全聾の作曲家・佐村河内守の騒動。ゴーストライターの新垣隆の言葉「もうこんなことは終わりにしましょう」「いつかこの関係が世間にばれてしまうのではないか」にひじょうにドキドキはしたものの、実は二人のあいだに何が起こっていたのか曖昧にしか知らなかった。

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「堕ちた“現代のベートーベン”『佐村河内守事件』全真相」が、2月13日にKindleで発売された。2月6日の「週刊文春」大スクープ記事を電子書籍化したものだ。スクープから一週間経ってなお、佐村河内守はテレビやインターネットを賑わせている。
実は私、この騒動が起こるまで佐村河内のことを知らなかった。連日の報道を見聞きしてなんとなく把握していたのが以下の三点だ。

・「現代のベートーベン」と称される、全聾の作曲家がいる
・しかし、その曲はゴーストライターによるもので、本人は楽譜の読み書きもできなかった
・さらに、全聾というのもウソで、実際は聴力が復活しつつあった

今回発売されたKindle記事には、詳しく事の経緯が書いてある。つぎの4つの疑問についての答えを知りたいが、週刊文春は買い損ねた……そんな人は、電子書籍を読んでみればわかる。

・なぜ新垣隆は佐村河内のゴーストライターとなったのか?
・曲はどのように作られていったのか?
・どうやって二人は「共犯関係」を周りに悟られないようにしたのか?
・どうして新垣は自身がゴーストライターであることを公表することにしたのか?

いちばん興味深いのは「どうしてこのタイミングで公表することにしたのか」。いくつかある理由の一つに、2013年11月に『新潮45』に掲載された野口剛夫による論考「『全聾の天才作曲家』佐村河内守は本物か」の存在がある。

新垣はこの記事について、佐村河内にこのようにメールしたという。
〈その小さな記事はしかし、「第三者による、ほぼ真相を突き止めてしまったもの」であり、(中略)いわばオセロゲームの四隅の一角をとられてしまった状態で今後の展望が可能か〉
鋭い指摘に恐れを覚える新垣と対照的に、佐村河内の返信は楽観的だ。
〈あの記事は読みましたし、関係者にききましたが、新潮とあるだけで、新潮社本社も殆ど相手にしていないタブロイド誌的な扱いだそう〉

結局、新垣の不安は消えることなく、「告白」へと踏み切ることになる。ある意味新垣の背中を押した記事は、「堕ちた“現代のベートーベン”」に先立って電子書籍化されている。

野口の「『全聾の天才作曲家』」は、音楽的な観点と自伝を読んだ印象から、佐村河内に対して疑惑を抱いている記事だ。もちろん「ゴーストライターがいるのではないか?」とは書かれていないが、聴力に対する疑念や、佐村河内の音楽が「借り物である」という指摘がなされている。

2つの電子書籍を交互に読んでみる。「『全聾の天才作曲家』」がミステリの問題編〜探偵の推理パートであるならば、「堕ちた“現代のベートーベン”」は真相編だ。
逆の読み方もできる。「堕ちた“現代のベートーベン”」を読むと出てくる疑問に、「『全聾の天才作曲家』」はすでに答えているのだ。

──どうして誰も気づかなかった?

野口剛夫の答えはこれだ。
「これだけ事が大きくなったのも、おそらく『金』のなせるわざだったのかもしれない」
「全く儲からないクラシックの世界で、久しぶりにお金になりそうな人が現れ、関係者たち(そして本人も?)はとても張り切ってしまったのだろう」
そしてワーグナーの《ニーベルンクの指環》を引用する。
「権力(金)と愛は同時には持てない。権力を得る者は心の誠を断念しなければならないからだ」

現在、Kindleのランキングは「『全聾の天才作曲家』」が1位。「堕ちた“現代のベートーベン”」は急速にランクを上げ、30位以内に入ってきている。また、2月13日発売の「週刊文春」では「偽ベートーベン 佐村河内守の正体」という記事(佐村河内の家族にも踏み込んでいる)を掲載している。

神山典士+「週刊文春」取材班「堕ちた“現代のベートーベン”『佐村河内守事件』全真相」【Kindle版】(現時点で99円)
野口剛夫「『全聾の天才作曲家』佐村河内守は本物か」【Kindle版】(現時点で100円)

(青柳美帆子)