動画配信サービス「ユーチューブ」では、自分が投稿した動画に広告が掲載され、収入を手にできる仕組みになっている。

人気動画を頻繁に投稿すると再生回数が増え、広告収入が月額数十万円に達するケースもある。こうした収入だけで生計を立てている人たちは、「ユーチューバー」と呼ばれている。

3分程度のクッキング映像、再生回数は10万回以上も

NHKが2013年2月13日に放映した「クローズアップ現代」で、ユーチューバーのひとり、伊藤元亮さんが紹介された。幼稚園に通っていた娘のために、動物やアニメのキャラクターをかたどった弁当、いわゆる「キャラ弁」をつくって撮影したのが「投稿生活」の始まりだ。動画は素人だったが、続けていくうちに再生回数が10万回を超え、画面上に広告が掲載されるようになった。

伊藤さんの著書「YouTubeは僕たち家族の日常をお金に換えてくれました」に、詳しい経緯が書かれている。初めて投稿した2009年、既に会社を辞めて自営業をしていたが、「家族5人が食べていくには苦しい」状態で、ブログを始めたものの軌道に乗らず、たどり着いたユーチューブで当たったという。広告が掲載されるようになったのは2010年3月以降。最初は数千円、数万円単位だったと振り返っている。

伊藤さんの動画を見てみると、開始当時の2009年の作品は再生回数が数百回というものもあるが、直近の12月13日更新のものはすでに4万4000回を超え、ほかに10万回以上のものも珍しくない。クッキングの映像が多く、3分程度の長さだ。声による説明はなく、伊藤さん家族は「顔出し」していない。映像だけで理解できるので言葉の壁がなく、コメント欄には英語の書き込みも多い。海外からのアクセスが、再生回数アップに貢献しているとみられる。

現在、伊藤さんのページを登録している人数は21万7000人以上、動画の再生回数は約9300万回だ。これだけのファンが定着していれば今後も安定的なアクセスが期待できるだろう。だが、ここまでたどり着くのは容易でないはずだ。

ITジャーナリストの井上トシユキ氏に聞くと、「投稿動画を、いかに閲覧者に『発見させるか』が肝心です」と指摘した。誰かが偶然見つけるのを待っているだけでは心もとない。時には投稿者自ら仕掛けてPRする心構えが大切というのだ。「検索エンジンの場合、素人の投稿動画はあまり上位に出てきません。むしろ『まとめサイト』に『こんな面白い動画見つけた』といったスレが立ち、ネットで拡散すればチャンスが拡大します」と話す。いったん人気に火がつけば、「ほかの動画も見てみよう」となって再生回数がさらに増えるという。

国内で生計立てられるユーチューバーは数十人

「ユーチューブパートナー」に登録すれば、基本的に誰でも投稿動画に広告が掲載されて収益が得られる「権利」を手にできる。運営会社であるグーグルに取材したところ、現在では「広告掲載に再生回数などの条件はありません」とのことだった。ただし投稿者が動画の「収益化」、すなわち広告掲載について申請し、グーグル側の事前審査を受ける必要がある。

動画コンテンツ自体の質は重要だ。先述の「クローズアップ現代」では、1本のヒット動画で自信を深め、広告収入だけに頼ろうと仕事を辞めたが以後の作品は人気が出ず、日々プレッシャーに悩む男性が紹介されていた。井上氏は「その道のプロになる以上、継続して広告収入が得られるかどうかがポイント。難しいですが、閲覧者を飽きさせない工夫が求められます」と話す。

例えば料理の分野は競争相手が多いので、「コンビニで手に入る材料だけでつくる夕食」といったテーマに絞ってみる。ラーメン店の紹介なら、最寄り駅からの道順を撮影しながら「隠れ家的な店」にたどりつくスタイルにする。「こうした店は地図だけだと分かりにくいので、映像が生かせると思います」。

国内有数のユーチューバーは、確かに秀でたページづくりをしている。「クローズアップ現代」で「動ガール」と紹介された佐々木あさひさんの場合、自室で自分のメーキャップ術を撮影、披露している。スプーンを使ってまつ毛をカールしたり、身近なメーク道具で化粧をしたりする様子が人気を呼んだ。最近は、有名ブランドとのコラボレーションによるメーキャップ映像もつくられている。「売れっ子」になればスポンサーもつくようだ。佐々木さんも、既に会社を辞めてユーチューブ1本で暮らしているという。

HIKAKINさんはユーチューブ上に4つのチャンネルを持ち、日々更新している。自身の口だけでDJプレーをする「ビートボックス」による音楽の演奏、ゲームに挑戦して実況放送、時には特大サイズのお菓子を食べるなど内容は多彩で、その進行ぶりや映像の編集レベルを見るとひとつの番組として成立するクオリティーだ。既に「有名ユーチューバー」ということもあり動画の総アクセス数は4億回を突破している。

ただ、こうした成功例はまだ少ない。「クローズアップ現代」の中でネットジャーナリストの愛場大介氏は、「生計を立てられているのは、日本では数十人レベル」と答えていた。