日本の原子力政策…すべては東電の破綻処理から
小泉元首相が「原発ゼロ」を論じて世間の話題を集めているが、東電の状況はそう言わざるをえないほど泥沼だ。早急に根底から考え直す必要がある。

昨今、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」論をめぐる話題が各所で騒がれていますが、まず火山列島かつ地震大国の日本という国のどこであれ、再度の3・11級の地震や津波により甚大な原発事故が起こっても不思議ではないという認識を持つべきです。

そして原発政策をめぐっては、この前提に立ちながら、活断層の有無も含め大規模な天災に耐えうるかといった面からの安全性の確認も求められるとともに、高濃度の放射性廃棄物に対する処理の仕方に関して具体的な結論を得るということを根本から考えねばなりません。

東京電力(以下、東電)の現状を見れば、民主党政権時に国有化しないという愚かな決断が下された結果として中途半端な形で国民負担が増大するようになり、ますます泥沼に入っていっているような気がします。

たとえば今、東電の福島第一原発での就業希望者はほとんどいないという状況になってきているようですし、そこで実際に働いている人は疲労困こん憊ぱいしているという状況で、現場作業の管理能力が著しく低下してきているようです。また、現場に行く人すら段々と減ってきている状況にあるようですが、伝え聞くところによると定年退職した人にもう一度戻ってきてくれないかという呼びかけも行なっているらしく、これはもはや民間企業としての体を成さない状況になっているということです。

かつて優良企業であった東電に就職しようとする人はほとんどゼロに近い状況になっていくのではないかと思いますし、東電という会社が果たして利益を上げられるのか、大勢の人が疑問視しています。

莫大な借金を抱えた一民間企業が保険に入ろうにも日本の保険会社で応じるところもなく、また海外にも再保険をするところはないだろうと思われ、そうした状況の中であのような施設を持つということはとても考えられません。

さらに言うと、東電が除染費用支払いを拒否し、国はそれを黙認しているという報道がありましたが、金がないから払えないというところにまた国民の税金から金を貸し続けるというのは大問題であって、いずれ法的措置をとらざるをえないということになるでしょう。

東電の今上半期(4〜9月)の業績は経常利益1416億円ということですが、なぜそんな利益が出るのか私には理解できません。会計検査院試算では、国の東電支援金の回収は最悪31年、国が負担する利払い負担が794億円にも達するというのに、どうして国はすべての利益を回収しないのでしょうか。

問題の責任は、東電の処理の仕方を決めた民主党にも当然ながらありますが、より非難されるべきは経済産業省だと私は考えていて、原子力行政をめぐる政財官の癒着関係を利用して東電を国有化させぬようずっと動いてきたようにも思われるわけです。あのとき東電を国有化しなかったがゆえに、問題がますます深刻化していく可能性が出てきているということであり、その責任も経産省という組織にあると言いうるのではないかと思います。

東電および経産省の言いなりになって国営化しないというときに次々と東電同様のケースが生じたら、一体どうしていくというのでしょうか。

そのように考えると、小泉元首相が「原発ゼロ」と言い出すのも無理もないことであって、本当に国が「アンダーコントロール」の状況に持っていけるのであれば、原子力発電所も動かしていくべきで、もういっそのこと今のうちに原子力関係はすべて国が管理するというぐらいのことがあってもしかるべきだと思います。

今の東電を見ていても、国営処理なかりせば問題解決まで気が遠くなるほどの時間がかかる状況に直面しています。民間企業としての東電が、コスト意識と収益拡大化という中で安全対策がおろそかになっていたことは、今回の福島原発事故にすべて表れているではありませんか。国が断固たる姿勢で汚染水問題の解決に全力を挙げる、廃炉に向けて全力投球するということがなければ、「アンダーコントロール」と言っていた2020年東京オリンピック開催すらどうなるかわからないという事態にまで進展しうると、私は大変危惧しています。

今回、福島で問題化した原発は40年も前の陳腐化した技術で建設され、そうした陳腐化に対する対処もろくろく成されぬまま運転されてきたわけで、今後は将来起こりうる危機に備えて徹底した国の管理の下、何から何まで国が責任を持って取り組んでいくべきです。またそう遠くない将来に、建設されてから40年以上経つ原子力発電所が続々と出てくる状況であり、こうしたものをどうするかということも深刻な問題です。

先日、電力市場の規制緩和に向けて改正電気事業法が成立しましたが、電力行政そのものについて送電システムが東西で分離されているなどいまだに矛盾だらけの事柄がたくさん温存されているわけで、この際そうした問題すべてを変えてしまわねばならないと私は思っています。

北尾吉孝(きたお・よしたか)
SBIホールディングス代表取締役執行役員社長

1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「face book」にてブログを執筆中。




この記事は「WEBネットマネー2014年2月号」に掲載されたものです。