昨今、安心で良質な食を求めて、どこの誰がどのような栽培を行い、どのような工程でその食物が生産されたかを確認できる「トレーサビリティ」(生産履歴)というシステムの導入が広がっています。その波は今や、本を生み出す畑である"出版"の分野にまで及んでいるようです。

その一例が、学研パブリッシングが主催する「本にしたい大賞」。同賞は、まだ書籍化されていない作品を、新刊を扱う書店の書店員が目利きし"この作品を世の中に送り出したい""この作品を自分の書店で売りたい"という本を生みだすために2013年に創設されたもの。初回となった今回、昨年末に実施されたファーストステージで、公募からノミネートされた7作の冒頭部分を審査員である書店員に公開。その投票の結果、2作品まで絞り込まれました。

現在、2作品にそれぞれ担当編集者が付き、作家と二人三脚で原稿をブラッシュアップしていくセカンドステージに突入。打ち合わせの様子や編集者による容赦のない赤字添削の様子が、順次インターネット上で公開されています。まさに、作家が生み出した「原稿」という一つの種が、編集者の手入れによって一つの「作品」にまで結実していく様子を誰もが見守ることができます。

最終候補のうちの一作、『春ことり』の著者の熊谷かおりさんは、京都府出身。幼い頃からピアノに親しみ、ミュージカル劇団の旗揚げを行うなどの経歴の持ち主です。編集Y氏は、同作の魅力に、京言葉による語り口や音楽の話題が背景にあることを認めながら、「『ええしの子ぉやね』という表現や、東京の大学生という設定なのに、大学の学年を『○回生』という言い方は全国的には通じませんよ」と指摘、「ええっっ!!」と熊谷さんが驚く一幕もそのまま掲載。物語の面白みを広く正確に伝えていくために、作家のカルチャーギャップを丁寧に埋めていく過程が伝えられています。

もう一作の『ルイ』の著者の舟崎泉美さんは、東京在住のライター。電子媒体で自作の出版を積極的に行うなど、創作の経験は豊富です。同作でも「解離同一性障害」という複雑な設定に挑み、人物設定についても詳細に練り込んであるようです。しかし編集A氏は、ある登場人物の設定について、「ここが適当だと物語の構造が崩れますよね? 考えていないというのはあり得ないですよね?」と追及。物語のリアリティを保つために、どんな小さな妥協も許さないという、プロの本作りの厳しさがうかがえます。

今後、同賞は完成した作品の全文を公開後(4月を予定)、再び書店員の最終投票を行い、本として出版する大賞作品が決定することになっています。創作過程が公開され、本の目利きのプロである書店員のお墨付きもついた大賞受賞作がどんな"味わい"の本となり、世に送り出されるのか、実に興味深いところです。

【関連リンク】
「本にしたい大賞」セカンドステージ
http://honchu.jp/book_gp/blog/



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 著者:後田 亨
 出版社:日本経済新聞出版社
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