2014年サッカーワールドカップ(W杯)の開催国であるブラジル。株式相場は低調だが、個人消費が旺盛な国だけに、小売業や食品などの株価は堅調だ。米国の景気回復、2016年リオデジャネイロ五輪に向けたインフラ需要などで、鉄鋼株の株価も伸びている。

相場や経済指標がどんなに低調でも、消費は盛り上がる!

ブラジル株の主要インデックスであるボベスパ指数は、2014年1月8日までの1年間で約18%も下落した。一方、GDP(国内総生産)成長率も昨年はわずか2・5%(IMF〈国際通貨基金〉予測)を見込むなど、ブラジル株やブラジル経済は、このところ低調。米国の金融緩和縮小懸念の影響で通貨レアル安が進行し、貿易赤字が大きく膨らんでいることも懸念材料だ。

「しかし、国民の消費意欲は高く、小売業者や食品メーカーなどの業績は堅調です。インデックスやマクロ指標だけを見て失望するのではなく、個別銘柄の業績に着目して、有望株を見つけてみては」と語るのはブラジルビジネス情報センター事務局長の輿石信男さん。

実は、ブラジルの貿易赤字が膨らんでいる原因のひとつは、国民の旺盛な消費にある。ブラジルは国内消費を満たせるほど、国内産業が発達していない。そのため、消費が伸びれば輸入が増え、貿易赤字が拡大してしまうのだ。そして、赤字拡大が嫌気されてレアルが売られ、輸入価格が上がり、インフレが加速するという悪循環に陥りやすいのがブラジル経済の特徴である。

「足元のブラジルの物価は、中央銀行によるインフレ誘導目標の上限である6・5%に迫り、政策金利も10 %(1月8日現在)まで上がっています。株式相場にとっては悪い材料ですが、物価が上がれば、個人消費が盛り上がりやすくなる一面があるのもブラジルのおもしろいところです」と輿石さん。というのも、ブラジルでは企業はインフレ率以上に労働者の給与を上げるように法律で義務づけられている。あまり貯蓄志向のない国民性なので、所得が増えればどんどん使ってしまう傾向があるのだ。

「しかも来年はサッカーW杯が開催されます。これによってサッカー好きの国民はますます消費を増やすことになるでしょう。特にビールの消費が伸びるとみています」と語るのは、日本で唯一、ADR(米国預託証券)以外のブラジル株取引を提供しているニュース証券の小畑直樹さん。

ブラジルは、中国、米国に次ぐ世界3位のビール消費国。しかも、ブラジル人が経営する世界一のビール会社を親会社とするアンベブという中南米最大のビール会社がある。「従来はリオデジャネイロなどの大都市がビール消費の中心地でしたが、所得の向上とともに地方でもビールの消費が伸びています。W杯でブラジル代表が勝ち進めば、ますます消費が盛り上がるはずです」(小畑さん)

消費関連で小畑さんが注目しているもうひとつの銘柄は、製薬・消費関連会社のハイパーマーカス。「医薬品や健康用品、美容用品を扱っていますが、中間層の拡大とともに業績が2ケタで伸び続けています。また、2016年リオ五輪に向けたインフラ投資の拡大や米国での住宅建設回復への期待から、鉄鋼株も株価を上げています」(小畑さん)。鉄鋼では、国内3位のナショナル製鉄などが注目株だという。

アンベブ(飲料)

中南米最大のビール・清涼飲料メーカー。ブラジル国内のビール市場シェアの約70%を握る。親会社のアンハイザー・ブッシュ・インベブは、ブラジル人のカルロス・ブリト氏がベルギーの大手ビール会社や「バドワイザー」で有名な米国のアンハイザー・ブッシュなどを買収して設立。世界一のビール会社となった。
アンベブの2012年の売上構成比率は、国内ビール事業が83%、清涼飲料水・ノンアルコール飲料事業が17%。ブラジルにおける「ペプシコーラ」の独占販売権も持っている。

株価:17.33レアル
日本円だと:約767円
売買単位:100株
時価総額:2714億6300万レアル
PER:26.47倍
配当利回り:2.60%

ナショナル製鉄(鉄鋼)

ブラジル3位の製鉄会社。国営企業として1941年に設立され、1993年に民営化した。
2012年の粗鋼生産能力は617万トン、粗鋼生産高は529万トン。製鉄事業のほか、鉄鉱石などの鉱産、鉄道輸送、物流、セメント、電力などの事業も展開。自社で産出した鉄鉱石を製鉄に回せるため、コスト管理の面で有利だ。
ブラジルの鉄鋼業界では今後、業界再編が予想されるが、国内3位の同社は規模拡大のため積極的なM&A(企業の合併・買収)に取り組む可能性もある。

株価:14.15レアル
日本円だと:約626円
売買単位:100株
時価総額:206億3000万レアル
PER:15.24倍
配当利回り:6.59%

ハイパーマーカス(食品)

一般大衆薬、パーソナルケア、美容ケア、ヘルスケア製品などを自社ブランドとして提供するブラジルの大手メーカー。2012年のアニュアルリポート(年次報告書)によると、医薬品事業では46の、消費財事業では53のブランド製品を取り扱っている。ブラジルでは中間層の拡大とともに医薬品やヘルスケア製品の需要が伸び、同社の業績も2ケタで伸長。2013年第3四半期は売上高が前年同期比12%増の11億1230万レアル、純利益が同17・3%増の8000万レアルとなった。

株価:17.37レアル
日本円だと:約769円
売買単位:100株
時価総額:109億7900万レアル
PER:32.80倍
配当利回り:0.93%

※株価、指標は2014年1月8日現在。1レアル=約44円換算。PER=株価収益率。

小畑直樹(NAOKI OBATA)
ニュース証券 海外株調査室長

日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。1975 年生まれ。日本アジア証券入社後、2010 年より現職。同社の米国株の取り扱い開始を担い、現在はアジアの新興国を担当。「投資の現場主義」をモットーに海外企業を訪問。独自視点で分析する。現在『ストックボイス 東京マーケットワイド』に出演、アジア株を解説している。


輿石信男(NOBUO KOSHIISH)
ブラジルビジネス情報センター事務局長

兵庫県出身。出版、人材開発ビジネスを経て、1993年にクォンタムを設立。95年の「日本ブラジル環境フォーラム」での事務局長などを務める。



この記事は「WEBネットマネー2014年3月号」に掲載されたものです。