岐阜の監督に就任して、いろんな人から言われるよ。
「ラモスさんは監督業が好きなんですね」

いやいや。ちょっと待ってくれ。僕はピッチにいるのが好きだ。だからプレーするのは大好き。だけど監督業はちょっと違う。ピッチからは少しだけ離れる。

ピッチの上では、下手なプレーをすると文句を言われるけど、いいプレーができれば歓声が聞こえる。どよめきは本当に気持ちがいいんだよ。

だけど、監督は文句を言われるだけだ。勝てば選手が賞賛され、負ければ監督が非難される。勝てなかったらメディアはすぐ選手の声を拾って監督のせいにする。監督の指示したプレーを選手が出来なくても、監督が悪いことになるんだ。

メディアは選手が口をきいてくれなくなるのが怖いからね。だからすぐに選手にすり寄っていくようにも見えるよ。

監督は本当にストレスが溜まる職業だ。正直に言えば、どうしてみんなこんなに監督になりたがるのか理解できない部分もある。

じゃあ、どうして今回僕が監督を務めようと思ったか。それは僕を必要と言ってくれたから。苦しいクラブの現状を正直に教えてくれて、その状況を打破するのに僕が必要だといってくれたからだ。

その熱い気持ちに心が打たれたよ。2006年、東京Vの監督に就任したときも、J2落ちしたクラブの苦境が見ていられなかった。自分の名声に傷がついても、どんな形でもいいからJ1に復帰させたかった。あの時の、胸一杯に広がった熱が今回も湧いてきたんだ。

ただ、前回は昇格レースというのが前提だった。今回は降格しかかったチームをベースからしっかり積み上げるという仕事だ。どちらも別の次元の難しさがあるけれど、今回のほうがやらなければならないことは多いだろう。

選手だったら、しっかりプレーしていればいいのだけど、監督は様々なことに気を遣わなければならない。やっぱり監督業って、とことん辛いだけの職業かもしれないね。