2014年注目のアスリートたち(6)

 若きヒロインが次々に誕生している日本女子ゴルフ界。その中でも2014年シーズン、最も注目されるのは、渡邉彩香だ。

 2012年3月に高校を卒業すると、同年夏のプロテストに一発合格。秋にはクォリファイングトーナメント(QT)で29位に入り、翌年のツアーフル参戦を確定させた。そして2013年シーズン、10月の富士通レディースで優勝争いに加わる(2位)など、ルーキーイヤーながら賞金ランク46位という成績を残して、見事今季のシード権を獲得した(50位以内でシード権獲得)。

 172cmという長身を生かして放たれるロングドライブが魅力の渡邉。今季は、プロ初勝利はもちろんのこと、一層の飛躍が期待されるが、将来を嘱望される"大器"が目指すものは何なのか。その素顔と本音に迫った――。

「プロ1年目のシーズンは、楽しいこと半分、大変なこと半分という感じでしたね」

 プロとして、初めてツアーフル参戦を果たした昨季を振り返って、渡邉はそう言って笑った。確かに、ツアー前半は予選落ちが多く、なかなか結果を残せなかった。

「シーズン前は『優勝したい』とか『シード権を獲りたい』とか目標を掲げていたんですけど、ツアーが開幕してすぐに(それらの目標は)遠くなってしまいました。シーズン前半は、なかなか結果を出せませんでしたから。それは、まずトーナメントそのものや、試合までの間の、流れとかリズムとか、そういうものに慣れていないということがありました。

 でも、それ以上に大きかったのは、パッティングですね。ショットは良かったんですけど、パッティングが下手で『パターが、パターが......』って焦っているうちに、ショットの調子までおかしくなってしまって......。それと、ボギーが多いのも気になって『ボギーを減らしたいな』と思っていたら、失敗することを恐れて、逆に自分らしさを失ってしまい、(ボギーではなく)バーディーが減ってしまった。前半戦はもう、いろいろなことが悪循環でしたね」

 ただ、苦しい状況の中でも、渡邉は自らの課題を明確にし、克服するための努力を怠らなかった。

「パッティングに関しては、開幕戦のときにアン・ソンジュさんと吉田弓美子さんの(パットの)ボールの転がり方を見て、自分との違いがすぐにわかったんです。それで、これはパターを上達させないといけないと思って、いろいろな人に練習方法を聞いたり、さまざまなパターを試したりして、徹底的に練習しました。練習のうち、8割ぐらいはパターの練習をしていたと思います」

 すると後半戦、予選落ちを繰り返すことがなくなり、徐々に安定した成績を残せるようになってきた。

「(その要因は)パターが入るようになったからです。春からずっと練習をしてきて、夏ぐらいに『これだけ練習したんだから大丈夫』って思えるようになったんです。それから、だんだん自信を持って(パットを)打てるようになって、結果も出せるようになってきました。そして、それが実を結んだのが、(10月の)富士通レディースでした。

 最終日は(悪天候により)中止になって残念でしたが、富士通のコース(千葉県/東急セブンハンドレッドクラブ・西コース)は、距離も長くてタフなセッティングだったので、試合前からロングヒッターの自分にとっては『チャンスかな』と思っていたんです。そうしたら、実際に初日からいいゴルフができて(2アンダー8位タイ)、結果的には単独2位で終えられた。そのとき『練習は嘘をつかないな』って、つくづく思いましたね」

 この富士通レディースの結果は、渡邉に自信を与えた。さらに、獲得賞金を積み上げて一気にシード権獲得ライン(賞金ランク50位以内)が見えたことで、モチベーションも増したという。そして11月、森永製菓ウイダーレディスで4位タイ、伊藤園レディスで7位タイという好成績を立て続けに残して、賞金ランク50位以内を確定させ、2014年シーズンのシード権を手にした。

「伊藤園のときは、実は精神的にはかなり厳しかったんですよ。予選落ちしたら(シード権獲得は)危うかったので......。それでも、同期の(比嘉)真美子に気遣ってもらったりする中で、初日にいいゴルフができた(3アンダー11位タイ)。その流れのまま、最終的に7位になれて、『これで(シード権は)もらった!』って思いましたね(笑)」

 プロ1年目から見事シード権を獲得した渡邉だが、そもそもゴルフはどういうきっかけで始めたのだろうか。子どもの頃から「好きだな」「やりたいな」と思うことは自ら積極的に取り組むタイプだったというが、ゴルフに関してはそうでもなかったらしい。

「父親がゴルフ好きで、練習場などに私を連れていってくれて、それで自然に私もゴルフを始めたらしいんです。それが、10歳ぐらいですね。父親が言うには、『この子は無理やり何かをやらせても続かないので、自分から"やる"って言い始めるまで待っていた』そうです。

 中学校に入ってからは、それまでやっていた水泳もやめて、ゴルフに専念するようになりました。周りにゴルフをやっているような子もいなくて、他の人と違うことをやっているというのがよかったというか、楽しかったですね。また、当時から身長が高くて、パワーがあったので、周囲の人たちから『(ボールを)飛ばせ、飛ばせ』って言われて......。それに乗せられて、自分も調子に乗って、飛ばすことばかり考えてゴルフをやっていたんです。それが楽しくて、どんどんゴルフにはまっていきました」

