日本を訪れた外国人観光客が初めて年間1000万人を超え、和食が無形文化遺産に登録された。2020年の東京五輪開催までに、さらに日本の魅力をアピールするならば、「懐石=KAISEKI」を世界統一ブランドとして定着させるべきだと大前研一氏は提唱する。

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 いささか旧聞に属するが、昨年12月、「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の「無形文化遺産」に登録された。

 無形文化遺産は「世界遺産」「記憶遺産」と並ぶユネスコの遺産事業の一つで、世界の芸能や儀式・祭礼行事、伝統工芸技術などが合計262件登録されている。

 しかし、かつて学生時代に観光案内業(旅行ガイド)のアルバイトで外国人約2500人の日本観光を案内し、社会人になってからも大勢の外国人と会食してきた私の経験から言うと、外国人が知っている和食は寿司、天ぷら、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ラーメン、牛丼などの「単品」だ。今回のユネスコ無形文化遺産の登録も、こうした単品料理の魅力や多彩さに後押しされたのではないかと思う。

 だが、和食の最高峰は寿司や天ぷらではなく、「懐石料理」である。その素晴らしさを外国人に理解してもらうのは至難の業だ。海外でも日系ホテル内をはじめ、主要都市には多くの日本料理店があり、なかには懐石コースと称するメニューを供する店もある。

 しかし、それらは値段が100ドル(約1万円)前後と高いし、その味には日本人の100%が落胆するだろう。となれば、外国人も満足するとは思えない。だから大半のお客さんは、「単品」を注文してしまうのだ。つまり、今のところ海外では、懐石料理の魅力は全くアピールできていないのである。

 そこで私の提案は、発想を変えて本物の懐石料理の稀少価値をアピールするマーケティング戦略を展開し、「“幻の懐石料理”を味わえるのは日本だけ」とPRすることだ。

 昨年、日本を訪れた外国人観光客が初めて1000万人を突破した。「観光立国」を標榜する日本政府は東京オリンピックが開催される2020年に2000万人、2030年には3000万人に増やすことを目標としているが、現状では6000万人近い中国や1200万人を超える韓国の後塵を拝している。

 しかし、無形文化遺産となった懐石料理を外国人向けのガイドブックなどで“神格化”して大々的にPRすれば、訪日外国人観光客を大幅に増やせるのではないかと思う。

 具体的な方法はこうだ。かつてナポレオンは、苦戦したロシア遠征の際、「戦いに勝って生きて帰れば、マキシムで奢ってやる」と言って兵士を鼓舞したとされるが、それに倣って、たとえば日本に来てお土産を1000ドル(約10万円)以上買ってくれた外国人には、日本政府が公認した懐石料理店に限り飲食代金を1万円補助してあげる、という制度を作るのだ。

 そうすれば絶大な効果があるだろう。必要なコストは1000万人の外国人旅行者の1割が申請したとしても100億円にすぎないし、懐石料理店も外国人客を満足させるために、これまで以上に味やサービスの向上に努めるはずだ。

 そうやって、まず「懐石=KAISEKI」という名称を世界統一ブランドとして定着させるべきだと思う。

 観光庁は「Japan. Endless Discovery.」というキャッチフレーズ・ロゴを使っているが、それよりも「和食の最高峰は懐石だ」という“食の頂上作戦”を世界にアピールしていくほうが、よほど賢明だと私は思う。

※週刊ポスト2014年2月8日号