4年前、浅田真央はバンクーバー五輪シーズンでジャンプの不調に苦しみ、グランプリ(GP)シリーズではファイナルに進出できず、2010年1月末の四大陸選手権に実戦経験を積むために出場してから五輪に臨んだ。バンクーバーでの結果は銀メダルだった。

 今回のソチ五輪は、ファイナルを含めてGPシリーズ3戦3勝と、ライバルたちを一歩リードした形で本番に臨む。

 浅田の最大の武器であるトリプルアクセル(3A)は、試合でまだ回転不足となることもある状態だが、他の要素のレベルアップでしっかり得点を伸ばしている現状を見れば、本番でのメダル獲得は確実というところだ。

 だが念願の金メダルとなると、バンクーバーの女王であり、2010年から2年の休養を経て2012−2013シーズンから復帰したキム・ヨナ(韓国)が、どこまで状態を上げてくるかが勝敗のカギを握る。

 昨年の世界選手権女王のキムは、足のケガで今季のGPシリーズを欠場。その初戦は、GPファイナルと同時期に開催された昨年12月のクロアチアのゴールデンスピン。得点は204・49点と高得点だったが、フリーでは最初の3回転ルッツで転倒するミスもあった。

 昨シーズンも同時期のNRW杯(ドイツ)で復帰し、韓国選手権を経て2013年3月の世界選手権に臨んだことを考えれば、予定どおりの初戦ともいえる。さらに昨年の世界選手権は3年ぶりの大舞台だったにも関わらず、ファイブコンポーネンツはバンクーバーより高い73・61点を獲得し、彼女の演技構成点への評価が落ちていないことを証明した。そのため、今季のGPシリーズ欠場も、彼女の焦りにつながることにはならないだろう。

 とはいえ、キムは1月4日からの韓国選手権はほぼ完璧な演技をしてショートプログラム(SP)とフリーの合計227・86の高得点で復活を印象づけたものの、フリーの後半はジャンプでミスを連発と、不安な一面ものぞかせた。

 彼女は本番に向けてしっかりコンディションを上げてくる底力を持っているが、昨年の世界選手権が3月10日からの開催だったのに対し、今年のソチ五輪は2月19日がSP。昨年の世界選手権より約1カ月早いという時間的な問題を、どう乗り越えてくるかが見どころになる。

 キムが本来の調子を取り戻してくれば、余裕を持ったジャンプなどでGOE(技の出来ばえ)点を稼ぎ、演技構成点でも高得点を獲得する可能性がある。浅田も演技構成点は昨季より高得点を獲得できるようになっているが、キムの完成度に対抗するためには、最大の武器と自認する3Aをより完璧にこなして、加点をもらえるジャンプを決めることが必要になるだろう。どちらが勝つにしても、これまで以上の熾烈な金メダル争いになるはずだ。

 浅田とキムのふたりを追う第2グループの先頭に立つのは、順当にいけば昨年の世界選手権2位のカロリーナ・コストナー(イタリア)となるだろう。今季はまだ調子を上げきっていないが、昨年の世界選手権のフリーの『ボレロ』は、迫力十分の完成度の高いプログラムだった。

 コストナーは、最後のトリプルサルコウで転倒しても、演技構成点は優勝したキムに3点弱劣るだけだった。技術基礎点こそ浅田とキムに劣るものの、スケーティング技術の高さと、好調時のスピード感、表現力ある演技は以前から高く評価されている。演技構成点も確実に獲得できている選手であり、ソチを最後の五輪として臨むだけに、勢いに乗れば怖い存在になる。

 コストナーに加え、年が明けてから一気に金メダル候補に名乗りを上げたのがロシアの新鋭・15歳のユリア・リプニツカヤだ。12年世界ジュニア女王で、シニア初参戦の昨季はGPファイナルに進出しながらもケガで欠場していた。今季は、スケートカナダ優勝とロシア杯優勝、ファイナルでは浅田に次ぐ2位と着実に成長しているところを見せている。

 SP4位から追い上げたファイナルのフリーでは、ルッツのロングエッジや3回転サルコウの回転不足がありながら、技術点では浅田を1・06点上回っていた。だが演技構成点はすべてが7点台。表現力はあるものの、まだ拙さもあるというのが審判たちの評価だった。

 それが、1月のヨーロッパ選手権ではSPでロシア選手権優勝のアデリナ・ソトニコワに次ぐ2位で発進すると、フリーでは相変わらずルッツのロングエッジはあったものの、演技構成点でトランディション(技と技のつなぎ)以外は8点台後半を獲得し、合計209・72点で優勝。

 柔軟な体を武器にしたリプニツカヤのエネルギー溢れる演技は魅力十分だ。たしかに、ヨーロッパ選手権では、ほかの選手の演技構成点も高めにジャッジされていたため、それをどう評価するかという微妙な部分はあるが、ソチで地元・ロシアのファンの声援を追い風にすれば、メダル争いに飛び込んでくる可能性は十分にある。

 また、今回のソチ五輪に出場する他の日本勢では、昨年12月の全日本選手権で完成度の高い演技を見せて優勝した鈴木明子も、メダル争いに絡む可能性は十分ある。

 フィギュアスケート女子シングルは、SPが2月19日、フリーは2月20日。浅田真央が集大成と位置づける2回目の五輪の舞台で、どのような結末が待っているのか。日本中の視線がソチに集まる。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi