ソチ五輪のフィギュアスケート女子シングルのショートプログラム(SP)で、浅田真央は思いもよらない失敗を繰り返し16位に沈んだ。だが、2月20日のフリーで高得点をマークし、6位まで浮上。浅田真央の力はさすがのひと言だった。

 フリーでは、最初のトリプルアクセルを今シーズン初めてクリアに決めると、ひとつひとつを丁寧にこなす今シーズン前半の滑りを取り戻した。小さなミスこそあったが、本人が「競技人生最高の滑りができた」と納得するように、自己最高の142・71点を獲得。

 演技終了直後には涙を流し、その後のあいさつでは笑顔になった浅田。その理由を「SPの後、私の笑顔を見たいというメールをたくさんいただいたから」と話した。

 その浅田が22日のエキシビションでは『Smile/What a Wonderful World』を披露した。

 その演技を終えた後、浅田はこう話した。

「『スマイル』は、辛いことや苦しいことがあっても、笑顔を忘れないようにしたいという曲。私もその気持ちで、『この五輪で滑るのもこれが最後だな』と思いながら......。だから笑顔で、この大会で応援してくださった方たちへの感謝の思いを込めて滑りました」

 これまでの海外の大会では、直前まで国内で調整してから現地入りをすることが多かった浅田。ソチ五輪は開会式翌日の8日に団体戦のSPもあり、途中のアルメニアでの調整期間も含め、これまでにない長い遠征だった。

 そのなかで、最初の団体戦の演技で芽生えた不安をかき消すことができずに、そのまま個人戦を迎えてしまった。失敗したSPの後は姉の舞のほか、さまざまな人からアドバイスをもらい、佐藤信夫コーチにも気合いを入れてもらって自分自身の気持ちを整えたという。

「トリプルアクセルだけではなく、3回転+3回転や、ダブルアクセル+3回転も入れ、6種類の3回転ジャンプを入れるフリーのプログラムは、自分が4年間かけて信夫先生と作ってきたもの。ひとつひとつの要素をしっかりやっていこうとだけ考えました」

 その気持ちが、自己最高得点の演技となって結実したのだ。

 試合後、佐藤コーチからは「よくがんばった。やればできるじゃないか」と言われたという。そして「ちょっと遅かったけどね。でも良かった。最高の演技だった」とも言われたと明るく笑う。

「この4年間、信夫先生もすごく悩んで大変だったと思います。でも最後に自分が目標にしていたプログラムを完成することができたので、素直にお礼を言いたいと思います」

 この後、3月下旬の世界選手権まで期間は短いが、できることをひとつひとつやって、SPもフリーもパーフェクトにすることを最大の目標にしていくつもりだ。

「技術的に、信夫先生から学ばなければいけないものがまだまだたくさんあります。でも先生とは今まですごく我慢をしながらやってきたので、これからはスケートを楽しみたいですね」

 こう話す浅田は、これまでの自分の競技人生を振り返り、いろいろなことに挑戦してきた競技生活だったと言う。

「そのなかで五輪も2回経験させてもらいましたが、銀メダルを獲ったバンクーバーはSPは完璧にできて満足したけど、フリーでは満足できませんでした。それで今回は、SPはダメだったけど、フリーでは人生で最高の演技ができました。メダルという結果を残せなかったという悔しい気持ちはあるけど、ふたつの大会を合わせればSPとフリーで満足できる演技ができたということだから......。私の中では最高の五輪だなと思っています」

 浅田は今後の去就については、「まだ決めていない」としか口にしていない。まずは世界選手権。すでにそれを目標にしているからだ。

「その先のことで決まっているのは、アイスショーに出ることだけです。そこではひとりのスケーターとして、見守ってくれた人たちに『ありがとうございます』という言葉を伝える気持ちで滑りたいと思います」

 今後の日本女子フィギュアスケート界の状況を考えれば、まだまだ競技を続けてもらいたいという周囲の期待は大きいだろう。だが、決めるのは彼女自身。じっくり考えて出した決断なら、どんなものでも拍手を送りたい。誰もがそんな思いは持っているだろう。それは日本フィギュアスケート界に記してきた彼女の数々の功績が、強烈な輝きを持っているからにほかならない。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi