フィギュアの得点はどうやって決まるのか(後編)

 冬季五輪の華であるフィギュアスケートは、技術と芸術を競う採点競技である。「採点方法がわかりにくい」と言われるのは、そのこととも関係があるかもしれない。しかもその採点方法は時代によって変化している。現行のルールになったのは、2004年のこと。それまでは各ジャッジが技術点、芸術点を6点満点の相対評価で採点していたのを、個々の技の点数を決めてそれを加算する方式にした。それによりスポーツ性が高まり、ジャンプの価値が高まったわけだが、見て感じた芸術性を点数に落とし込む難しさは残った。公正さを求めて、ルールはその後もさらに改正されており、細部を見ればトリノ五輪、バンクーバー五輪、そしてソチ五輪でも、違ったものになっている。

 技の中でも大きな得点源となるのがジャンプだが、フィギュアスケートの技にはジャンプ以外にも、ステップやターン、スピン、スパイラル(片足を腰より高い位置に上げた姿勢で滑ること)、さらには「イナバウアー」や「イーグル」(クラシックバレエで言う2番のように両足を伸ばした状態で180度に広げ、つま先を外に向けて開いた状態で滑っていく技)、「バタフライ」(氷をけって体を一瞬氷と平行にする技)に代表されるムーブメント技(ジャンプやスピンの前に入れたり、つなぎに使ったりすることで評価につながる技)がある。

 種類や回転数によって細分化されたジャンプには、それぞれ基礎点という得点が明確化されて技術点に組み込まれる。その技術点には、ジャンプ以外ではステップとスピンの点数が加わる。しかし、7種類のステップと6種類のターン(注1)、多彩なスピン(注2)は、ひとつひとつの技には基礎点という得点がついてはおらず、ターンやステップ、スピンの種類と数、リズムなどの様々な組み合わせによって難度のレベルが1から4(1の前にBがあるが、シニア競技ではほとんど該当者がいない)までがついて判定される。それに審判が質(クオリティ)を判断してGOEで±3の評価を下す。

(注1)両足または片足で行なうステップには「チェンジエッジ」「クロス」「トウステップ」「ラン」「モホーク」「チョクトウ」「シャッセ」の7種類があり、片足で行うターンには「カウンター」「スリーターン」「ロッカー」「ブラケット」「ツイヅル」「ループ」の6種類がある。これらの技を滑るときに、エッジポジションの左か右か、インかアウトか、フォアかバックかの組み合わせを加え、多様なステップシークエンスが出来上がる。

(注2)基本的なスピンの技は3種類ある。1つは、まっすぐ直立したアップライト系スピンで、片足を軸に、上体を反らした状態で回る「レイバックスピン」や両手あるいは片手でフリーレッグ(軸足でない足)のブレードを持ち、背後から頭上に持ち上げた形の「ビールマンスピン」がそれに当たる。2つ目は、しゃがんだ状態のシット系スピンで、基本形の「シットスピン」は片足で"しゃがんだ姿勢"で回るスピンのこと。フリーレッグをまっすぐ前に伸ばした前傾姿勢になる。そして3つ目は、上体と片足を氷と平行の位置に保ち、T字型になって回るキャメル系スピン。この基本形である「キャメルスピン」を変形したのが「ドーナツスピン」で、フリーレッグを後ろから頭につけ、ドーナツのようなリング状にした身体を水平にする。このように、基本形にバリエーションを加えることによって様々な名前がつく。

 例えば、エレメンツ(技)の一つとして成立するステップシークエンスはステップとターン、さらにいろいろな小技で構成した一連の流れにしたものだが、このステップシークエンスがレベル4と判定されると基礎点は3.9点となる。この3.9点にGOEの加点または減点がつくことになる。

 技と技の間に見せるムーブメント技の「イナバウアー」や「イーグル」にもその技自体に明確な得点はつけられていない。日本スケート連盟のフィギュア強化副部長の竹内洋輔氏は「イナバウアーのように基礎点自体がない技は、いまのルールではコンポーネンツの中にあるコレオグラフィーとパフォーマンスなどの項目で評価されるはず」と解説する。5項目に分かれている演技構成点(プログラムコンポーネンツ)の中にある「トランジション(つなぎの要素)」や「パフォーマンス(演技力)」、「コレオグラフィー(振付)」などで評価されるというのだ。

 トリノ五輪で日本唯一のメダルである金メダルを獲得したフィギュア女子シングルの荒川静香はノーミスの演技が高く評価されてSP3位からの逆転で五輪女王になり、フィギュア史に名を残した。五輪金メダリスト荒川を語るときに必ず出るのが「イナバウアー」というムーブメント技の名前だ。

 荒川の代名詞ともなった「レイバック・イナバウアー」(背中を大きく反らせるバリエーションを加えた技で、荒川が初めて披露した)で美しく滑る姿は、観た者に強烈な印象を与えた。おそらくレイバック・イナバウアーを見せた荒川にジャッジは好印象を受け、その評価は得点に反映されたはずだ。

 だがその荒川が「イナバウアー」をプログラムに採り入れるかどうか、五輪の直前まで迷っていたことはよく知られている。フリーの演技時間は4分。明確な得点にならない技に時間を費やせば、ジャンプなど高得点を狙える他の技のための時間が短くなる。両刃の剣とも言えるチャレンジだったのだ。しかし荒川にとって、フィギュアスケーターとしての喜びを感じる技を封印することは苦痛だった。しかも舞台は、自ら最後と決めた五輪である。結局、荒川はモロゾフコーチの勧めもあり、当初の意志を貫いて「イナバウアー」を滑り、それが奏功することになったのだ。

 このように、選手自身の個性を引き出すことができる技、誰もそう簡単に真似できない技は、たとえ得点に直接結びつかなくても評価を受ける上で大きなプラスに働くことは間違いない。したがって、もしソチで荒川の「イナバウアー」のような際立った個性のあるムーブメント技をした選手には、ジャッジも好評価を与えるのではないだろうか。逆にいえば、荒川の「イナバウアー」をそっくり真似しただけでは、評価に結びつかないかもしれない。

 フィギュアスケートはショートとフリーの2つのプログラムを演技してその合計点で順位が決まる。6点満点ルールだった時代から技を点数化した現行ルールの時代に変わっても、プログラムは単なる技と技の組み合わせではなく、昔と変わらず「芸術作品」と呼ばれ、時には一枚の絵画のように「傑作」や「名作」と称えられる。

 ソチ五輪で男子シングルの金メダル候補であるパトリック・チャン(カナダ)のフリー『四季』は、ジャンプやステップ、スピンなどの技と技の間にも、チャンにしかできない技の数々を詰め込んでおり、見ごたえのあるまさに芸術作品のプログラムになっている。だからこそ、演技構成点で他の追随を許さない高得点をマークでき、それが大きな強みになっているわけだ。

 今季の男子シングルでは、そのチャンと日本の若きエース羽生結弦が、ショートやフリー、そし合計点で世界最高得点を塗り替えてきた。技術点と演技構成点のいずれでも高得点を出せる技術と芸術の両面でバランスのいいプログラム内容で、かつ、多彩な技を披露しながらミスのない演技をした選手だけが、頂点に立つ。そんな可能性を持つ男子選手はチャンや羽生のほかに、日本のエース高橋大輔や町田樹、ジェレミー・アボット(米国)らがいる。

 ハイレベルな戦いになるというのは、単に高難度のジャンプが多く見られるという意味だけではないのだ。

※技の用語説明は日本スケート連盟サイトから抜粋して参考にした

辛仁夏●文 text by Synn Yinha