今週はこれを読め! SF編

 なんでもやるなあ、なんでもやれるなあ、恩田陸! 本書はラノベというかアニメ調というかそういう感じの小説なのだけど、パスティーシュとか形態模写ではなくベタにそれをやっていて、しかも真っ当に恩田陸の小説になっている。さすがだ。



 主要登場人物は、名家の御曹司にして名門高校で生徒会長を務める春日紫風(頭脳明晰容姿端麗で大人気)、九歳にして春日流免許皆伝となった女剣士にしてお転婆な春日蘇芳(セーラー服で太刀を振るう)、その蘇芳を凌駕する使い手にして沈着冷静な春日萌黄(袴と草履のネオ大正風の姿)。これはもう黄金のトライアングルというか、臆面もなくキャラ立ちしている。



 脇役もいずれ劣らぬ個性派ぞろい。いちばん目立つのは、甘いマスクで派手なパフォーマンスが得意、生徒会長選挙で紫風のライバルとなる及川道博(取り巻きの女生徒からはミッチーと呼ばれている)。彼は家同士が決めた蘇芳の許婚で本人もそのつもりなのだが、蘇芳からは疎まれている。それ以外にも、「とれびあーん」などと口走るパリ出身のグラマラス美人の双子とか、金髪縦ロールに「天下無双」のハチマキを締めたサムライ気風の巨体留学生とか。



 キャラクターばかりではなく、文章のなかにラノベ的な紋切り型を(いきすぎない程度だが)取り入れており、台詞まわしにも大袈裟でコミカルな調子がしばしばみられる。また、ももいろクローバーZや『蜘蛛巣城』といったオタク好みの引用が平然とされる。



 キャラにせよクリシェにせよネタにせよ、通常の小説観に照らせば軽薄で下手(げて)と見なされるのだが、恩田陸はそれらを異様な世界設定とマッチさせて効果をあげてしまう。逆に言えば、この作品は外連(ケレン)が利いた世界なので、通常の人物や表現だとちぐはぐになってしまうのだ。



 作中に「このあいだアトムの還暦をどこかでやっていた」という言及があるので、時代は西暦二〇六〇年代。かつて経済大国としての歪みから脱却するため、英雄「暁の七人」が日本の伝統回帰を断行してミヤコという区域を打ちたてた。その七人の家系は名家として崇められており、春日家はそのなかでも一番の権勢を誇っている。ただし日本全体としてみると、企業利益と個人快楽を追求しつづける「帝国主義」も残存しており、外国とさかんに貿易をしたり万博を開いたりしている。ミヤコと帝国主義がモザイク状に入り混じった状況は、よその国々から「ゴシック・ジャパン」などと呼ばれている。



 さきほど生徒会長選挙における紫風とミッチーの対決にふれたが、これは学園内のことにとどまらずミヤコの治世そのものへとつながってくる。学園自治が一般行政とほぼ等価というあたりはいかにもラノベ的だが、もちろん恩田陸はそれも織り込んで設定をつくっているはずだ。紫風はミヤコの精神を継ぐ立場(ただし、それに拘泥してるわけではない)。かたやミッチーは血筋こそ「暁の七人」に連なるが、要領よく帝国主義とつながって物質的快楽を称揚している(ただし、たんなるお馬鹿キャラでななくウラがありそう)。このほかにもチョイ役だが、全共闘的な正義を振りまわすミヤコ改革派の長渕省吾という立候補者も登場する(お察しのとおりの暑苦しいキャラだ)。



 このように政治思想的にミヤコ、帝国主義、改革派が拮抗しているところに、そのいずれにも属さない「伝道者」なる秘密結社(?)が割りこみ、生徒会長選のさなか紫風を襲う。本書の最初のエピソードでは、伝道者の周到な襲撃を紫風・蘇芳・萌黄の三人がいかにして撃退するかが描かれる。そして「伝道者」が何を狙っているかが、全篇を通じての大きな謎となる。さらにミヤコの起源にまつわる秘密(「暁の七人」は本当に英雄だったのか?)へと接近し、荒俣宏『帝都物語』を思わせるオカルトな都市ヴィジョンが展開される。また、年少者の精神感応力がらみの機密プロジェクト(けっきょく遺棄された)が仄めかされるあたりは、ちょっと大友克洋『AKIRA』みたいでスリング。



 とはいえ、秘教的伝奇あるいはサイバーパンクのような意匠へと流れることなく、もうちょっと軽いトーン(学園バトルのフォーマット)にまとめあげているところが面白いし、かえって新鮮に映る。それを彩るミズスマシ型ロボット、ジェル状の兵士、ダイオード漫画といったレトロ・フューチャー風の小道具も良い感じだ。



(牧眞司)




『雪月花黙示録 (単行本)』
 著者:恩田 陸
 出版社:KADOKAWA/角川書店
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