現地時間2月7日に開幕するソチ五輪(一部競技は2月6日からスタート)。女子カーリングは2月10日から始まり、まずは出場10カ国による総当りのリーグ戦が行なわれる。その後、上位4カ国が準決勝に駒を進め、メダルを争う。

 その舞台に日本女子代表として挑むのは、熾烈な国内代表権争いを制して、12月の世界最終予選で五輪出場最後の切符を手にした北海道銀行。チームの中心となるのは、2002年ソルトレークシティ大会(8位)、2006年トリノ大会(7位)と、2度の五輪を経験しているスキップの小笠原歩(旧姓・小野寺)と、サードの船山弓枝(旧姓・林)のふたりだ。

 小笠原は「私たちは(世界最終予選で)10番目の枠に入ったわけですから、前評判では最下位という評価だと思います」と語るが、その分、余計なプレッシャーはない。挑戦者として全力でぶつかっていって、ひとつでも上を目指していくという。

 そのためにも、大切なのは初戦だ。日本は前回の2010年バンクーバー大会を除いて、その前の3大会はすべて黒星スタートでリズムに乗れなかった苦い経験を持つ。だからこそ、小笠原は「初戦がとても重要な試合」と強調する。

 2010年バンクーバー五輪で日本女子代表(チーム青森)のコーチを務め、現在は札幌の男子チーム「4REAL」のスキップとして、日本女子代表(北海道銀行)のスパーリングパートナーを務める阿部晋也氏も、小笠原の言葉に同意してこう語った。

「どんな競技でも、白星が先行してこそ、自分たちのリズムで戦えるようになる。特に今回の日程だと、後半にカナダ、スイス、中国、スウェーデンといった強豪との対戦が控えている。メダル争いに絡んでいくためには、前半戦でいかに貯金を作れるかが大切になってくる。そのためにも初戦は、絶対に勝たなければいけない」

 その初戦(2月11日)の相手は、世界ランク10位の韓国。世界ランク9位の日本からすれば、"格下"という見方もあるが、昨年11月のパシフィック・アジア選手権で日本は韓国に2連敗を喫した。かなり手強い相手となる。

 勝敗を左右するのは、アイスの状態をどれだけ早く読めるか、だろう。

 会場となるアイス・キューブ・カーリングセンターは、今回の五輪のために2012年に新設されたカーリング専用アリーナだ。公式大会は、昨年の世界ジュニアカーリング選手権と世界車椅子カーリング選手権が開催されただけ。そのため、どこの国もこの会場のアイスの特徴を把握していない。そこで、より早くアイスコンディションをつかんで、自分たちの思うようなショットを放つことが勝利への近道となる。

 その点、日本は世界に遅れはとっていない。とりわけ、小笠原、船山という経験豊富な選手はアイスを読む能力に長(た)けていて、前出の阿部氏も勝機があると見ている。

「12月の世界最終予選(ドイツ・フュッセン)は、よく曲がる洗練されたアイスだった。その分、参加各国がアジャストするのに苦労していた。そうした中で、小笠原選手、船山選手を中心に、日本は比較的スムーズに対応できていた。おそらく、五輪でも似たようなアイスで行なわれると思います。つまり、ふたりの経験を生かして、早い段階でアイスリーディング(氷の読み)できれば、チャンスは広がると思います」

 初戦で韓国に勝てば、上位進出の可能性も見えてくる。2002年ソルトレークシティ五輪、2006年トリノ五輪の日本女子代表コーチで、今回も代表チームのコーチを務めるフジ・ミキ氏は、その手応えもあるという。それも、小笠原、船山というふたりの成長を感じ取っているからだ。

「ふたりに始めて会ったのは、2001年。まだ、20代の女の子でした。あれから10年の時が経ち、彼女たちは結婚し、出産をして、人間的な『maturity(成熟)』が増したと思います。それは、30代にならないとなかなか得ることができないもので、他者とのコミュニケーションを円滑にさせたり、アイスの上でも生かされたりしています。さらに、札幌には立派な施設ができて、毎日ハードな練習を繰り返すことができた。その結果、体力、特に体幹と足腰が強くなった。彼女たちは選手としていちばんいい時期、充実期を迎えつつあります。プレッシャーを克服できれば、いい試合ができると思います」

 ソチ五輪開幕を前にして、札幌市内で開催された壮行会では、小笠原は晴れやかにこう語った。

「全勝するか、全敗するか、どっちかなんじゃないかな、と思っている」

 小笠原に続いて、23年来の相棒である船山は力強い決意を述べた。

「オリンピックの舞台で、堂々と、冷静に、そして貪欲に戦いながら、攻めるところは攻めにいって勝ちたい」

 世界で10番目に手にした五輪切符。確かに下馬評は低いかもしれない。しかし、アイスの状態次第で何が起こるかわからないのがカーリング。第一、6年のブランクがありながらも、小笠原と船山はそのハンデを克服した。そして、奇跡的な復活を遂げて、五輪の舞台に帰ってきた。小笠原が言う。

「私たちのプレイが、働く母親や同年代の女性にどれだけ勇気や感動を与えることができるかわからないけれども、そういう方々の"代表"だ、という気持ちを持ってソチ五輪で戦ってきたいと思います」

 経験を重ね、「カーママ」となって"成熟"した小笠原と船山。彼女たちの3度目の挑戦がまもなく始まる。

竹田聡一郎●文 text by Takeda Soichiro