今年の日本経済見通しと5つの懸念事項について
私の2014年の経済見通しは、欧米についても日本についてもさほど心配はしていない。しかし、以下に示す5つの懸念事項には関心を高めておく必要がある。

2014年の日本経済見通しについてさまざまな方が意見を述べられていますが、私自身は実質経済成長率で1・0%近辺を予想しています。この1・0%近くになるかどうかは欧米の景気動向、そして中国を中心としたアジア政治経済の動向がどうなるかという外的要因が強く影響することになると思います。

中国については、経済減速要因となっていた輸出が、昨年11月の貿易統計で前年同月比12・7%増と2カ月連続のプラスに好転しました。また、上海に出張した際にいろいろな人の話を聞きましたが、先行きに対して強気な人が結構数多くいました。本連載でも取り上げたシャドーバンキング(影の銀行)の問題については、まだ解消していないものの、それほど大きな問題にならずに収束に向かうのではないかとみています。

欧米についても経済は回復基調にあり、日本経済についても私はさほど心配していません。

日本の財政についても、企業業績の上ブレにより税の自然増収に弾みがついています。4月の消費税率の引き上げが日本経済に対して大変なネガティブインパクトをもたらすのは言うまでもないことですが、消費税増税による国民負担増が9兆円、2013年度に執行された補正予算13兆円の反動減を合わせると22兆円の財政赤字減少効果といわれる中、それらを公共投資の増加(5・5兆円)や税収の自然増でどう埋めていくかということに加えて、オリンピック招致効果およびアベノミクスの「第3の矢」といわれる成長戦略によって、いかに設備投資の活性化や賃金増、ひいては消費増に結びつけられるかがキーになります。

一方で、今後の懸念事項として私は以下の5つのことを考えています。

第1は米国の財政問題です。昨年12月に米国議会の民主・共和両党が財政赤字削減策で合意し、当面の危機は回避されましたが、2月には再び債務上限問題が浮上する見込みです。オバマケア(医療保険制度改革)をめぐる人種的な対立を背景に両党議員がとにかく頑として動かないということで、よい方向で転回しそうだとの一部報道もありますが、そう簡単には解決しえない大変根深い問題という印象を持っています。

第2に米国のQE3(量的緩和第3弾)縮小開始に関する懸念です。この1月から段階的な縮小が始められているわけですが、QE3縮小は新興諸国にとっては資金の流出、為替安といったリスクにつながりかねず、BRICsや東南アジアの国々が今後また注目を集めることになるでしょう。

QE3縮小の余波は日本にも及び日本の株式市場が下落する場面も出てくるのではないかと思いますが、一方で、このQE3縮小が米国経済がよくなっていく自信の表れであるならば、基本的には世界経済にとってプラスの話です。また、米国の長期金利が上がり始めれば日本は円安基調をたどるでしょうから、輸出が拡大して株高につながる可能性があります。

米国のFRB(連邦準備制度理事会)にとっては、マーケットに対するガイダンスを非常に慎重にやっていくことが大事になります。そして日本は米国のこの出口戦略を生きた模範、あるいは反面教師としてよく研究する必要があるでしょう。

第3の懸念事項はアベノミクスの「第3の矢」そのものであり、大胆な改革がいまだに出てこないことが最大の問題です。とりわけ法人税改革こそが成長戦略の中で第1の柱になっていかねばならないと私は認識しており、2014年度税制改正大綱において法人実効税率引き下げが見送られたことは非常に残念でした。

欧米諸国ではいわゆる「法人税パラドックス」、つまり「法人税率は下がってきたものの法人税収の対GDP(国内総生産)比は上昇しており、税収の低下は起きていない」ということがずっと指摘され続け、研究が行なわれています。これは法人税改革が課税ベースの拡大や成長戦略とセットで行なわれれば、経済成長と財政再建の2つが達成できるとも言いうるわけで、まさにこれこそが第3の矢の中で一番先に掲げられるべきものだと私は思っています。

第4に、日銀の異次元金融緩和が「流動性のトラップ」に陥っている現状では設備投資や消費等にポジティブインパクトを与えるということは経済理論上難しいと言わざるをえません。しかし、この金融大緩和で人々のマインドはかなりポジティブになり、経済指標が好転したことは間違いありません。今回のポジティブに変化した人々のマインドが消費と投資に結びつくためには、個人所得増がどうしても必要になるわけで、日本の企業数の99・7%、雇用の約7割を占める中小企業の状況がどうなるかはさらなる懸念事項です。

そして最後の第5の懸念事項は、中国が尖閣諸島上空などを含む東シナ海の広い範囲にADIZ(防空識別圏)を設定したことです。日中両国の軍用機がニアミスになって暴発的な軍事衝突が起こりうるということであり、懸念すべきだと思います。

北尾吉孝(きたお・よしたか)
SBIホールディングス代表取締役執行役員社長

1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「face book」にてブログを執筆中。




この記事は「WEBネットマネー2014年3月号」に掲載されたものです。