『記者ハンドブック』第12版 帯の言葉“正しい用字用語、分かりやすい文章を書くために”“書き方の基本、豊富な用例、充実の資料。日本で最も多くの記者が使っている文章執筆のための必携書。”

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「擬態語はひらがな表記、擬音語はカタカナというのがルール」と、ツイッターで話題になっていた(定期的に浮上してくるみたいだ)。
「超難しい小2国語のテスト」という問題の画像もツイートされている。
ひらがなで書くかカタカナで書くかを選ばせる問題で、それはこんなものだ。

1.星が(きらきら・キラキラ)している。
2.犬が(わんわん・ワンワン)ほえた。
3.うさぎが(ぴょん・ピョン)とはねた。

そして、答えはこう。
1.星がきらきらしている。
2.犬がワンワンほえた。
3.うさぎがぴょんとはねた。

わーーーん(T_T)
小2のテスト、俺は0点だな。

ツイッターでの議論が盛り上がっていて、
「自由でいいじゃないか」というものから、
「物書きのプロほど擬音語はカタカナ、擬態語はひらがなを徹底してる」
「難しいと感じるひとは恥じ入って勉強しましょう」といった内容のツイートまで、
まあ、あれこれ、あって驚く。

私はプロの物書きだ。
プロ志望者向けの講座までやっている。
だが「擬音語はカタカナ、擬態語はひらがな」を徹底などしていない。
断じてしてない。
プロは、そんな硬直化したルールを信じない。
基本はおさえ、そのうえでどのようにして乗り越えるか。
それを考える。
よりよいコミュニケーションを生み出すために既存の方法と戦うのがプロだ。

「でも、ここのpdfに以下のように書いてますよ」
“『記者ハンドブック』では、基本的に「擬音語はカタカナ、擬態語はひらがな」とす
るようになっています。”

こういうときは原本をあたろう。
『記者ハンドブック』第12版。
118ページ。
擬音語、擬声語の表記については、「片仮名使用」の項に記述がある。

“擬音語・擬声語はなるべく片仮名で書くが、平仮名で書いてもよい。”
だいぶニュアンスが違う。
「なるべく」だ。しかも、わざわざ「平仮名で書いてもよい」とつけ足されている。
さらに、こうある。
“擬態語は平仮名で書く。ただしニュアンスを出したい場合は片仮名書きしてよいが、乱用しない。”
そして、
“うっとり うとうと がっかり がっくり”といった平仮名書きの例があげられた後に、
“がらがら・ガラガラ すーすー・スースー ぺろぺろ・ペロペロ”と、平仮名・片仮名表記を双方書いたものを、わざわざ例として記述している。
『記者ハンドブック』基準では、あずにゃんペロペロ(^ω^)は、あずにゃんペロペロ(^ω^)でも、あずにゃんぺろぺろ(^ω^)でもいいんだ!

これは、もう“基本的に「擬音語はカタカナ、擬態語はひらがな」とするようになっています”とは言えないだろう。
上記pdfの記述は古い版にもとづいているのかもしれないが、少なくとも、今は、そんなことはないってことだ。
日本で多くの記者が使っている『記者ハンドブック』ですら、厳密なルールではないと言っているのだ(『記者ハンドブック』は、正しい用字用語を書く基準として手元に一冊置いておくと便利ですよ)。

小2テスト問題の画像が、何のテストなのか原本を見つけられなかったが、古いテストか、偏りのある問題集か何かじゃないか(と、せめて思いたい)。
掛け算の順番と同じように、つまんないテストしてんじゃねーよと、激おこぷんぷん丸だ。(参照:4x6はマルで6x4はバツ。さて、なぜでしょう?『かけ算には順序があるのか』)。

そもそも「キラキラしている」が間違いならば、
宮沢賢治も新美南吉も宮本百合子も、間違いを書いていることになる。

“そしてそれが沢山たくさんの小さな小さな鏡のようにキラキラキラキラ光るのです。”(宮沢賢治「雪渡り」)

“その雪の上からお陽ひさまがキラキラと照てらしていたので”
(新美南吉「手袋を買いに」)

“灯がその火屋ほやの中にともるとキラキラと光る”
(宮本百合子「父の手紙」)

もっと勉強しようと思う。
でも、それは、自分の表現を窮屈に硬直化させるためじゃない。
自分をルールで縛るためではなく、自分を自由にするために勉強しようと思う。
(米光一成)