米ドル/円の変動幅は年間約16円。2014年は1ドル=120円台乗せも
日本の異次元金融緩和に加えて、米国では量的金融緩和の縮小が始まった。ファンダメンタルズ的には、ともに円安・ドル高の材料だ。しかし、チャート派からは円安のピークが近づいているとの声も上がっている。2014年の外国為替相場はどちらに推移するのか? 円安派と円高派に、その理由と2014年の投資戦略を聞いた。

円安派のストラテジー(武部力也)

2014年の米ドル/円相場は、日本の国益や国策と直近数年間の平均変動幅が約16円程度であることを根拠に1ドル=120円程度まで円安が進行すると考えている。

誤解を恐れずに指摘するなら、昨年の円安進行は政府・日銀による「デフレ脱却を題材にした官製相場」の影響と言っても過言ではないだろう。代表的な証左として、以下の2つの発言が挙げられる。

まず1つ目が、昨年3月に第31代日銀総裁に就任したときの黒田東彦氏の弁。「(デフレに関して)物価安定を確保する責務はどこの国でも中央銀行にある」「(無制限緩和について)前倒しでもなんでもやる」――。

2つ目は、昨年7月の参院選圧勝を受け、犒茲瓩蕕譴訐治〞を手にした安倍首相の言葉だ。「15年にわたるデフレから脱却することはそう簡単ではない。歴史的事業と言ってもいい。そのことに集中していく」――。

安倍内閣誕生から100日目の昨年4月4日、黒田新体制下の日銀政策会合は世界に類を見ない新しい金融緩和の枠組みを「量的・質的金融緩和」と名づけ、デフレ脱却を目標としたレジームチェンジ(体制転換)姿勢を鮮烈に示した。いわゆる「異次元緩和」の誕生である。

具体的には、マネタリーベース(資金供給量)コントロールを金融市場調整の操作目標とし、資産の保有額を2年間で2倍に拡大するなど、「量的・質的緩和」の導入を行なった。その衝撃は円安という副作用を起こし、エネルギー輸入コストに転嫁した。そしてガソリンや電気代の値上げを促し、消費者物価指数の上昇を誘引したのだ。

結果、2013年12月の政府・月例経済報告では2009年11月に「緩やかなデフレ状況にある」として以来、4年2カ月ぶりにその文言を削除するに至った。しかし、「デフレ脱却宣言」とはなっていない。そう、まだ道半ばなのだ。そうなると今年も「量的・質的緩和」施策の手綱を緩めることはないだろう。

今年4月は国内世論を二分した消費税増税開始時期でもあり、せっかくの景気回復基調やデフレ脱却の萌芽を灰燼に帰すとはとうてい思えない。

そこで考えられる具体的な手綱さばきは、「日本版QE(量的緩和)2」や「2年」とした時間軸のコミットメントより、「デフレ脱却≒2%≒持続」とした姿勢を強めることではないか。昨年4月の異次元緩和宣言で「2年で2%の物価上昇」としたことが、逆に時限措置として市場に受け取られ、円安基調を失速させる恐れもあるからだ。

さて、今年の米ドル/円相場を探るうえで俯瞰的なポイントも押さえておく必要がある。まず、テクニカル面においては昨年10月以降、200日移動平均線をめぐる3度の攻防戦があったが、結果として同線を下回って推移することは許されず、長期運用指針の地位を持続させたことだ。

これに需給面を組み合わせて考えると、今年は2点の円投・円売り圧力を推考可能とみている。

1点目は、原発停止も踏まえての燃料エネルギー等、輸入全般で関わるドル買いだ。そもそも財務省「貿易取引通貨別比率」を見てもドル建てでの割合が70%台であることは周知の事実。貿易赤字の恒常化が危惧される中で必然性の円売り・ドル買いとなるだろう。

