私のようなクルマ好きのオッサンは"ホットハッチ"という単語に、青春の思い出のツボがキュンしてしまう......といった話を第45回(ルノー・トゥインゴ・ゴルディーニRS)で書いた。そのときにも触れたように、ホットハッチのそもそもの元祖は、1970年代半ばに初代ゴルフに追加された"GTI"である。

 以来、ゴルフは7代目となった今でも「世界でもっとも優秀でよくデキた乗用車」として君臨している。そして、それをベースにしゴルフGTIも健在であり、「ゴルフのボディに専用の高性能エンジンを積む」という基本構成は初代からなんら変わっていない。

 ただし、初代GTIのエンジンが1.6リッターの110psだったのに対して、この最新ゴルフGTIは2.0リッターのターボ付きで220ps! つまり、パワーはなんと2倍!! 初代で180km/hオーバーをうたって世のクルマ好きの若者を驚愕させた最高速は、最新GTIではなんと246km/hだ!!!

 まあ、約40年前と現代を直接比較したこところで、たいした意味はない。クルマ全体の進化と性能アップを考えたら、周囲のクルマを比較したゴルフGTIの相対的ポジションは、昔も今も似たようなもの......という見方もできなくはない。

 しかし、それを踏まえても、今のゴルフGTIはなにかの"一線"を超えた感が否定できない。この最新GTIはベラボーに速い。かつてのGTIのように、私みたいな下手の横好きアマチュアドライバーが、一般公道でちょいと気合いを入れて走って「今日はこれくらいにしといたろ!」と溜飲を下げられるようなモノではなくなった......と、いわざるを得ない。

 いや、運転そのものは夢のように簡単になった。アクセルペダルを踏み込むだけで、間髪おかずに、蹴り上げるようなすさまじい加速Gが襲う。今のゴルフGTIは最新電子制御ターボエンジンに、デュアルクラッチという今いちばんハイテクな変速機をもつ。昔のように、マニュアル変速を駆使してエンジン回転のスイートスポットを維持したり、ターボが効きはじめるタイムラグを予見してアクセルを早めに操作したり......といったコツやワザはほぼ不要。ひと昔前の4.0リッターエンジンなみの馬鹿力で、しかも前輪駆動なのに、フル加速でステアリングがとられてオットット......みたいなこともまるでない。

 これにはシャシーやボディの基本フィジカル能力の飛躍的向上に加えて、アクセル開度や四輪のブレーキを個別に自動制御するハイテクによるところも大きい。また、オプションの可変ダンパー(21万円)を追加すると、普段はひと昔前のクラウンなみにフワフワ快適なのに、気合を入れてスポーツモードにすれば、鼻歌まじりの気軽な精神状態のまま、アッという間に昭和時代のスーパーカーなみの速度域に突入できてしまう。

 逆にいうと、だからヤバい。どんなに速くなっても、四本のゴムタイヤだけで走るのは、自動車が発明されたときから変わっていない。また、オーバースピードでカーブに突っ込んでタイヤの限界を超えてしまえば、どんなハイテクもまったく役に立たない。で、そういう今のGTIでその現実に気づいたときには、すでにひと昔前のスーパーカーなみの速度に達しているわけで、ことの重大さも40年前とは比較にならない。だから、今のGTIでは「自分はとんでもないスピードで走っているのだ」という事実を厳として忘れず、チョーシに乗らないことが、かつて以上に重要になっている。その"一線"だけはキモに銘じてほしい。

 しかしである。昔のGTIやそれに類するホットハッチを知るオタクオヤジとしては、今のGTIのスゴさには、素直にスタンディングオベーションを贈りたくなるのも事実。こうして220psの前輪駆動車がシレッと成立していること自体、昭和時代には想像もできなかった。しかも、こんなに乗り心地よく、運転がイージーって......。

 冒頭のように「普通の人が買えるクルマが、こんなに簡単に速くなっていいのか?」なんて斜にかまえたくなるのも、私の本音である。そのいっぽうで、ある意味でただのファミリーカーがスーパーカー級に走ってしまう......のは「世界のクルマ小僧が40年前から夢見ていた究極のツボ」といってもいい。やっぱり技術の進歩ってスゴイなあ。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune