小川豊和監修『新 みんなのカーリング 公益社団法人 日本カーリング協会 オフィシャルブック』(学研教育出版発行、学研マーケティング発売)
基本的なルールから、作戦の立て方までカーリングを徹底解説した1冊。2006年の『みんなのカーリング』の改訂版にあたる本書では、巻頭にソチ五輪出場を決めるまでの日本女子チーム(北海道フォルティウス)の軌跡と、チームの中核となる小笠原歩・船山弓枝へのインタビュー、またほかのメンバーの紹介も収録されている。テレビ観戦に必携だ。

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先週末、ソチ冬季オリンピックが開幕した。それに先立ち2月5日に掲載されたソチ五輪のテレビ観戦ガイド(ライターはオグマナオトさん)は、開会式を前に実施された競技までカバーしていて、さっそく役に立ったのだけれども、でも何かが足りないような……と思ったら、カーリングが入っていなかったのだ。

たしかにメダルの有力候補ではないかもしれない。だが、冬季五輪において、カーリングほどここ数大会のうちに日本国内でファンを増やした競技もないだろう。人気に火をつけたのは、8年前のトリノ五輪でカーリング女子日本代表となった「チーム青森」の活躍だ。

トリノ五輪のカーリング女子での日本チームの成績は、4勝5敗で7位入賞だった。順位だけ見れば、カーリングが五輪の正式種目となった長野五輪(1998年)での5位より下だが、このときの戦績はノルウェーとアメリカと並ぶ2勝5敗だった。トリノではこの勝ち数を上回ったわけだから、十分に健闘といえる。決勝トーナメント進出は逃したとはいえ、予選で強豪のカナダ(同大会で3位)に勝ったことも日本にとっては大きな一歩だった。

トリノでの日本女子チームのメンバーだった小笠原歩(当時の姓は小野寺)・船山弓枝(同、林)・本橋麻里・目黒萌絵・寺田桜子の5人は、“カーリング娘”とも呼ばれ、アイドル的人気を集めることになった。ちょうどトリノ五輪開催に合わせて、北海道の旧常呂町(現・北見市)出身の小笠原と船山がかつて所属した地元チームをモデルとした映画「シムソンズ」も公開されている。

さらに同じく2006年の11月には、東京・東伏見のダイドードリンコアイスアリーナでパシフィック選手権が開催され、大勢の人が観戦に詰めかけた。ただし、このときすでに小笠原と船山はチーム青森から退いていた。

それでも小笠原は、翌07年に出版した著書『カーリング魂。』のなかで、チーム青森から離れたといっても、引退とは思っていないと強調し、最後の章を次のように結んでいた。

《ただ言えることは、私にはカーリングしかない、ということ。
 私からカーリングをとったら、もう私ではなくなると思うのです。
 だから将来は……。
 未来のことは私にもわかりません。でもだからこそ楽しみです!
 私はまだ、本当の“ラストストーン”を投げていないのですから》

それから7年。結婚・出産を経て小笠原は、中学時代以来の盟友・船山とともにオリンピックに戻ってきた。開会式での日本選手団の入場行進では、小笠原が旗手に選ばれ、その期待の度合をうかがわせる。

もっとも、そこにいたるまではけっして平坦な道のりではなかった。すでに子供のいた2人が競技に集中するためには、新チームを結成する以前に、スポンサードしてくれる企業を探すなど復帰できる環境を整えなければならなかったという(『新 みんなのカーリング』所収のインタビュー参照)。幸いにも、北海道銀行がスポンサードしてくれることになり、また札幌市にカーリング専用リンクが完成し、活動拠点とすることができた。

2人以外のメンバーも、ほかのチームから引き抜くわけにもいかず、新たに見つけてくる必要があった。選ばれた吉田知那美・小野寺佳歩・苫米地美智子のうち小野寺は、小笠原らと同郷ながら愛知県の中京大学に在学し、すでに陸上部で活動していただけに当初はチーム入りに難色を示したという。それでも小笠原は彼女と一緒にプレイすることを熱望し、両親や陸上部の監督とも話をしつつ説得を続け、チームに入ってもらったのだった。

こうして新チーム「北海道銀行フォルティウス」は2011年に発足する。とはいえ、昨年9月の日本代表決定戦まで、日本国内でトップに立つことはなかった。それは小笠原たちが競技から遠ざかっているあいだに、日本女子カーリングのトップ層がいっそう厚みを増していたからでもある。最大のライバルは、日本選手権で2011年から昨年まで3連覇を果たしている中部電力だ。今回の五輪に向けた日本代表決定戦でも、北海道銀行と中部電力による決勝となった。

日本代表の座を勝ち取った北海道銀行だが、五輪出場のためにはさらに世界最終予選(昨年12月)を勝ち抜かなければならなかった。この時点で五輪に出られる10チームのうち8チームがすでに決まっており、残るは2枠のみ。7カ国が参加した世界最終予選の1次リーグでは中国とノルウェーとともに上位3チームに残り、プレーオフを争った。その第1戦では中国に敗れ、続くノルウェー戦に勝利して、ようやく五輪出場枠に滑りこんだのである。

ソチ五輪でのカーリングの予選は男女ともにきょう2月10日より始まり、日本女子は明日、11日14時(日本時間。以下同)から予定される韓国との試合が初戦となる。その模様は13時50分からNHK総合で生中継される予定だ。その後の日本チームの日程は以下のとおり(カッコ内はテレビでの生中継の予定)。

・11日24時〜 デンマーク戦(NHK・BS1で23時55分〜)
・12日19時〜 ロシア戦(NHK・Eテレで18時45分〜19時30分、総合で19時30分〜)
・13日24時〜 アメリカ戦(NHK・BS1で23時55分〜/テレビ東京系で25時10分〜)
・14日19時〜 イギリス戦(NHK・Eテレで18時45分〜19時30分、総合で19時30分〜)
・15日14時〜 カナダ戦(NHK総合で13時50分〜)
・16日19時〜 スイス戦(NHK・BS1で19時〜)
・17日14時〜 中国戦(NHK・BS1で14時〜)
・17日24時〜 スウェーデン戦(NHK・BS1で24時〜)
※準決勝は19日19時〜、3位決定戦は20日17時30分〜、決勝は同日22時30分〜の各予定

国内で強豪チームがしのぎを削っていることからもうかがえるように、日本のレベルが上がってきていることは間違いない。だが、《それ以上に、世界のカーリングのレベルも上がっていると実感しています。ですから、厳しい大会になることは分かっています》と小笠原はインタビューで語っている(『新 みんなのカーリング』)。それでも、彼女は一方では次のように希望を見出してもいる。

《ただ、ほとんどのチームと対戦したことがあるのですが、決して勝てない相手ではない。先日の合宿中に、世界ランキング3位(2013年12月時点)のスコットランドとも戦いました。負けはしましたが、あと一歩という試合ができました。予選リーグで全勝できるなんてことはないでしょうが、どの相手も、勝てない相手ではありません》

「ほとんどのチームと対戦したことがある」というのは、長年競技を続けてきた彼女の強みだろう。同じインタビューでは、オリンピックに臨むうえで、過去に出場した2大会(ソルトレークシティとトリノ)との違いはあるかと問われ、船山が《一度一線から離れたことで、外からカーリングを見つめ直せましたし、とても貴重な体験が増えての再挑戦だと思います》と答えている。アイドルとして脚光を浴びたトリノから、途中ブランクがあるとはいえベテランとして迎えたソチで、彼女たちを中心とする日本チームはどんな試合を見せてくれるのだろうか。

ちなみに彼女たちのチーム名にある「フォルティウス」は、近代オリンピックの提唱者であるクーベルタンの言葉「Citius(シティウス=より速く)、Altius(アルティウス=より高く)、Fortius(フォルティウス=より強く)」からとったものだ。じつはフォルティウスの名は、小笠原と船山が2004年にチーム青森を結成した際に採用したものの、のち2006年のシーズンを前に、日本カーリング協会の規約改正で変更を余儀なくされていた。それが新チームの結成にあたり、ふたたび日の目を見たわけだが、「より強く」の言葉は、いったん第一線から退きながらもまた五輪出場を決めた2人だからこそますますふさわしく思われる。肝心の試合でもぜひその名にたがわぬ活躍が見られることを祈りたい。
(近藤正高)