【佐古賢一のカットインNBA】

 ウェスタン・カンファレンスの首位争いが激化している。1月21日現在、1位のサンアントニオ・スパーズ(32勝9敗)、2位のオクラホマシティ・サンダー(32勝10敗)、そして3位のポートランド・トレイルブレイザーズ(31勝11敗)は、すべて勝率7割以上。わずか1.5ゲーム差の中で3チームが競い合っている。その中で気になるのは、2位のサンダーだ。昨年末、ポイントガードのラッセル・ウェストブルックがひざの手術のためチームを離脱。2月のオールスター明けまで欠場することになった。主力を欠いたサンダーの今後はどうなるのか、「ミスター・バスケットボール」佐古賢一氏に話を聞いた。

 たしかにラッセル・ウェストブルック(PG)が欠場してから、オクラホマシティ・サンダーの勝率は少し落ちています。ただ、現状がすべて悪い方向に向かっているとは言い切れません。なぜならば、ウェストブルックを欠いた今、チームメイトが急成長を見せているからです。

※ポジションの略称(C=センター、PF=パワーフォワード、SF=スモールフォワード、SG=シューティングガード、PG=ポイントガード)

 まず、ウェストブルックとともにサンダーの得点源であるケビン・デュラント(SF)は、コート上にウェストブルックがいなくても、リーダーシップを発揮するようになりました。昨シーズン、ウェストブルックが故障したときは、ひとりになったことで調子を崩してしまい、プレイオフでいい結果を残せませんでした。思うようなプレイができないことでストレスが溜まり、テクニカルファウルをもらうケースも多かったです。しかし今は、非常に落ち着いたプレイでコンスタントに得点をマークしています。おそらくデュラントは、昨シーズンの反省を踏まえたのでしょう。

 昨年、プレイオフで早々に敗退したときは、周囲から多くのバッシングを受けました。しかし、デュラントはそんな外部の声をしっかりと受け止め、自分自身の悪い部分を修正したのです。それは、リーダーとしての自覚が相当高い証拠でしょう。また、デュラントは現在、手首を痛めているにもかかわらず、休まずに出場しています。その点でもリーダーとしての自覚を感じます。本来ならプレイタイムに制限を設けて、1試合25分程度に抑えてもいいはずです。しかし、ウェストブルック不在の今、デュラントは約40分間、しっかりとコートに出ています。これはまさしく、「自分がサンダーを引っ張るんだ」という気持ちの表れでしょうね。ウェストブルックがいなくても、得点を量産してチームを牽引していこうとする姿勢が全面に出ていました。その結果、デュラントの1試合平均30.6得点は、2位のレブロン・ジェームズ(マイアミ・ヒート)を平均4得点以上も引き離して堂々のリーグ1位。自身4度目なる得点王に輝く可能性は十分あるでしょうね。

 一方、ウェストブルックの欠場によってスタメンに起用されたレジー・ジャクソン(PG)も、徐々に自分のカラーを出せるようになってきました。ジャクソンはプロ3年目の若手で、過去2年間の出場時間は11〜14分程度でした。しかし、ウェストブルックの離脱によって長時間コートに立つことで、本来持っている得点力を発揮しつつあるのです。もちろん、まだミスも多く、ウェストブルックの穴を埋めるまでには至っていません。ただ、ジャクソンの攻撃力には伸びしろを感じます。

 ウェストブルックとジャクソン――。ふたりともポイントガードというポジションですが、タイプはまったく違います。ウェストブルックはゴールに向かって最短距離で切り込んでいきますが、ジャクソンは人と人との間をすり抜けてドリブルしていくタイプ。どちらも自らフィニッシュするのを得意としていますが、ポイントガードとして両者は別物なんです。

 今のNBAは、ポイントガードにいろんな役割が求められています。昔のように、ボールを運んでパスをすればいいわけではありません。タイプの異なるジャクソンが成長すれば、ウェストブルックの復帰後、両者を同時に「ツーガード」としてコートに立たすかもしれません。そうなれば、サンダーの攻撃はバリエーションが増えるので、さらに面白くなりそうです。

 また最近、パワーフォワードのセルジ・イバカ(PF)が驚くような3ポイントシュートを決めるようになりました。以前は「守備の人」というイメージでしたが、攻撃時にデュラントがインサイドに入ると、イバカがアウトサイドに開いて3ポイントシュートを狙うのです。そして、その確率が意外といい(笑)。しかも、ゲームを決めるような大事な第4クォーターで、イバカが3ポイントシュートを炸裂させるのです。これが何本も入りだすと、相手はどう対応していいのか分からなくなります。インサイドに絶対的なゴールゲッターのデュラントが待ち受けていますからね。新たに手に入れた「イバカの3ポイント」というチョイスは、相手にとって実にやっかいでしょう。

 このように、ウェストブルックの欠場は確かに痛手ですが、チームメイトがそれぞれ成長したことで、さらに選手層が増したように感じます。昨シーズンは、ケンドリック・パーキンス(C)、セルジ・イバカ(PF)、ケビン・デュラント(SF)、タボ・セフォローシャ(SG)、ラッセル・ウェストブルック(PG)の5人でスターターを固定していました。逆にいうと、この5人の出場時間がすごく長かったのです。しかし今は、レジー・ジャクソン(PG)や、2年目のジェレミー・ラム(SF)の台頭により、非常にバランスが良くなったと思います。

 ウェストブルックの受けた内視鏡手術は身体への負担が軽いので、おそらく2月末ごろには復帰できるでしょう。すなわちウェストブルックは、今年のプレイオフまでに完璧にコンディションを整えてくるつもりなのです。ウェストブルックが復帰したとき、チーム内でどんな化学反応が起きるのでしょうか。非常に楽しみです。

 サンダーはこれまで「オフェンスのチーム」と言われてきましたが、最近はディフェンスも安定しつつあります。NBAを制覇するには、ディフェンスの強化も必要だということがチーム内に浸透してきたのでしょう。昨シーズンと比べると、平均失点数はかなり減りました。従来の得点力はそのままに、120点以上奪い合うようなゲーム展開になっても、90点台のロースコアでの勝負になっても勝利を収めています。チーム全体の成長を促したという点では、ウェストブルックの離脱も悪いことばかりではありません。今はチームをさらにレベルアップさせる大事な時期。そしてウェストブルックの復帰後、サンダーはさらに強くなると思います。

取材協力:WOWOW

佐古賢一●解説 analysis by Sako Kenichi