フィギュアの得点はどうやって決まるのか(前編)

 いよいよ2月7日に開幕するソチ五輪。フィギュアスケートでの日本のメダル獲得への期待が高まっている。フィギュア人気が高まるにつれ、採点がわかりずらいという声も聞こえるようになった。あらためて採点基準をおさらいしたい。

 現在、男子シングルのトップ選手は、1つのプログラムに1〜2種類の4回転ジャンプを跳んでいる。ソチ五輪でも4回転ジャンプをショートとフリーの両プログラムで計3度以上成功させた者がメダルを手にするものと予想される。

 ここであえて素朴な疑問をひとつ。あくまで机上の空論だが、もし仮に羽生結弦が5回転ジャンプを跳んだらどうなるのだろうか。何点と判定されるのだろうか。

 前回のバンクーバー五輪王者エバン・ライサチェク(アメリカ)は4回転ジャンプを跳ばずして五輪金メダルの栄冠に輝いている。つまり、この4年の間に男子は主流である3回転ジャンプから4回転ジャンプの時代に本格的に入ったばかり。まだベースになる回転数は3回転であり、4回転は現行のルールの中では高得点が得られる大技で、一握りのトップ選手しか安定した4回転ジャンプを跳ぶことができていない。

 ちなみに、ソチ五輪で多くの男子選手が勝つために跳んでくるはずの4回転トーループを、国際スケート連盟(ISU)主催の公式戦で初めて跳んだ選手はカート・ブラウニング(カナダ)で1988年の世界選手権で成功させた。その後、1990年代から4回転トーループに挑む選手が次々と出始め、五輪や世界選手権でメダリストになった強豪選手たちのほとんどは4回転をマスターした。例えば、初めて4回転+2回転のコンビネーションジャンプを成功させたエルビス・ストイコ(カナダ)をはじめ、ロシア勢では長野五輪金メダリストのイリヤ・クーリック、ソルトレークシティー五輪金メダリストのアレクセイ・ヤグディン、トリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ。そして世界選手権2大会連続銅メダルの本田武史らだ。

 初成功から26年後のソチ五輪シーズンでは、4回転トーループが主流のジャンプ技に組み込まれて、勝負には欠かせないものになった。ようやく4回転が男子の主流ジャンプになりつつあるという段階だ。5回転など漫画の世界で描かれる夢の技にすぎない。

 その5回転について、日本スケート連盟フィギュア強化副部長の竹内洋輔氏は「5回転ジャンプについては、現在はISUに事前申告しなければ基礎点がつかないジャンプとなっている」と説明してくれた。

 そもそもISUのジャッジングシステムでは、ジャンプの得点がどのように決まるのか。現行ルールのジャンプは、1回転から4回転までの回転数があり、さらに6種類の跳び方に分かれている。回転数と種類によってジャンプの基礎点がそれぞれ設定されているジャンプの価値尺度(SOV)という得点表がある。

 それによると、男子シングルではほとんどの選手が6種類の3回転ジャンプを跳んでいるが、例えば、その中で一番難易度の高い3回転アクセル(3A)の基礎点は8.5点と設定されている。この3Aのジャンプが回転不足の場合は、不足分が4分の1回転以上2分の1回転未満なら基礎点が70パーセント(6.0点)に減点されたり、2分の1以上ならダウングレードになって2回転アクセルの基礎点(3.3点)になったりする。さらにこの基礎点からジャンプの質や高さ、距離、空中姿勢などを評価するGOE(出来栄え)で±3点の加点、減点がなされたり、体力的に厳しいプログラム後半に跳ぶジャンプでは基礎点が1.1倍(3Aなら9.35点)になったりして最終的なジャンプの得点が決定する。

 転倒した場合は、転倒したジャンプ(連続ジャンプを含む)ごとにGOEで最大3点が減点される。さらに違反にあたるとして、転倒1回につき1点、全体の点数から減点される。

 ちなみに、現在のところ最高の回転数である4回転の基礎点を難易度順に言うと、トーループが10.3点、サルコウが10.5点、ループが12.0点、フリップが12.3点、ルッツが13.6点、アクセルが15点となっており、ジャンプの得点は4回転アクセルの基礎点までしか設定されていない。

 ゆえに、5回転ジャンプは現行ルールではノンリステッド(表にない)ジャンプに組み込まれ、いくら4回転よりも1回転多く回る5回転を跳んでも得点はなしということになるわけだ。ノンリステッドジャンプといえば、フリップジャンプの一種でバレエジャンプ(空中で足を横に開いて跳ぶ)も対象となっており、跳ばなければならないジャンプの1枠には組み込まれないし、得点もつかない。だから5回転もバレエジャンプも、現行ルール上ではリステット(表にある)のジャンプではなく、「価値を認めていないジャンプなので点数はなし」ということになっているという。

 このことからも、仮にソチ五輪で羽生が5回転を跳んでも、メダル争いには一つもプラスにはならない可能性が高く、無駄なエネルギーを使うことになるはずだ。もちろん、あくまでも仮定の話であり、五輪本番で羽生が挑むジャンプは4回転のトーループとサルコウの2種類になるだろう。

 では最後に、もし5回転を跳んで得点がつくようになったら何点になるだろうか。竹内氏は「ジャンプの得点設定には係数があるのでそれに従うことになる」と言う。明確な得点を出すことはできないが、独断で予想すれば、5回転トーループは20点前後に設定してもいいのではないだろうか。

 4回転を跳ぶのも至難の業と言われる現在だが、トップ選手のジャンプ技術を見ると、5回転ジャンプは夢物語ではないという気もする。人間は計り知れない能力と欲望、それに知恵と工夫を持つだけに、いつの日か、5回転時代の到来もあるかもしれない。女子選手として唯一トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳ぶ浅田真央を指導し、現役時代には2回転ルッツを日本人として初めて跳んだという佐藤信夫コーチに、近い将来、男子が5回転を跳ぶ時代は来るかと聞いてみた。

「分かりません。ないともあるとも言い切れませんね」と、答えてくれた。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha