日本勢の金メダルが期待されたスピードスケート男子500m。その雲行きが怪しくなったのは、1本目の滑りで、W杯ランキングの上位選手が登場する前の15組目だった。昨年の世界距離別選手権500m3位で昨季のW杯総合王者ながらも、今季のW杯では4位が最高と低迷していたヤン・スメーケンス(オランダ)がいきなり34秒59という平地では極めてハイレベルなタイムを出したからだ。

 さらにそこから3組後ろの18組で登場した加藤条治は、スタートで躓(つまず)くミスを犯し、滑りのリズムを崩して、34秒96の5位に沈んでしまった。そしてその次の19組の長島圭一郎は、同走のミヘル・ムルダー(オランダ)に0秒16先着されて34秒79。3位になってメダル獲得への希望は残したが、1位には0秒20差と、金メダルまではかなり難しい状況になったのだ。

「スタートで躓いてスケートの先が刺さってしまったので。レースとしてはかなり致命的なことをしてしまいました」と加藤は反省する。同走はライバルのひとりだったバンクーバー五輪王者の牟太※(※は金へんに凡/モ・テボン/韓国)。その相手に遅れるわけにはいかないと自分のリズムを崩してまでスピードを上げたためにそこで力を使ってしまい、持ち味である100m以降の滑りに余力を残せなかった。

 一方、長島も3位の滑りを「決していい滑りではなかったです。あの感じだと34秒5くらいは行ってもおかしくないと思っていたけど、上手くいかなかったですね」と反省する。

「(34秒)5台というのは出そうな手応えというか、出さなきゃいけないタイムだと思っていましたね。僕の感覚とリンクが合っている感じはあったから、それが出なかったというのは力がないということですね。本番に弱いのかな、と思います」と苦笑を浮かべながら語った。

 加藤は2本目、きっちりとスタートを決めて加速し、100mを1本目より0秒1速い9秒56で通過。低地リンクの自己セカンド記録の34秒77でゴールした。そしてスメーケンスと同走になった長島も、100mは1本目より0秒05遅いだけの9秒58で通過したが、最初のカーブでスケートが流れてしまって失速。スメーケンスにかわされると35秒25までタイムを落してゴール。2本合計では5位になった加藤に届かず6位に止まった。

 上位は1本目と2本目を34秒6台にまとめたミヘル・ムルダーが、2本目を34秒72に落としたスメーケンスを0秒01差抑えて優勝。3位には、1本目は加藤と同じ34秒96だったムルダーロナルド・ムルダー(ミヘル・ムルダーの双子の弟)が、34秒49という素晴らしいタイムを出して食い込み、オランダ勢のメダル独占という結果になった。

「課題にしていたピーキングはうまくいったと思うし、コンディションもほぼベストの状態だったから、2本目は何とか一発当ててメダルをという気持ちで挑んだけど届きませんでしたね。オランダ勢が今まで戦ってきたのとはレベルの違うタイムで滑ってきたので......。接戦にも持ち込めない完敗でした」と加藤は言う。

 そして長島も「1本目は3位でも、組み合わせをみると厳しいのはわかっていたので、『何とか』という気持ちで挑みました。でもここまでずっと課題にしていたインレーンの第一カーブで失敗したので。この4年間一度もしっくり来ていないというのは、実力がないというだけです」と話す。

 バンクーバー以降、金メダルしか見ていなかったふたりの戦いは、オランダ勢の進化の前に敗れた。

 今村俊明コーチは、「去年ここでやった世界距離別選手権をみて、34秒7台を揃えればメダル、金のためには34秒6台が必要だと考えていました。でも一本目にスメーケンスが34秒5を出した時には『金メダルは厳しい』と思いましたね。今年のオランダの代表選考会では34秒3台という平地のリンクでは想像できなかったような記録が出ていてビックリしたけど、オランダ勢はその力をソチで再現したのだと思います。長島の1本目と加藤の2本目はそれぞれの力を確実に出したけど、それぞれもう一本でミスをしたのも実力だと思います」と完敗を認めた。

 以前からオランダはスケート王国だったが、中心は中・長距離で短距離は弱かった。だがスラップスケートで滑る技術を熟練させてきた今は、500mでも優れた身体能力を存分に生かせるようになったのだろう。昨シーズンはシメーケンスがW杯総合1位になり、今季も2位のミヘルを筆頭に5位、8位、12位をオランダ勢が占めている。

 日本の男子で唯一世界に通用している500mでも厳しくなっている状況。それを見て15位に止まった及川佑は、「もっともっと強くなるためにはどうするべきか、日本スケート界全体で考えなければいけないと思う」と話す。

 ミヘル・ムルダーはインラインスケートの世界選手権で優勝経験を持つ選手だ。またトリノ五輪とバンクーバー五輪の1000mを連覇したシャニー・デービス(アメリカ)はショートトラックから転向した選手。さらにバンクーバー五輪の1万mで優勝して5000mでは2位になった李承勲(リ・シンフン/韓国)はショートトラックとロングトラックを並行して行ない、ショートの五輪選考で落選したためにロングに挑戦して出場してきた選手だ。

 インラインスケートもショートトラックも、北国だけの競技ではない。その意味では日本スケート界も、"スケートは寒い地方の競技"という認識にとらわれることなく視野を広く持つべきだろう。

 今回の敗戦を、そんな意識変革のきっかけにして欲しいものだ。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi