民間のビジネスを活性化させるとしている安倍政権の「成長戦略・規制改革」は看板倒れで何も進まないどころか、むしろ逆行している。たとえば昨年の臨時国会でタクシー業界は規制が強化された。

「弱者を守れ」が掛け声だったが、新たな規制によって乗客の利便性向上は無視され、創意工夫で収益を増やそうとする業者の営業努力が邪魔される。政策工房社長の原英史氏が、デフレでもタクシー運賃が上がりつづけた理由について解説する。

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 一般的に商品やサービスを提供する店などが増えれば、競争が生じて価格が下がるものだ。しかしタクシーに関する限りデフレ経済が続く中、初乗り運賃は一貫して上昇を続けてきた。東京都の初乗り運賃を過去30年間さかのぼって調べると、1980年代前半の430円から2012年の710円まで右肩上がり。車両数の増減と運賃は相関がなく、2002年の規制緩和で台数が増えた後も価格低下は一度も生じていない。

 他国と比較して日本のタクシー料金は明らかに高い。消費者庁2012年度委託調査によれば、東京のタクシー料金を100とするとニューヨーク57、ロンドン83となる。海外のメーター料金に1割が目安となるチップを足しても、日本のほうが高いとわかる。

 こうした状況の要因と考えられるのが、運賃規制の運用だ。たしかに2002年規制緩和により一定程度自由度は高まったが、それでも「認可制」そのものは維持されるという問題は残った。運賃値下げに精力的に取り組むMKタクシー(エムケイ株式会社)はこうコメントする。

「運賃認可の審査の標準処理期間は4か月でしたが、値下げ幅が大きい場合などは申請から5〜6か月かかることもあり、予定より開業がずれ込まざるを得ないケースがありました。また毎年認可の更新が必要だったため、常に更新できない可能性がある中で経営計画を練らなければならないといった困難があった。

 着物を着たお客様の料金を割り引く『きもの割引』を京都MKが2003年に導入しましたが、運輸局から様々な注文がつき、一時は実現が危ぶまれる状況でした」(経営企画部)
 
 さらに2009年以降は再規制強化でそれまで認められたワンコインタクシーに対しても料金引き上げの要請が相次いだ。
 
 つまり2002年以降、参入・増車はかなり自由に認められるようになったが、運賃を下げたり、工夫した割引制度などを導入したりといった、利用者を拡大しようとする試みに対しては制約の厳しい状況が続いた。こうした「中途半端な規制緩和」の結果、供給過剰が生じ、タクシー会社の経営やドライバーの収入が低下する状況が生じたのだ。

 運賃規制の緩和を唱えると、「運賃をさらに下げたら、ドライバーの収入がもっと下がる。弱者へのしわ寄せだ」という批判がよくなされる。これも正しくない。
 
 タクシーの売上は「運賃×1日当たり実車距離」だからだ。現にたとえばMKタクシー(京都)のデータを見ると運賃は他社より14%低いが、1台当たりの売上は2倍ある。規制緩和を正しく進めれば、よいサービスをより安く提供するドライバーの収入も増えるはずだ。
 
 にもかかわらず、「行き過ぎた規制緩和」論はなぜまかり通るのか。やはり【1】競争しなくても利益のあがる環境になじんだ昔ながらの事業者と、【2】規制権限(参入規制や運賃規制)を握りたい官庁との結託と考えざるを得ない。
 
 安倍総理は今年1月、ダボス会議で世界のリーダーたちに向かって「岩盤規制の打破」を約束した。しかし、せっかく穴の開きかけた岩盤まで再び塗り固めるようなことをしていたのではお話にならない。

※SAPIO2014年3月号