2点目は、年金運用見直し有識者会議が、約120兆円ともいわれるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用対象にリスク商品も取り入れるように政府に提案したこと。日本国債の運用比率を下げ、外国株・外国債券を高める円投行為は国内生損保や信託銀行などの運用指針に多大な影響を与えるはずであり、前出の移動平均200日線などは米ドル/円の上昇の下支えとして意識されるだろう。

次に政治外交面だが、為替レートはその性格上、通貨当該国の事情や互恵関係が求められる。米ドル/円においては、相手国である米国の意向次第で日本の志向が阻害される可能性があるのは過去の歴史が物語っている。

米国にとっての2013年は外交政策、そして金融政策において大きな節目となった年でもある。まず、9月にオバマ大統領がシリアへの懲罰攻撃を見送った際の米国民向けへの演説で「米国は世界の警察官ではない(英訳)」と述べたことだ。

そして、10月末は上下院のねじれ問題から財政予算協議を難航させ、政府の一部閉鎖を招くなど、決して万全な政治体制でないことを浮き上がらせてしまった。

それらを踏まえれば、経済指標面だけを捉えて美辞麗句的なドルへの信認は危険極まりないことも留意しておく必要があるだろう。

一方で2013年は日米同盟の盤石性が試された場面も多く、最終形としては「特定秘密保護法」成立にまで結びついた。同盟強化の観点から日本の円安志向が甘受された可能性も高い。日銀が異次元緩和を打ち出して以来、米国は日本のアベノミクスを支援した経緯があるが、デフレ脱却(日本の復活)こそが日米関係を維持させる、として早期復活が逆に対米責務であることを伝心させているのかもしれない。為替相場が国際政治銘柄といわれるゆえんだ。

そして金融政策面においてだが、FRB(連邦準備制度理事会)は昨年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)において、リーマン・ショック以降導入してきた事実上のゼロ金利政策や量的緩和など非伝統的な金融政策を通常に戻す政策転換(出口戦略)を宣言した。要は市場に大量のお金を流し込んでいた量的緩和の縮小だ。縮小理由は、シンプルに雇用の改善や経済活動が緩やかな拡大を続けているからとされている。

ここでの再確認は日米金融施策の差異であり、金融緩和の出口に立つのが爛疋〞であり、昨年末のマネタリーベース200兆円、今年末270兆円とした金融緩和の入り口に立つのが牘〞であることだろう。円はキャリートレードの調達通貨に採用されやすい環境にある。

最後にFX投資家(米ドル/円)の投資余力を考察してみたい。当社の米ドル/円に投資する顧客の売買動向(下図)を見ると、2013年末に向けた円安進行場面においては「ドルロング(買い)・円ショート(売り)」を緩やかに縮小させ、買い比率が低下しているのがわかる。こうしたFX投資家の動向は、トレンドの明確さが強まれば今後は追随順張りとして買い比率を高めるはずだ。

つまり、政府・日銀によるデフレ脱却・円高阻止の姿勢が強まれば2014年のドル円トレンドをFX投資家がより鮮明にリードする可能性が高い。要は政府・日銀が明確な指針を市場に伝えることができれば、前出のGPIFや国内生損保・信託銀行、そしてFX投資家も含めた爛ールジャパン〞が国策を肩代わり支援してくれるはずだ。

逆に失望や不安に転じさせるような間違ったメッセージが伝わると、彼らはセンシティブにポジションを縮小させ、米ドル/円の上値抑え役に回る可能性も否定できない。

今年も円売りの明確な大義名分を市場参加者は政府・日銀に求めることとなるだろう。そして双方の利害一致が明確なら、2014年は「アベノミクス・エピソード2」の始まりとなり、国是とした円安展開になりそうだ。

武部力也(RIKIYA TAKEBE)
岡三オンライン証券 投資戦略部長

東京金融取引所為替・株価指数証拠金市場運営委員会委員長。1989年より東京外国為替市場インターバンク(銀行間)市場の表と裏に精通し、現在はラジオ、テレビ、講演などで精力的に活動する。著書に『勝ち残りFX』(扶桑社刊)



この記事は「WEBネットマネー2014年3月号」に掲載されたものです。