優勝を決め天を仰ぐウォーカー(Photo by Stephen DunnGetty Images)

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 優勝は、近づけば遠のいていくものなのだろうか。
 2位に6打差の単独首位でAT&Tペブルビーチ・ナショナルプロアマ最終日をスタートしたジミー・ウォーカーが、後半に崩れ始め、ついには2位と1打差まで落ちていった様子を眺めながら、「優勝」の二文字がもたらす脅威を、あらためて思い知らされた。
 ペブルビーチは美しいゴルフコースだが、この時期は悪天候に見舞われることが多く、今年も寒波と強風でサスペンデッドが続いた。とりわけ3日目は、もはやゴルフの試合ができる状況ではないと思えるほどの惨状だった。
 たとえば、パー3の9番でウォーカーが握るクラブは、普段なら6番アイアン前後だが、強いアゲンストの中で迎えた3日目のこのホールで彼が選択したのは5番ウッド。それでもグリーンには届かないほど風は猛威を振るっていた。
 「ここは戦場だ。これはバトルだ」。彼はそう言っていたけれど、あのときのウォーカーには、まだきっちりパーを拾う冷静さがあった。
 「あの嵐の中でプレーしていたとき、僕が戦っていた相手は、他の誰でもなく、コースだった。コースが僕に戦いを挑んできた」
 だから、コースだけを相手に黙々と戦った。その姿勢、その視線の向け方が、ウォーカーの集中力を高める役割を果たしていたのだろう。他選手たちがスコアを落としていく中で、ウォーカーはスコアを伸ばし、2位との差をぐいぐい広げて、ついには6打差へ。
 「こんな大差で最終日を迎えるなんて初めてだ。ただただ、グッドショットを打つことを心がける。グッドゴルフをしていれば、結果は自ずとついてくる」3日目の夜、ウォーカーは、そう言った。
 だが、2位と大差をつけていようとも、優勝の二文字が意識の中に「ある」と「ない」とでは、プレーぶりはまるで異なってくる。「ただただグッドショットを打つ」という、トッププロたちにとっては当たり前のことができなくなる。
 いやいや、大差をつけて最終日を迎え、勝って当然と言われる立場に立っていたからこそ、崩れ始めたときに「まさかの逆転負け」という最悪のシナリオが頭をよぎり、彼の心は大きく揺れた。
 10番、12番、13番。続けざまのボギーで2位との差は縮まっていき、上がり3ホールにさしかかったとき2位とは2打差。3パットした17番(パー3)のボギーで、ついには1打差へ。それでも18番(パー5)をパーで上がれば優勝できる。ティに立ったウォーカーは、あえてアイアンを握ったにも関わらず、打ち出した球はへなへなと右へ曲がり、フェアウエイバンカー際の深いラフの中に沈んだ。
 ボロボロだった。下向き加減に歩くウォーカーの姿は、試練にさらされ、試され、どうにか耐え忍んでいる苦しい姿だった。
 8メートルのバーディパットはカップを1メートルほどオーバーした。そして、ウォーカーの本当のメンタルタフネスが試されたのが、次なるパーパット。これでもかというぐらい悪いことばかりが続いていた後半の展開と流れの中で、このパーパットは「まず入らない」と予想したくなる状況だった。が、彼はこれを沈め、力強いガッツポーズと笑顔で今季早くも3勝目を手に入れた。
 「まるでドラマだった。厳しかった。苦しかった。最後のパットを決められて、良かった」。3日目は嵐の中で67。前日より風が格段に静まった最終日は、しかし優勝争いという嵐の中で74。この数字の違いだけを見ても、どちらの嵐のほうが手ごわいかが、わかる。
 ゴルフはコースとの戦い、自然との戦いだ。けれど、最後の最後は自分自身との戦いだ。緊張、プレッシャー、他選手の動き。「優勝」を間近に意識する最終日の終盤だからこそ、心を揺さぶる激しい風、激しい嵐に襲われる。その風、その嵐に、どこまで耐えられるか。どうやってかわすか、どうやって跳ね除けるか。その風に吹かれ、その嵐に翻弄される経験を幾度も重ねることで、選手たちは強くなり、優勝に近づいていく。
 だが、近づけば、再び遠のく。その繰り返しの果てに、遠のきそうな優勝を逃さず手に入れることができるようになる。
 ウォーカーはプロ転向から14年の歳月を、そうやって過ごしてきた。そして14年目の今季、フライズコム・オープン、ソニー・オープンに続く3勝目を挙げて、誰よりも“嵐”に強い男っぷりを彼は世界に見せつけた。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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