改めて女性の強さを思い知らされたような気がした試合だった。

 2月21日のソチ五輪フィギュアスケート女子フリーはハイレベルな争いを繰り広げた。男子フリーは、羽生結弦とパトリック・チャン(カナダ)の優勝争いと、9名の選手が僅差で競り合い、最終組までミスが続出する戦いだったが、女子はほぼノーミスの競演となった。

 その先陣を切ったのは浅田真央だった。前日のショートプログラム(SP)が16位で、もう思い切り攻めるしかない状況。開き直った浅田は最初のトリプルアクセルを今季初めてクリーンに着氷した。その後も滑りや要素を丁寧にこなす。2度の連続ジャンプの後半は回転不足になり、3回転ルッツはロングエッジと判定されたが、スピンやステップはすべてレベル4の評価。彼女自身が「今出来る最高の滑り」という演技で、自身最高得点の142.71点を獲得したのだ。

 ただ、その技術点が73.03点だったのに対し、演技構成点は69.68点。ファイブコンポーネンツはトランディションが8.36点でそれ以外は8.75〜86点。その詳細をみれば全項目で9.25〜50点を出した審判がいる一方では、7.50〜8.50点の審判もいるという状況。前半グループだったために得点が抑えられたという感も否めなかった。

 それでも合計得点は198.22点。SPは残酷な結果になったものの、フリーでは「浅田真央はまだ、浅田真央であり続けている」ということを強くアピールしたのだ。

 その勢いは優勝争いをする最終グループにも伝わった。SPを終えた時点での得点は、1位のキム・ヨナが74.92点、2位のアデリーナ・ソトニコワ(ロシア)が74.64点。さらに74.12点のカロリーナ・コストナー(イタリア)が続くという接戦。その後には68.63点のグレーシー・ゴールド(アメリカ)や65.23点のユリア・リプニツカヤ(ロシア)と65.21点のアシュリー・ワグナー(アメリカ)がいて、上位がミスを犯せばいつでもメダル争いに割り込めるという、緊迫した状況だった。

 そんな神経戦ともいえる状況でまず敗れたのは、最終組最初の滑走者だったリプニツカヤだった。序盤の連続ジャンプは確実にこなし、メダル争いにも絡んできそうな演技を見せた。だが中盤の3回転ループが回転不足で両足着地になり、次の3回転サルコウでは転倒。続く3回転ルッツからの連続ジャンプではロングエッジになりGOEでも減点されてしまった。

 とはいえ、演技構成点は浅田より高い70.06とまずまずの高得点。得点が出やすい最終組という利点を生かし、合計では浅田を抜いて200.57点とした。

 だが、ミスが続出に傾きそうな流れを止めたのは、次のコストナーだった。SPでも彼女らしいダイナミックな演技で3位につけていた彼女。フリーの曲は、ゆっくりとしたテンポで始まる、昨シーズンと同じ『ボレロ』だった。氷を蹴ることなく、スケートのエッジングで徐々にスピードを上げていくテクニカルな滑り。以前はジャンプでのミスが多く波もあったが、ここにきてジャンプの確率もしっかり上げて完成度を高くしてきていた。

 昨年の世界選手権でも同じ『ボレロ』で圧巻の舞いをして2位になったが、最後の3回転サルコウで転倒していた。今季は連続3回転ジャンプは入れない構成ながら、3回転サルコウを中盤に持ってきてたことで、今大会フリーでは、ほぼ完璧な演技の142.61点を獲得。合計では216.73点でトップに立ったのだ。

 フリーの得点で浅田を僅かに下回ったものの、「曲の解釈」であるインタープレテーションで9人中4人の審判が満点の10点を出すほどの出来だった。

 だがそのコストナーを上回ったのが、最後から2番目のソトニコワだった。3回転ルッツ+3回転トーループなどのジャンプを確実に決め、ミスらしいミスといえば3連続ジャンプの最後のジャンプが回転不足で乱れたくらい。地元開催のプレッシャーに負けない滑りをして、149.95点と予想以上の高得点を出し、合計を224.59点とした。

 さらに、その驚きの中で、キム・ヨナも完璧な滑りをした。ジャンプもすべて余裕を持って降り、ミスらしいミスといえばステップシークエンスとレイバックスピンがレベル3になったくらい。だがその得点は144.19点とソトニコワに比べると低く、合計219.11点で2位に留まった。

 記者やカメラマンの間では「ソトニコワの得点が出過ぎでは」という声も上がった。確かにジャンプはほぼ確実に決めてはいたが、ひとつひとつが独立してしまった感じで"流れ"という点ではヨナには及ばない面もあった。また表現力の面でもそこまで熟成しているとは思えず、冷静に観ても、ヨナとの5.48点差というのは開き過ぎとも思えた。

 だがヨナにしてもエレメンツの基礎点は57.49点と、高難度の技を持っていないコストナーより低いもの。技術的には前回のバンクーバー五輪より進化しているといえないうえ、ソトニコワの高得点に影響されたのか、昨年の世界選手権で見せたような、オーラのようなものを感じさせる演技でなかったのは事実だ。そんな中で本当にフィギュアスケートらしい、美しさと濃密な空気感を見せたのは、コストナーだったかもしれない。その濃密感と得点が完全にリンクしていないのも、今のフィギュアスケートである。

 とはいえ、彼女たちのミスを極力抑えた演技の競演は、五輪という大舞台の中での精神力の強さを示すものであった。十分に賞賛されていい。それだけに今回の結果に対して、「やっぱり地元開催だから」というような形容詞を付けてささやかれるのは残念なことだ。

 次は、そんなモヤモヤしたものを吹き飛ばすような、彼女たちの熾烈な競り合いをもう一度観てみたい。出来ればそこに、浅田真央が加わってくれていたらもっともっとワクワクするだろう。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi