チャンスを逃したマキロイ ドラマは誰にでもおとずれる(撮影:福田文平)

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 米ツアーの戦いは厳しい。上位で活躍していた選手が坂道を転がり落ちるように下位へ沈む様子を傍目にすると、選手たちは「明日は我が身だ」と気を引き締める。逆に、不調で苦しんでいた選手が調子を戻し、ランクアップしたり、勝利を挙げたりすると、「オレもあれをやりたい」と秘かに思う。

 激しいアップ&ダウンを繰り返す人生やキャリアは、英語では「ローラーコースター」と表される。成績を落としては伸ばし、伸ばしては落とす。いいこと、悪いこと、双方が繰り返し訪れる。熾烈で厳しい世界に身を置く米ツアー選手たちにとっては、いつどちらが起こっても不思議ではなく、どちらの現象を目の当たりにしても、結局は「明日は我が身」と感じる。
 ホンダ・クラシックで世界ランク1位のタイガー・ウッズが初日から出遅れ、カットラインぎりぎりで予選を通過したと思ったら、3日目は65をマークして一気に17位へ浮上。しかし、最終日は一転してガラガラと崩れ落ち、前半だけで5オーバー、40を叩いた。その揚句に13番で途中棄権。王者にも浮沈は突如として起こりうるという典型例になった。
 だが、この大会で最大の浮沈劇を演じた主役は、タイガーではなく、この人だった。きっと大会を制すると思われていた北アイルランドのローリー・マキロイ。初日から首位に立ち、首位を守り通して最終日を迎えた。2位との2打差は十分なリードではなかったが、2012年大会を制した過去チャンプであることも考えれば、マキロイ優勝の可能性はきわめて高いと誰もが思う状況だった。
 しかし、そんなマキロイにも浮沈が訪れた。最終日は74を叩き、4人のプレーオフにどうにか残ったものの、勝利はラッセル・ヘンリーにさらわれてしまった。
 マキロイの人生は一見、光り輝いて見えるけれど、その一方で彼はずいぶんたくさんの浮沈を経験してきている。11年マスターズでは、優勝はほぼ間違いないと自らも周囲も信じていたが、最終日のバック9に大崩れして沈み、悔し涙を飲んだ。が、その2か月後、全米オープンを文句なしに圧勝し、彼は再び浮き上がった。
 このホンダ・クラシックだけを振り返っても彼の激しい浮沈が見て取れる。12年大会の優勝は彼を世界一の座に押し上げた。が、その1年後の13年大会では、不調の中、歯痛を理由に途中棄権し、仮病ではないかと不評を買った。そして、その1年後の今年は完全優勝達成と目されながらプレーオフに持ち込まれ、逆転負けを喫した。
 そのすべての浮き沈みが、マキロイという一人の選手のほんの3、4年間という短期間の中で起こってきたのだから、やっぱり熾烈な米ツアーにおいては、いいことも悪いこともどんなことも、突然起こりうるわけで、何に対しても「明日は我が身」と思ったほうがいい。
 米ツアー選手たちは、成績が上がるか下がるか、勝つか負けるかの境界線は「ファインラインだ」と言う。直訳すれば「極細の線」。わかりやすい日本語に置きかえると「紙一重」。つまり、ほんのちょっとしたことで、調子や順位や成績は良くもなるし、悪くもなる。
 今大会で松山英樹は棄権し、石川遼は予選落ちとなったが、そんな彼らの明日や来週が、ほんのちょっとしたことで突然光り輝く可能性はあるわけで、そう考えれば、この大会における「棄権」や「予選落ち」を必要以上に取り沙汰するのはナンセンスだ。
 だが、だからと言って、いいこと悪いこと何かが起こることを、ただ待っているのもナンセンスだ。マキロイは11年マスターズの最終日に大崩れした後、同じ轍を踏まないためにはどうしたらいいかと考えたそうだ。
 「首位で最終日を迎えたら、首位を守ろうと思わないことにした。優勝にこだわりすぎるから守ろうとして崩れる。だから、負けることを恐れず、攻めることにした。自分が歩んできたプロセスと自分のゲームプランを信じ、リーダーボードを見ず、他選手の動きを気にせず、結果がどうなろうとも自分は攻めていくと決めた」
 そんなふうに考え方を方向転換してからというもの、マキロイは「54ホールでリードを奪ったら必ず勝つ」という自身の記録を更新してきた。そして、今大会でも、やっぱり同じように最終日は守らず攻めて完全優勝を達成するつもりだった。
「今日は勝つための完璧なチャンスだった」
 それなのに勝利を逃した。プレーオフで負けたのだから、形としては惜敗だ。しかし、マキロイ自身は、むしろ完敗を認めていた。
 「優勝するという任務を遂行する上で、今日の僕のプレーぶりは十分なものではなかった。もしもプレーオフで僕が勝っていたら、優勝の二文字にふさわしくない勝ち方をしてしまったなと感じていただろうね」
 否が応でも浮沈を繰り返す米ツアー選手たち。彼らは、いいことも悪いことも「明日は我が身」の不安定な世界で生きている。
 でも、だからこそ、沈んでしまったときに毅然としていてほしい。粋な敗北の弁を口にしたマキロイのグッドルーザーぶりは、もしかしたら彼がトロフィーを掲げた姿より格好良かったのかもしれないなと思う。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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