ゴール前の帝京大の凄みは、何といったらよいか。赤いジャージの束が殺到し、これでもか、これでもか、となだれ込んでいく。

 第50回全国大学選手権の決勝である。早稲田大に5点差に詰め寄られたあとの後半30分だった。帝京大主将のCTB中村亮土(りょうと)が振り返る。

「あの場面、自分たちの力はここから出てくると思い、気持ちをひとつにしたのです」

 早稲田のハンドリングミスのボールを拾い、逆襲し、ゴール前にラックができた。そこからの連続攻撃は15フェーズ(局面)も続いた。赤いFWが次々とサイドを突いて、最後はフッカー坂手淳史がからだを反転させながらインゴールに飛び込んだ。

 試合終了直前、早大にトライを返されたが、41−34で押し切った。空前の大学選手権5連覇である。グラウンドのフィフティーンも、控えの部員たちも、スタンドを赤く染めた応援団も、そして岩出雅之監督も「最強の笑顔」を浮かべた。

 岩出監督が宙を舞う。「正直なところ、ホッとしている気持ちが大きかった」と笑う。この日のテーマが「最強の笑顔」だった。

「最強の笑顔は、最強のハートがあればこそ。ベースとして、この最高の舞台でプレーをできるみんなは幸せなんだと。学生はよく頑張った。今日の勝因はフォワード(FW)の頑張りです」

 とくにスクラムである。

 早大が今季自信をもってきたスクラム。それを揺さぶった。相手フロントローが3人とも4年生に対し、帝京大の3人は3年生ひとりと、2年生ふたり。

「成長の兆しを感じていた」という岩出監督は、前日のミーティングではスクラムについてだけ話をしたそうだ。

 なんといっても、8人でまとまる。同じ方向に一緒に押す。早大の3人を研究し、それぞれの特徴を押さえるため、右に左に押しを集中させるようにした。

 結果、早大ボールのスクラムの球出しを狂わせ、ひとつ目、ふたつ目のスクラムでボールを奪取した。3つ目のスクラムではコラプシングの反則をもぎとった。このPKをタッチに蹴り出し、トライに結びつけた。

 今季、スクラムでは早大にやられていた。しかも相手3番、主将の垣永真之介の後手を踏めば、早大に勢いを与えることになってしまう。

「スクラムで相手をつぶしてやろうと言い合っていました」と、坂手が"してやったり"の表情を浮かべる。

「これまでは(スクラムの)ヒットの入りで受けていました。でも今日はいいヒットで組めた。しっかりと自分たちのカタチをつくり、コントロールできました」

 さらにはブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)である。FWの平均体重は早大99kgに対し、帝京大は106kg。でかくて強くて速い選手が、強靱な体と基本に忠実なプレーで圧倒した。

 根気強い仕込みと高い意識のたまものだろう、寄りのスピードとパワー、判断で相手を上回った。帝京大NO8の李聖彰(り・そんちゃん)が説明する。

「絶対、受けずに前にいくことを心掛けました。フィジカルで自信を持っているので、まず1対1でしっかり踏み込んで前に出る。ふたり目は低く激しく相手をクリーン・アウトする。寄りが遅ければ、ターンオーバーを狙っていこうと」

 FWが前に出れば、大型バックスも勢いづく。胸囲110cmの主将・中村だけでなく、1年生SOの松田力也が自在に走れば、183cmのCTB牧田亘がハイパントを好捕した。見事な判断と度胸、ジャンプ力、これにはしびれた。WTB磯田泰成の快足も冴えた。

 連続トライの松田が笑顔で振り返る。

「亮さん(中村)がマークされているのがわかったので、やるのは自分かなと。チャンスがあれば、勝負に出ました。(トライは)無我夢中で走りました」

『帝京の時代』である。これで自分たちが持つ記録をさらに伸ばして、5連覇とした。

 毎年、メンバーが大幅に変わる学生スポーツでは偉業といってよい。なぜ、と聞けば、岩出監督は「精神的な成長だと思います」と答えた。

「どんな選手にも、スタート時には、1年間、一歩一歩積み上げていこうと言います。誠実に、根気よく。お互いの信頼をつくっていこう。実力を高めていこうと」

 上級生の姿勢に下級生が学び、ひたむきにラグビーに取り組む。規律も高い。それが伝統となり、相乗効果が生まれていく。優れた素材が全国から集まり、選手層は厚く、部内競争も激しさを増している。

 もはやラグビー部は帝京大の看板である。大学もサポートする。練習環境は大学では随一であろう。グラウンドは人工芝のメインと天然芝のサブグラウンドが整備されている。

 年々買い足した器具がそろうトレーニング施設も充実している。そこで学生たちはほぼ毎日、計画的なトレーニングに励んでいるのだ。

 管理栄養士、フィジカルコーチ、トレーナー、学生コーチなどスタッフもいい。

 さらには帝京大には医学部がある。「帝京大スポーツ医科学センター」のサポートを受け、定期的に選手の血液検査も行なわれている。数値が悪ければ、その選手の練習量は落とされる。栄養士と連携し、食事が改善される。

 つまりは『S(ストレングス)&C(コンディショニング)』が徹底されているのだ。こういった環境の中、岩出監督が選手育成に丁寧に気を配るのだからたまらない。指導の要諦が「本気・根気・元気」という。あいさつ、そうじ、規律を大事にする。

 いつも感心するのは、勝っていながら、学生に「油断」も「傲慢さ」も感じられないことだ。みんな、謙虚なのだ。

 今季は日本選手権での『打倒!トップリーグ』も目標に掲げている。目標が高ければ、それだけ普段の意識が高まる。トレーニングのレベルも上がってくるのだ。

 岩出監督は本気なのだ。

「そう宣言しないと前に進まない。練習の質量を上げる。自分たちがより成長するための準備、いいトレーニングをするためです」

 クラブとしてのカルチャーを岩出監督は口にしてきた。その文化が完成したのでは?と水を向けると、岩出監督は「いえいえ」と愉快そうに笑った。

「完成は崩壊の始まりだから。カルチャーに完成などはない。時代は変わる。毎回毎回、目の前のことを誠実にしながら、社会人になってもいい仲間と言われるような、学生を育てていきたい。それが大事でしょう」

 まだ発展途上。王者のカルチャーがどう築かれていくのか。5連覇とはすなわち、帝京大の志の高さゆえだろう。

松瀬学●取材・文 text by Matsuse Manabu