東芝の田中久雄社長の就任後初となる中間決算(2013年4〜9月期)は、売上高が前年同期比13.2%増の3兆392億円、営業利益が53.7%増の1055億円。通期見通しでも売上高は前年同期比8.6%増の6兆3000億円、営業利益は約50%増の2900億円と、幸先の良いスタートを切った。その東芝が現在開発中の画期的な商品について、ジャーナリストの永井隆氏と海部隆太郎氏がリポートする。

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 液晶モニターを30cmくらい前からのぞきこむ。そしてマウスを動かすと、まるで頭の中を透視しているかのように、頭蓋骨の形や脳の血管が立体的に浮かび上がってきた。3Dメガネをかけているわけではない。動脈は赤、静脈は青、腫瘍部分は黄緑と色分けされ、飛び出して見える。

 10月1日、東芝は大規模な組織改編を行なった。その中で新設されたのが「新規事業開発部」だ。東芝が持つ多くの技術を融合させ、市場のニーズに応える製品を作る「ニュー・コンセプト・イノベーション」を目指す組織である。つまり、組織横断型のプロジェクトを生むための部だ。

 同社では組織再編に先駆けて、「技術融合」を象徴する画期的な商品が生まれていた。それが冒頭で紹介した「医療用裸眼3Dディスプレイ」である。医療用画像を裸眼で立体視できるのは世界初。

「これ、医療用に使えないでしょうか」

 川崎市にある東芝研究開発センターの爰島快行氏(ここじま・よしゆき/37)が、栃木県大田原市にある東芝メディカルシステムズを訪ねたのは2010年12月。3Dがテレビは発売されていたが、当時、なかなかコンテンツが追いつかなかった。このままでは技術が宝の持ち腐れになってしまいかねない。

「社内を見回したところ、メディカルシステムズで作っているCTならば撮像時に3D化できるデータがある。では、医療用に3D技術を応用できるのではないかと売り込んだのです」(爰島氏)

 メディカルシステムズCT営業部の藤井健二氏(42)たちは、「面白い技術ですね。とにかく臨床医の先生方に見てもらいますよ」と応じた。それが“テレビと医療の技術融合”のスタートだった。

 かつて病院に勤務し、診療放射線技師の資格を持つ藤井氏は2008年に同社に転職。その経歴から、医療現場のニーズがよくわかっていた。藤井氏らが病院関係者に3Dのサンプル画像を見せたところ案の定、評判は高かった。

 メディカルシステムズ社長も裸眼3D技術を評価し、トップのゴーサインは出たが、「融合」は一筋縄ではいかなかった。プロジェクトのリーダーとなったメディカルシステムズ研究開発センターの橋本敬介氏(51)はこう語る。

「まず、一般向けテレビと医療向けでは規格がまるで違います。生産量や仕様、価格、さらには商慣行も違います。例えば我々が普段扱う医療向けの商品でディスプレイのサンプルが欲しいという場合、1〜2枚あれば十分です。それが民生用の場合は、1000枚単位が当たり前。同じ東芝でも“使っている言葉が違う”という感じです。わからないことだらけなので社内のあちこちに聞いて回って……そこが苦労しました」

 医療用裸眼3Dディスプレイはこの9月に発売、すでに複数の医療施設から受注を獲得している。

「ディスプレイ単体で利益を出すというよりも、CT本体など他の医療機器を売り込む有力なツールになる」(藤井氏)

 組織横断的な取り組みとしては他にも、「画像認識技術」と「POSレジ用スキャナ技術」を組み合わせて、例えばリンゴをレジにかざすだけで金額が表示される「オブジェクト認識スキャナ」などを開発している。

※SAPIO2014年1月号