……続きを読む

●人間対コンピュータ、戦いの歴史コンピュータ対プロ棋士、これまでの戦いの歴史は以下のようになっている。

・2006年 渡辺明竜王 ○-● ボナンザ・2010年 清水市代女流王将 ●-○ あから2010・2012年 故・米長邦雄永世棋聖 ●-○ ボンクラーズ(第1回将棋電王戦)・2013年 現役プロ棋士代表 ●-○ コンピュータ将棋代表(第2回将棋電王戦)

コンピュータ将棋の開発が始まったのは1970年台半ばと言われている。当初は一般に出回ることもなく、そのレベルも将棋のルールを守って指すことができるかどうか、と言う程度のものだったようだ。それが1980年台には市販ソフトとして発売され、さらに1990年には「コンピュータ将棋選手権」が開始。以降はコンピュータ自体の性能が飛躍的にアップしたこともあり、右肩上がりに実力を伸ばしてきた。

そして表にある2006年頃には、コンピュータに親しんでいる若手プロ棋士の間で、当時革新的な技術を用いて選手権優勝を飾った「ボナンザ」が相当に強いと噂されるようになる。そしてついに、最強タイトルホルダーである、渡辺明竜王(肩書きは当時)がコンピュータとの戦いに臨むことになる。

以降の結果は表のとおりで、初戦に渡辺竜王が勝利した以降は、プロ側が連戦連敗を喫している。巷では「もうコンピュータの実力はプロ棋士を超えている」とまで言われているのが現状。

ただし、プロ棋士側は完全に白旗を掲げたわけではない。「第2回将棋電王戦」では、コンピュータの実力を過小評価したことで不覚を取った。しかし「相手の力を正確に知ったうえで、しっかりと研究して挑めば、勝機は十二分にある」というのがプロ側主張であり、応援するファンもその言葉を信じているのである。

○対戦カードと展望

では「第3回将棋電王戦」の対戦カードと展望を紹介しておこう。なお、プロ棋士代表については、出場棋士発表の際のまとめ記事に詳しく記載しているので参照していただきたい。

第1局 菅井竜也五段-習甦(開発者・竹内章氏)

第1局はプロ側にとって非常に大きな意味を持つ対戦だろう。出場者中最年少の21歳の菅井五段だが、客観的に見てプロ5人の中では3番目の実力を持つと筆者は見ている。つまり菅井五段が勝てば、プロ側は勝ち越しの目途が立つというわけである。

第2局 佐藤紳哉六段-やねうら王(開発者・やねうらお氏)

「砂糖のように甘い言葉で深夜に君を寝かさない」

いきなりなんのこっちゃ、と思うだろうが、佐藤六段自身が標榜するキャッチフレーズである。将棋の実力には定評があるが、ハッキリ言って変わり者。そして相手のやねうら王の開発者、やねうらお氏もユニークな方と言われている。うーむ……この勝負に関してだけはどうなるのか予想がつかない。

第3局 豊島将之七段-YSS(開発者・山下宏氏)

豊島七段は若手だが、近い将来トッププロとして活躍することが確実視されるほどの棋士。今回の出場者中では大将の屋敷九段に並ぶほどの実力と言える。相手のYSSは世界コンピュータ将棋選手権で3度の優勝経歴を誇る古豪だが、現在の最強ソフトには少し劣るだろう。となれば、プロ側としては絶対に落とせない戦いになるだろう。

第4局 森下卓九段-ツツカナ(開発者・一丸貴則氏)

ベテランの森下九段について、対コンピュータ戦の適性に不安がない、と言えば嘘になるだろう。ただ、前回の塚田泰明九段の戦いぶりを見て分かるように、ベテラン強豪棋士の勝負へのこだわりは凄い。プロ棋士の意地とプライドがもっとも現れるのがこの戦いかもしれない。

第5局 屋敷伸之九段-ponanza(開発者・山本一成氏、下山晃氏)

トッププロ、屋敷九段の実力に関しては疑いようがない。ただし、相手のponanzaもコンピュータ将棋界で間違いなく最強のソフトだ。この戦いに関しては、勝敗予想よりも、プロ同士のタイトル戦に匹敵するような名局を期待したい。……続きを読む

●日本将棋連盟理事・片上大輔六段インタビュー○日本将棋連盟理事・片上大輔六段インタビュー

最後は、日本将棋連盟理事の片上大輔六段のインタビューをお届けしたい。「第3回将棋電王戦」の展望や、準備の状況などについて話を聞いた。

―― いよいよ開幕が迫ってきましたが、棋士側の準備状況はいかがですか

片上:全体としての準備は、コンピュータに詳しい講師を招いて勉強会を2回行いました。出場する各棋士の準備に関しては、本番と同じ環境のハードとソフトを提供し、具体的なところは対局者自身におまかせしています。

――出場者以外の棋士も協力して対策を練ったりはしないのでしょうか

片上:対策を練るというのとは違いますが、将棋会館に本番と同じハードとソフトを用意して、出場者以外の棋士も練習対局できるようにしています。その対局の棋譜は出場者に提供し、研究の参考にしてもらっています。

――基礎的な知識や棋譜データは提供しても、具体的な研究は対局者個人に任せているわけですね

片上:そうですね。基本的に将棋は個人の勝負なので、棋士にとって集団で研究するスタイルは馴染まないという事情もありますね。

――各出場者の準備状況については何か話を聞いていますか

片上:第1局に登場する菅井五段とは1月頃に話をしたのですが、その時はまだ作戦に悩んでいると言っていました。それから豊島七段と佐藤六段は本番と同じ5時間の持ち時間で練習対局をしてみたそうですが「かなり暇」だそうです。

――今大会はいくつかルールが変更されています。まず、本番と同じ環境で練習できることで、事前の研究で必勝手順が見つけ出せるのではないか、と言われていますがその点はいかがでしょうか

片上:どうもそんなに単純な話ではないんです。私もひと通り練習対局をしてみたのですが、どのソフトもクセが出ないように研究されていて、そんなに簡単に必勝法が見つかる感じではありません。確認したわけではありませんが、たぶん誰も必勝法を見つけるという方向で研究している人はいないと思います。

――持ち時間が前回の4時間から5時間に伸びたことはプロ側に有利に働きますか?

片上:基本的には長いほうがいいとは思います。ただ、練習で長い持ち時間で対局することはかなり大変です。やっぱりコンピュータの前に座って長時間真剣に考え続けるというのは、プロと言えどもかなり難しいことですから。5時間の持ち時間を生かせるかどうかは、本番で戦ってみないと分からないというのが正直なところです。

――今回は会場が豪華なところばかりです。将棋会館以外で対局することに不安はありませんか?

片上:「電王戦タッグマッチ」や年末のリベンジマッチも将棋会館ではなかったのですが、ドワンゴさんの準備や運営が凄くしっかりしていて、まったく問題なく対局できました。ですから今回も不安はなく、安心して臨めると思っています。

――最後になりますが、勝敗の展望をお願いします

片上:やはり人間のほうは勝負の流れが影響しますから、初戦が鍵だと思います。菅井五段が勝てば、全勝や4勝1敗が期待できます。逆に初戦を落とすと3勝2敗とか2勝3敗というラインになるかもしれません。

(宮本橘)