■始動直後から高負荷トレーニング。アーノルド仙台衝撃の始動

「きつかったです」1月18日の始動日初日の練習を終えた渡辺広大はメディアの前で開口一番こう語った。オーストラリア国籍のグラハム・アーノルド監督による初練習となったこの日の仙台の練習は、ここ数年の手倉森誠前監督による初練習とは全く様相が異なっていた。手倉森前監督は仙台での初練習は軽く身体を動かす程度で、負荷は最小限にとどめ、南国でのキャンプ開始後に負荷の高いフィジカルメニューを課していた。

ところがアーノルド監督は始動日初日から負荷の高いトレーニングを課した。初日の練習はシャトルランを何本も行うなど、走るメニューが非常に多く、100分間行われた。オーストラリアのセントラル・コースト・マリナーズでアーノルド監督と共に仕事をしてきた新任のアンドリュー・クラークフィジカルコーチがフィジカルトレーニングを指揮。選手と共に自らもシャトルランを行うなど、精力的にハードなトレーニングを引っ張った。

19日の練習2日目はシャトルランも行ったが、ポゼッション練習を長めに行うなど、ボールを使ったメニューが多くなった。まるで週末に公式戦があるかのようなハイペースでハードなメニューの連続に、多くの選手も驚きを見せていた。

アーノルド監督は初練習後「シーズンを過ごしていく中でコンディションを最高に高めなければならない。Jで成功を収めていきたいのであれば、フィットネスが非常に重要になる」と狙いを説明。シーズン前にみっちり鍛えて、シーズン通して動ける身体をつくろうとしている。長らく始動日は軽いメニューというのが通例の仙台であったが、アーノルド監督のハードトレーニングは大きな衝撃を与えた。

■一体感重視で手倉森体制からのスムーズな移行に期待感

アーノルド監督は14日の監督就任会見で「チームは個人よりも重要だ。11人の個人は良いチームに勝てない」チームの一体感を非常に重視している。「(オーストラリア代表で共に仕事をした)フース・ヒディングから学んだが、コミュニケーションというものが成功へのキーであると常々言っていた。選手とは緊密な関係を築きたい」と抱負を語り、練習中には多くの選手に自ら話しかけるなど、精力的にコミュニケーションを取ろうとしている。

選手の方も「ミーティングでもファミリーを強調していた。自分なりにコミュニケーションの場を作りたい(石川直樹)」「コミュニケーションを非常に取ってくれて優しいお父さんというイメージ(渡辺広大)」監督とのコミュニケーションを積極的に取ろうとしている姿勢が見られた。

こうして積極的にコミュニケーションを取ろうとし、一体感を重視する姿勢は、手倉森前監督に通じるものがある。「手倉森前監督には敬意を表している。コーチングスタッフにもファミリー感があり、親しみやすい。それは今までの方々が残してきた素晴らしい遺産。その遺産を受け継ぎたい」とアーノルド監督自身もこれまで手倉森前監督が築いたチームをリスペクトしている。こうした意味でも手倉森体制からのスムーズな移行が期待できそうだ。

■攻撃的中盤を分厚くした今シーズンの補強

今シーズンの新加入選手は7名。チームを離れたのは9名だが、うち3名は昨シーズンも期限付き移籍中の選手。登録選手27名でのスタートとなる。

主力選手は6年半正GKとして活躍した林卓人の広島移籍が痛手だ。ただ、これまで在籍していた桜井繁や関憲太郎も他クラブで正GK経験を持つ。新人のシュミット・ダニエルは196cmの長身で、即戦力の期待がかかる。3名のGKが競い合って林の穴を埋められるかどうかが鍵だ。その他の主力選手は残留。松下年宏、田村直也といった複数ポジションこなせる中盤の選手がチームを離れたが、ボランチやサイドバックをこなせる武井択也や、中盤をどこでもこなせる八反田康平の加入で戦力の穴埋めを行った。

注目すべきは攻撃的な中盤の選手の補強。ヘベルチがチームを離れたが、新たにニュージーランド代表マグリンチィを獲得。「オーストラリアリーグでは3本の指に入る」とセントラル・コースト・マリナーズで共に戦ったアーノルド監督もその実力を絶賛。スピードがあり、チャンスメイクができ、シュートまで持っていける選手であり、唯一アーノルド監督のサッカーを知る選手として大きな期待がかかる。練習のランニングでは先頭を走り、先述のシャトルランでも疲れた様子を全く見せず、スタミナにも期待できそうだ。

そして、左足のスペシャリスト鈴木規郎も獲得した。「もう一花咲かせたいと思ってここへ来た」と今回の移籍に賭ける思いは強い。DF登録となったが、システムによっては中盤起用も考えられる。

昨シーズンポゼッションの質は向上したものの、得点力に乏しく、勝ちきれない試合が続いた。それを踏まえて、攻撃的な選手に厚みを加え、的確な補強ができたと思われる。

長期政権となった手倉森体制から、アーノルド体制へ移行した仙台。一見唐突な路線変更にも見えるが、練習の様子や補強した選手を見る限り、これまで手倉森前監督が築き上げたものを継承しつつ、より発展させていこうというクラブの狙いが見える。その狙いが的中するかどうか。アーノルド監督の今後のチームづくりに要注目だ。

■著者プロフィール
小林健志
1976年静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。ベガルタ仙台オフィシャルサイト・出版物や河北新報などでベガルタ仙台についての情報発信をする他、育成年代の取材も精力的に行っている。