発展する市場では、常に金融危機のリスクあり
米国の商業銀行を規制する「ボルカールール」にも、マーケットはさほど悪材料視することはなかった。しかし、発展する金融市場には、常にリスクがつきまとうことを投資家は忘れてはならないという。

昨年末に「ボルカールール」(米国の商業銀行による自己資金取引やリスクが高い取引を規制するルール)をめぐり、資本市場に不安が走りました。理由は、ボルカールールが適用されることによって、リスク資産である株式や米国住宅市場を支えている証券化商品への資金の流れが停滞し、資本市場全体の値が崩れるかもしれないという思惑からです。

しかし、結果的にボルカールールの適用は2015年7月開始と想定よりも遅くなり、投資行動への規制内容も抜け穴だらけとなったということもあり、この規制への不安は杞憂に終わりました。

そもそも、なぜボルカールールが議論されることになったのでしょうか?

理由は、2008年のリーマン・ショックや米国の住宅バブル崩壊に起因します。これらはリスク資産への過剰投資が原因であり、金融危機を二度と起こさないために商業銀行の投資活動を規制しようという流れが起きたからです。

ルールの根底には、商業銀行は預金を通じた融資活動など本来の銀行業務から逸脱すべきでないという考えがあります。しかし、金融危機は商業銀行だけの問題なのでしょうか?

本来は、何が商業銀行のリスク資産投資を加速させたのかの根源的な理由を探るべきではないでしょうか。

リスク資産投資の発展は、金融工学の発展に支えられています。なぜ、金融工学は発展したのか。それは、世界が平和になり、成熟しすぎたからです。経済成長に伴い儲かる投資機会が減少し、リスクを以前よりもたくさん取らなければ、昔のようなリターンが稼げなくなったのです。

たとえば、50年前の日本には、インフラ投資や住宅投資といった儲け先はいくらでもありました。しかし現在は、簡単には儲けられなくなっています。リスクが大きくなれば、リスク管理を徹底的に行なう必要があります。その管理のために金融工学が発展したのです。

そう、金融工学の歴史は実は100年にも満たないのです。どれだけ米国をはじめ各国の政府が金融規制をしたところで、世界が発展し続ける限り、抜け道を見つけてでも過剰なリスク投資がやむことはないでしょう。

最近では楽観的な経済予測が目立ちますが、金融危機のリスクは常にあることを念頭に置いておきましょう。

崔 真淑(MASUMI SAI)
Good News and Companies代表

神戸大学経済学部卒業後、大和証券SMBC金融証券研究所(現・大和証券)に株式アナリストとして入社。入社1年未満で、当時最年少女性アナリストとしてNHKなど主要メディアで株式解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験後、2012年に独立。



この記事は「WEBネットマネー2014年3月号」に掲載されたものです。