それにしても、速い。

 2014年最初のプレシーズンテストが行なわれたマレーシア・セパンサーキットで弱冠20歳の世界王者、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が見せた走りは群を抜く高水準の安定度で、自分よりも年長の強豪選手たちをすでに寄せ付けないレベルに達していた。

 初日のタイムは2番手と0.5秒差を開く2分00秒286。2日目は全選手のなかで唯一2分の壁を切って1分59秒926。昨シーズン、史上最年少記録を更新するチャンピオンを獲得したことで、「もうプレッシャーもないし、リラックスして走れている。でも、プレッシャーがあったときも、たいていはうまく対応してきたけどね」と、一日の走行後に語る言葉の端々からは、すでに余裕のようなものさえ感じさせた。

 テスト最終日の3日目、マルケスは午前中のコンディションが良い時間帯にタイムアタックを実施。2012年にケーシー・ストーナーが非公式に記録した最速タイム(1分59秒607)を塗り替える1分59秒533にあっさりと到達し、周囲を圧倒した。

 午後からはレース周回を想定したロングランを行なったマルケス。昨年のマレーシアGPで2位に入った際の総レースタイムは40分47秒948だったが、今回のロングランではこのレース時のタイムを29秒も短縮した。2014年のMotoGPは確実に、この20歳の若者を中心に回ろうとしていることを強く印象づける三日間だった。

 そしてもうひとつ、今回のテストで印象的だったのは、ヤマハ復帰2年目のシーズンを迎えるバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)の復調だ。

 これまで7回の最高峰クラス総合優勝を達成してきたロッシは、35歳の誕生日を迎える。初日にマルケスに次ぐ2番手タイムでヤマハ陣営の最上位に立ち、「初日にしては2分00秒台を何回も出せて、ラップタイムの水準がいい感じだった」と、満足げに一日の走行を振り返った。

「去年の最大の問題だったブレーキングを改善するために、ヤマハはかなりの努力を払ってくれた。エンジンブレーキとシフトダウン、フロントのグリップが良くなっている。小さいことだけど、確実にいい方向へ向かっている」

 この言葉どおり、2日目も順調にテストメニューを消化していき、この日もヤマハ勢のトップで総合4番手につけ、前日の自己ベストタイムをさらに0.4秒縮めた。

 今シーズンは、レギュレーション変更に伴いファクトリーマシンの燃料容量は昨年の21リットルから20リットルへ縮小されており、燃費効率の向上は必須要件になっている。この課題をクリアするためにYZR-M1のエンジン特性が「ややナーバスになっている」とロッシは指摘した。

「今のバイクは非常に気に入っているけれども、特に深いリーンアングル(バンク角度)のときの操作に少しだけ神経質になってしまうんだ。僕のライディングスタイルでは大きな問題にならないけど、(チームメイトの)ホルヘ(・ロレンソ)のほうがこの影響は大きいようだね」

 さらに、ブリヂストンが今年投入する耐熱構造のニュースペックリアタイヤも、マシンとの相性面で「微妙な課題が明らかになった」と話した。

「2013年スペックと大きな差はないけれども、2014年型を履くと少しだけバランスが崩れてしまうようだ。悪くはないけど、ニュータイヤではもっと速く走れると思っていたので、そこも改善をしていきたい。去年の最初のテストでも自分たちはいい走りができていたけれども、その後、他の選手たちのほうが上げ幅が大きかった。だから、今年はさらに改善できるようにしていきたいんだ」

 テスト最終日、ロッシは午前の早い時間帯にタイムアタックを実施。マルケスにわずか0.194秒差の1分59秒727をマークした。午後に行なったレースシミュレーションのロングランも「納得の仕上がりだった」と満足げに振り返った。

「タイヤエッジにあまり負荷を与えないよう、ライディングスタイルを変える努力をしたんだ。去年1年間の経験で、だいぶよく走れるようになってきたよ」

 昨年のプレシーズンテストは、久々のヤマハ復帰であることに加え、若い世代の選手たちとどこまで戦える力があるのかを探ることが、大きなテーマでもあった。今年のロッシは、昨年の結果を踏まえ、マルケス、ペドロサ、ロレンソのトップ3と互角に争う準備を謙虚に、かつ着々と進めているようだ。

「マルケスとの差を詰めるためには、あらゆる点をよくしていかなければいけない。ブレーキングも加速も、そしてタイヤの使い方についても、もっと温存して走れるようにしないといけない。タイムアタックも、(マルケスとの)差は詰まっているけれど、もっと努力しなければならないと思っている。今シーズンの目標は、シーズンを通じて去年よりも強くなること、そしてマルケスたちと戦えるようになること。今回のテストはポジティブだったけど、でも、これはまだ最初のテストにすぎないからね」

 さらに改善していきたいと話す今年のバレンティーノ・ロッシの真価は、3週間後に行なわれる2回目のセパンテストで試されることになるだろう。

西村 章●取材・文 text by Nishimura Akira