テニスメジャー大会の初戦であるオーストラリアンオープン(全豪)が開催されるメルボルンに、2014年もクルム伊達公子の姿があった。

 昨年の全豪で、彼女は08年からの再チャレンジ後、5度目の出場で全豪初勝利を挙げた。1996年以来17年ぶりに、42歳で全豪シングルスでの勝利を手にし、68年のオープン化(プロ解禁)以降の大会女子最年長勝利記録を樹立したのだった。

 そして、09年から6年連続出場となった今年の全豪、クルム伊達の1回戦の対戦相手は、予選から上がってきた初出場のベリンダ・ベンチッチ、16歳。昨年、ローランギャロス(全仏)とウインブルドン(全英)のジュニアタイトルを獲得し、将来を嘱望されているスイスの新鋭だ。

 WTAランキングは、クルム伊達が80位、ベンチッチが187位。経験に勝る43歳のクルム伊達が優位に思えたが、試合はフルセットまでもつれた。ファイナルセットでは、疲れの見えるクルム伊達が本来得意なはずのラリー戦でミスを重ね、結局、4−6、6−4、3−6で敗戦。2年連続の初戦突破はならなかった。

「ストロークのリズムをつかみきれなかった。(ケガをしていた)肩の心配はありましたけど、1回戦はいい状態で戦えた。(ベンチッチのボールは)直球系なので、弾道も低いですから、その分肩の痛みを感じずに打てることが多くて助かりました。ただ、ミスになったボールも多かった。第2セットは取りましたが、その後、体力的にガクッと落ちてしまい、厳しかったところはあった」

 長いラリーでスタミナを奪われたクルム伊達が、ファイナルセットに反撃する余力がなかった原因のひとつは、昨年末のオフシーズンの過ごし方にある。例年より長くオフは取れたものの、腰や肩のケガの回復の具合いが芳しくなく、思うように練習やトレーニングを積むことができなかったのだ。

「当然、筋量は落ちているので、その分ファイナルセットに自分のパワー不足を感じてしまったが、それも仕方がなかった」

 さらにさかのぼると、クルム伊達は昨年、3月にマイアミで腰を痛めてから、100%の状態でプレーできる機会が少なかったという。

「昨年、ケガがない時はいいテニスができていましたけど、腰を痛めてから常に体のどこかに不安を抱えながらプレーしなければならなかった」

 体のリカバリーやケガの回復に費やす時間が増えてしまうと、どうしてもパフォーマンスが下がる傾向に陥る。昨年のような悪循環を繰り返さないために、ケガをすることなくツアーを回ることが、今季を成功に導くカギになるとクルム伊達は考えているのだ。もちろん年齢を重ねるにつれて、体のケアやコンディション維持が難しくなることは承知しているが、その目標を達成するための対策を考え続けている。

「今から筋力をアップするのは難しいですから、いかに今の筋力を維持するか。普通に生活していても、この年齢になれば、筋力はどんどん衰えていく。それを、アスリートのレベルで考えた時、アップというより、いかに落とさないかですね」

 また、14年シーズンは、錦織圭が元世界ランキング2位のマイケル・チャンをコーチに招聘し、ロジャー・フェデラーが、元世界ランキング1位のステファン・エドバーグをコーチに迎えるなど、すでに引退した名選手の現場復帰が相次いでいる。

 そうした話題についてクルム伊達は、「(新しいコーチに)シュテフィ・グラフ、と言わせたいんでしょう?(笑)」と笑顔で答えたが、元名選手をコーチに起用する予定はなく、「自分で自分をコーチングしていかないといけない」と語る。

「私の場合、そんなに(キャリアの)先が長いわけではないし、(新たなコーチを雇うのは)すごく難しいところですね。今自分が持っている力をどう使って、どうやってプレーしていくかを考えていかないといけない。基本的にはほとんど自分で考えてやっていくと思います。"プレーヤーも私、コーチも私"ということです」

 今シーズンのテーマに掲げているのは「いかに省エネテニスで、いかに効率よく、いかに自分のパフォーマンスをキープできるか」ということだ。ツアーに同行する中野陽夫コーチも、「いいシーズンにできたらいいですね」と笑顔で語る。

 2014年を昨季以上のシーズンにするために、自らがやるべきことを十分理解し、クルム伊達は次の試合に向けて走り続ける。

神 仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi