the everything store

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「the everything store (何でもあるお店)」(ブラッド・ストーン著、Bantam Press)

英国フィナンシャルタイムズ紙の2013年「ブックオブザイヤー」に選ばれた本書は、あのアマゾン社とその創業者ジェフ・ベゾスの一代記である。今では当たり前のようになったネット通販という産業は、たかだか20年弱の歴史しかないが、世界中の流通業界、出版業界、音楽業界そして私たちの消費行動を激変させた。インターネットの誕生とともに、誰もが思いつくことのできたビジネスモデルだが、なぜアマゾン社がここまで成功できたのか。そして、アマゾンが単なるオンラインショップを超えて、グーグルやアップルに並ぶ産業イノベーションの企業である実態を本書は丁寧に解き明かしてくれる。

バブル崩壊も不変の首尾一貫

実は、アマゾン社が傑出した存在になった理由は、ベゾス自身の言葉で3点に集約されている。3つとも全て紹介してしまうと本の売れ行きが落ちてアマゾン社に怒られるかもしれないので1つだけ明かすと、それは「長期的視点」ということである。アマゾンの成長初期段階では、徹底した売り上げ増、顧客ベース拡大の戦略がとられた結果、収益はいつも大幅な赤字であった。その中で2000年からのドットコムバブル崩壊が起き、アマゾン自身も投資アナリストからの容赦ない攻撃を浴びることになる。そこで通常の経営者であれば、四半期ごとの株主収益価値の向上に集中して、拡大路線を諦めることになるのだが、ベゾスは、社債発行や固定費削減といったキャッシュフロー改善のための常套手段を駆使しつつも、規模拡大と顧客サービス追及路線(=低価格、迅速配送)を変更することはなかった。この首尾一貫性が2003年以降の米国景気回復の中でアマゾンをネット通販事業者の中で群を抜く存在に押し上げることになる。

創業時に既に技術開発済み

本書を読んでのもう1つの発見は、1995年の事業開始の当初から、アマゾンの顧客志向型の技術プラットフォームの多くが既に開発されていたことである。具体的には、例の「ショッピングカート」、クレジットカード番号の入力システム、検索エンジン、カスタマーレビュー、さらには個々人向けの推薦機能など、今日のオンラインショッピングの定番テクノロジーが、創業1〜2年のうちに次々と用意されていったことは驚きである。しかも、このために必要となる天才エンジニアの獲得と事業資金調達のためにベゾスがたった一人で泥臭く奔走するわけである。そういう手作りの創業物語が米国では当たり前だということに改めて感動する。

プラットフォームビジネスへ

2005年以降、市場支配的な位置を確立したあとのアマゾンは、プラットフォームビジネスという別の次元に突入していくことになる。その象徴がAWS(アマゾンウエッブサービス)であり、今日の産業構造を変える契機ともなりうるクラウドコンピューティングの先導モデルである。同時に、ウォルマートなど既存勢力とのせめぎ合いや、新興ネット事業者への呵責ない買収攻勢、あるいは売上税を巡る州政府との攻防など、巨大企業としての冷徹な顔を見せていくことになる。この間の経緯を、著者のストーン氏はバランスよく解き明かしている。

本書は、ベゾス自身の数奇な生い立ちにも触れている。彼は養子であり、実の父親とは数十年に亘りお互いの生存すら知らない状態にあった。著者が実の父親を探し当てる最後の章は、何やら落語の人情話めいていて、単なるビジネスブックの範疇を超えた余韻を本書に添えている。

経済官庁審議官級 パディントン

◆編集部注 同書の翻訳版「ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者」が2014年1月9日を発売日として、日経BP社より刊行されました。