米ツアーの2014年初戦、ヒュンダイ・トーナメント・オブ・チャンピオンズを制したのは米国人のザック・ジョンソンだった。
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 ジョンソンは3日目に「74」を叩いて後退し、最終日を4位タイからスタートした。が、その最終日はアイアンショットをピタピタとピンに絡ませ、ショートパットもミドルパットも次々にカップに沈める好プレーで7バーディ、ノーボギー。ジョーダン・スピース、ジェイソン・ダフナーとの三つ巴を14番のバーディで抜け出し、3連続バーディで一気に引き離す見事な逆転で勝利を手に入れた。
 アイアンショットの勝利。いや、もっと正確に言えば、ウェッジショットの勝利だった。07年マスターズを含めた米ツアー通算11勝目を挙げたジョンソンは、もはやタイガー・ウッズ、フィル・ミケルソン、ビジェイ・シンに次ぐ勝利数を誇るトッププロ。11勝のうち8勝が逆転による優勝だ。
 ジョンソンを語るとき、絶対に無視できないのは、彼の米ツアーデビュー以来、バッグを担ぎ続けるデーモン・グリーンの存在だ。そもそもグリーンは、往年の名選手、スコット・ホークのキャディだった。目が悪かったホークの「目」となって支え、勝利に導いてきたグリーン。
 だが、「すごいヤツが下部ツアーから来るぞ」という噂が米ツアーで広まった2003年の秋ごろ、グリーンはホークの元を去り、噂の「すごいヤツ」のキャディになった。
 その「すごいヤツ」というのがジョンソンだった。03年の下部ツアーで年間2勝を挙げて米ツアー出場権を得たのだが、それ以前のミニツアー時代から、周囲の選手たちはジョンソンに2つの修飾語を付けていた。
 1つは、ネバー・ギブアップの精神で執拗に巻き返してくるという意味で「バック・トゥ・バック・トゥ・バック・ザック」。そして、もう1つは「小技の魔術師」。
 そう、ジョンソンは昔からウェッジやパターを武器にしていたわけで、今大会の最終日に披露したピンに絡むウェッジショットの連続は、彼の得意技の集大成みたいなものだった。
 だが、プレッシャーがかかる優勝争いとなると、持てる技術をうまく出せるかどうか、実力を発揮できるかどうかが問われるものだ。その中で、ジョンソンの技術を十分に、いや十二分に引き出してきたのは相棒キャディであるグリーンの努力と功績だ。
 ウェッジとパターを得意とするジョンソンに、パットのラインを正確に読むことのできるグリーンの目が加わったことで、ジョンソンのスコアリングは120%、いや150%ぐらいまで向上したと言えるだろう。
 ジョンソンが米ツアーデビューした04年に早々に初優勝を挙げることができたのは、キャディとしての経験豊富なグリーンがジョンソンの流行る心をうまくコントロールし、ジョンソンの経験の乏しさを上手に補ってきたからこそだ。
 そして、圧巻は07年のマスターズ制覇。パー5すべてをレイアップしたあの攻め方は、グリーンをキャディとして従えていたジョンソンだったからこそ成し得たワザだった。欧米ツアーには、ゴルフヒストリーに残る名キャディが、いつの世にも数人いる。米国には世界キャディ殿堂というものもあるほどで、キャディの存在や役割を重要視し、敬意を払っている。
 80年代から90年代にかけて、ニック・プライスを支えた“スクイーキー”、ことジェフ・メドレン(故人)。ニック・ファルドを支え、近年はヘンリック・ステンソンを支えた女性キャディのファニー・サニソン。長年、タイガー・ウッズを支え、今ではアダム・スコットの傍らに立つスティーブ・ウイリアムス。そして、ジョンソンを勝利に導き続けるデーモン・グリーン。
 優勝したジョンソンのこの言葉には、グリーンに対する感謝の気持ちが込められていた。「なぜ逆転できたか?それは僕にもわからないけど、ただただ気持ちよく、心地良くプレーできた。そんな心の平穏のおかげかな」
 そう言えば、白血病でこの世を去ったスクイーキーは、元気だったころ、ニック・プライスを支えるための心構えをこんなふうに語ってくれたっけ。「僕はニックの心の暖炉に上手に火をくべて、燃え過ぎず、消さず、中庸の火を保つようにしている」。
 ジョンソンの心の平穏も、グリーンが彼の心の火を中庸に保ったおかげだろう。
 選手、キャディ、コーチ、トレーナー、マネージャー。プロゴルフにおけるプロフェッショナルたちの立場や役割が細分化され、独立し、相互に敬意が払われている欧米のゴルフ界。残念ながら日本のゴルフ界は、この域には、まるで到達していない。まずは、キャディの力や役割、選手の心身双方への多大なる影響力というものを、もっと深く考え、もっと活用するべきではないのか。
 ジョンソンとグリーンの11年目の二人三脚を眺めながら、そんなことを考えた。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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