 のめり込むと、とことんやる性格の渡邉は、学校から帰ってくると毎日練習場に行って、ひたすらボールを打っていたという。飛距離もみるみる伸びて、地元・静岡県内のジュニア大会で奮闘し、中学3年生のときには全国大会でも輝かしい結果を残した。

 高校は、ゴルフをするために埼玉県の名門・埼玉栄高校を選んだ。両親は彼女の希望を尊重してくれたが、条件がひとつだけあったという。自宅のある静岡県熱海市から通うことだった。

「自宅から毎日、2時間以上かけて通学していました。でも、学校は楽しかったですし、部活も面白かったので、まったく苦になりませんでした。普通の高校生のように、買い物に行ったり、カラオケに行ったりして遊びたいと思ったこともなかったですね。私はスポーツクラスで、競技は違ってもクラスメートのみんなが、全国大会で結果を出すことを目指してがんばっている子ばかりだったんです。誰もが毎日部活に励んでいて、私も同じようにゴルフに打ち込んでいました」

 ゴルフに打ち込んだ3年間。高校3年生のときには、目標だった全国大会の団体戦で優勝を飾った。

「それが『プロになろう』と思ったきっかけでした。両親も含めて、周りの人たちは、私が当然プロを目指すと思っていたみたいですが、全国大会で優勝するまでは、(大学への)進学も考えていたんですよ。初めて、言いますけど(笑)」

 そして2012年、プロテストで一発合格し、2013年、プロ1年目でシード権を獲得した。渡邉のゴルフ人生は、まさに順風満帆。迎える2014年シーズンはいよいよ、ツアー優勝の期待がかかる。そのために今、渡邉は日々トレーニングに励んでいる。

「昨季は、リカバリー率(パーオンしなかったホールでパーかそれよりも良いスコアで上がる率)、パーセーブ率(パーかそれよりも良いスコアで上がる率)が悪かったんです。そこは大きな課題だったので、このオフはパティングやアプローチといった、ショートゲームの練習に力を入れています。

 同時に、フィジカルトレーニングもやっています。昨季の前半はツアーに慣れずに疲れて、コンディションを整えることぐらいしかできなかったんですが、夏以降は、週に1回は体に負荷をかける筋トレを始めたんです。そうしたらシュットが安定して、ドライバーの飛距離もさらに出るようになった。その重要性を知ったので、今でも継続しています。でも、あまり(体が)ムキムキになるのはどうかと思って、その辺はトレーナーさんに言って、メニューを調整してもらっています(笑)」

 まだ20歳になったばかりの女の子である。さすがに体型は気になるだろうし、お洒落もしたい年頃だ。最近は、ネイルにもはまっているという。

「プロになって、お洒落にも気を使うようになりましたね。ネイルも可愛いなって思ってやり始めて、今ではゴルフ以外の楽しみのひとつになりました。しっかりリフレッシュもしています。休みの日は家にいないですね、活動派です(笑)。愛犬のポメラニアンと一緒に車で出かけたり、友人と買い物したり、食事をしたりしていますね。好きな男性のタイプですか? 一緒にいることで、自分ががんばれるような人がいいですね。結婚も、いい人がいればいつでもしたいと思っていますけど......、20代のうちにできればいいかな」

 さて、渡邉にとって大事なシーズンとなる2年目。目標はどこに置いているのだろうか。

「まず1勝? そうですね。夏くらいまでには(1勝)したいですね。ただ、今の自分の実力では、最終日最後の9ホールで、誰かとスコアを競って勝つのは厳しいかな、と思っています。自分が勝てるとしたら、前半で大きくリードして、後半は耐えて逃げ切るパターンしかない。(今季は)そういう状況が作れて、勝つことができたらいいな、と思っています」

 勝つことはもちろんだが、渡邉には最近、大きな夢ができたという。「海外メジャー大会での優勝?」と聞くと、彼女はゆっくりと首を振った。

「それも夢のひとつですが、2020年に開催される東京五輪に出場したいんです。高校のクラスメートや先輩、後輩たちが、さまざまな競技で五輪に出場していたり、メダルを獲ったりしている。その姿を見てすごいと思ったし、逆に知っている人たちが活躍しているのを見て、変な言い方ですけど、五輪というものが身近に感じたんです。それで、東京で開催されることが決まって、『自分も出てみたい!』と強く思ったんです。世界ランキングでかなり上位にならないといけないので、とても難しいことなのですが、そこを目指して、挑戦していきたいです。そして6年後は、自分もちょうどプレイヤーとして充実している年齢になりますし、東京五輪に出場してメダルを獲りたいですね」

 そのとき、渡邉のウエアは、上下黒で統一されているに違いない。それが、戦闘モードに入る彼女の"勝負服"なのである。今シーズン、そんな渡邉の姿がトーナメントの最終日にどれだけ見られるだろうか。

取材協力:函南ゴルフ倶楽部

佐藤 俊●文 text by Sato Shun