香港の旧暦新年を記念して行われるAET CUPにFC東京が参加した。この大会、以前はカールズバーグカップとも呼ばれ、日本代表も1996年と2000年に、93年はB代表が参加した、歴史ある大会でもある。正月を旧暦で祝う、香港人には意義深い大会だ。

FC東京は今年の旧暦の新年である1月31日に行われた1回戦で、ポルトガル1部リーグに所属するオルハネンセと戦い、1−1と引き分けたが、決勝進出を決めるPK戦で5−6と敗れた。さらに3日後の2月3日に行われた3、4位決定戦でもロシア1部リーグに所属するクリリヤ・ソヴェトフ・サマーラに0−1で負け、4位という結果だった。

DSCN1973試合の詳細はFC東京のHPを参考にして欲しいが、FC東京はわずか1点しか取れなかった。この結果をどう見るかだが、現地のサッカージャーナリストはFC東京のコンディションが悪く、どうこう言えるものではなく、結果は関係ないと言う。確かにFC東京の試合内容はいずれも悪いものではなかったが、点が取れず、どこか乗り切れていないように見えた。就任して数週間で公式戦並の戦いを迎えたマッシモ・フィッカデンティ監督にしても、わずか10日ほどの全体練習、それもフィジカルを中心にしたもので、チームとしては始動してまもない中での、この結果には満足しているとも言っていた。

初戦で、先発した1トップの平山はボールが足に付かず、チャンスを生かしきれなかったし、2戦目で先発したエドゥーも初戦の後半に登場した時の方がよく見えた。初戦の後半に登場した石川直人は非常に切れがよく、素晴らしかったが、2戦目はそれほどでもなく、何発も外していた。

DSCN2077初戦で東と交代で入った三田は素晴らしいゴールを入れたが、先発した2戦目ではそれほど良いところはなく、後半に東と交代した。という風に選手の調子はまちまちで、まさにコンディションが問題だった

現地の他のジャーナリストからは、大会の意味がよく分からないというぼやきもあった。シーズン中とシーズン前というコンディションの違うチームが参加したことと、香港を代表したのが香港とエクアドルの混成チームというあり方への疑問だ。

だが、それでも東京にとっては良い経験になったのは間違いない。このシーズン前の時期に親善試合のようなものだが、一応カップ戦でもあり、国際試合でもあることは、得るものはあっても、失うものはないからだ。ことにチームをこれらか作ろうとしている時期に、本番に近い条件の中で選手を見ることをできたのは、監督にとって大きかったろう。

DSCN2127大会は、香港のチーム、シティズンとエクアドルのクエンカの混成チームが、シティズンのユニフォームを着て優勝を飾り、地元香港のサッカーファンには歓迎すべきものとなった。シティズン混成チームは初戦もロスタイムに同点に追いつき、PKに持ち込んで、勝利という奇跡的な試合を展開。その勢いは決勝でも止まらなかったのだ。

さらに、日本人にとっては、見るべきものがあった。シティズンの10番をつけている、日本人の中村祐人だ。優勝にも貢献し、チームにはなくてならない選手であることがよく分かった。

IMG_1859中村は青山学院大学を卒業後、香港でプロデビューした選手だ。元日本代表で現在は引退し、鳥取のGMになった岡野雅行が、2009年2月に香港のペガサスに移籍したが、中村はそれに先立つ1月にペガサスに加入していた。半年の公式戦で12ゴールをあげ、シーズン終了後の同年9月にポルトガル2部のポルティモネンセに移籍。翌年9月に出場機会を求めて、ペガサスに復帰するも、11月に退団し、日本に戻り、チームを探していたが、翌11年6月にオーナーの息子でもある監督に呼ばれてシティズンに加入。2年目の昨シーズンは9ゴールをあげて、チームのトップスコアラーになった。今シーズンも1月末現在5ゴールで、チームのトップスコアラーだ。

チームは現在5位、リーグ優勝争いは上位2チームにしぼられているが、当初オーナーの息子ということで、最初はどうだろうか思われた監督も、その後の3年間で、選手以上に努力し、監督としての中身も伴い、彼のためにもいずれは優勝したいという思いが選手に出始めているという。

中村の現在の給料は30万円ほどだが、香港でプロデビューしたこともあり、香港に骨を埋める覚悟でやっているという。夢は香港代表入りし、2020年の東京オリンピックに出ることだ。香港代表はオーバーエイジを使わないと組めないほどの実力なので、34歳だがまだまだ行けるはずと胸をはる。

そのためにも、チームで活躍し、さらにアジアで戦い、香港を強くしたいと願う中村。代表の夢もそうだが、将来は指導者としても香港のサッカーを強くすることに貢献したいとも語っていた。

現在アジアで活躍する日本人選手が多いが、その国の将来までを考える選手が登場したというのは、興味深いし、日本のサッカーが新しいフェーズを迎えていることの証明でもあるように思える。

香港リーグには、横浜FCも参入しているが、その横浜には福田健二がいる。日本を振り出しに世界を回ったストライカーが香港にいるというのも、見物だろう。事実すでに公式戦8ゴール(リーグ戦9試合で7ゴール)をあげている。

香港へ行く機会があるのなら、是非とも二人の活躍ぶりを現地で見て欲しい。香港サッカー協会(HKFA)の公式ウェブサイトに試合のスケジュールが載っているので、チェックしていくとよいだろう。