取材・文: 編集部  写真: 土屋文護  英語翻訳: Oilman  場所: J-COOK

 

2011年の立ち上げから2年、トーキョーを代表するストリートウエアブランドへと成長を遂げた C.E (シーイー)。グラフィックデザイナーのSk8ightTing (スケートシング) がデザイナーを務める同ブランドにおいてディレクターを担当するのが Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル) だ。音楽からはじまり法律を経由、その後ファションやビジネスにまで多岐にわたったワーキングヒストリーをもつ同氏は、C.E のディレクションを行いながら、現在も多数のブランドや人と関わり時代の傍観者とも言うべき俯瞰的目線から独自のコンサルティングをやってのける。謎に包まれてきたこれまでのキャリアから日本のファッション事情、今後の展望について話を聞くべく、お気に入りの場所としてあげてくれた神宮前に位置するカフェ、J-COOK にてインタビューを敢行した。

 

(第1回/全3回)【インタビュー】Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル)、ストリートウエアブランド C.Eのディレクターであり NIGO® の相談役。謎に包まれてきた彼のこれまでのキャリアにせまる

(第2回/全3回)【インタビュー】Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル)、C.Eのディレクターであり NIGO® の相談役。ヒットブランドの仕掛人が語る、ブランド論とは

 

- Toby さんから見て、日本のメンズブランドは世界的にどのような評価を受けていますか?

世界的にはすごくマイナーじゃないでしょうか。ただ、COMME des GARÇONS (コム デ ギャルソン) という大きなブランドがあるので日本のファッションはある意味知られてはいるとは思います。それ以外だと、いまは海外でやっていくのが難しいというのが現実だと思います。フィレンツェで開催される世界最大規模のメンズプレタポルテの見本市 PITTI IMMAGINE UOMO (ピッティ・イマジネ・ウオモ) で発表した White Mountaineering (ホワイト マウンテニアリング) のショーの評判はよかったです。それに、ウィメンズだけでなくメンズでもSacai (サカイ) はうまくいっていると思います。

 

- 日本のブランドが海外で評価されにくいのはナゼでしょうか?

バカみたいな答えですが一番の障害は距離ですね。日本のブランドが海外に出られるようになるためには、ある程度のベースを日本で築いてから次は海外へという考えで一般的です。経費もそれなりにかかりますし、ベースが築けていないと資金的に難しいのが現実です。それで頑張って海外に出たとしても結局は日本をベースにしたビジネスだから、半年に何度かニューヨークやパリに行く程度になってしまう。現地のお客さんはどんな人で、どういう音楽が流行っていて、どういうトレンドが強いかなどが、その時々で手に取るように把握できる現地のブランドとは距離の部分で劣ってしまいます。コミュニケーション部分でのギャップや、日本と現地の街のムードなどにズレがあることも1つの要因です。

かつて日本のファッションが世界で強かった時代は、日本にいる多くの人が海外のモノに注目していた頃でした。80年代の DC ブームがある程度向こうでヒットした時は、みんな海外に目を向けていて外向きでしたよね。いまはその逆です。実質的な距離だけじゃなく、日本はヨーロッパやアメリカから遠くなって、中国や韓国といったアジアに近くなった。それには色んな要素があって、具体的には為替の問題があったりします。いま日本のブランドがヨーロッパやアメリカで勝負するのは少しハードルが高いように感じています。

 

- 時代的に海外にすぐいけるような状況ではないということでしょうか?

はい。簡単ではないですね。こう見れば分かりやすいです。日本ですごく流行っているモノが、海外で流行っているモノかというとそうではないのが事実です。だから日本で人気のあるモノをそのまま海外に持って行った際に、成功するかどうかと言ったら正直難しいですよね。トレンドの差は大きい。世界的なトレンドはもちろんありますが、元の値段から何倍もする日本のファッションブランドの洋服を買うほど、日本のトレンドがヨーロッパで流行るかというとちょっと難しいですね。その温度差と距離をどうするかとなると、実際にデザイナーが現地に住んで事務所をつくったりしない限りは難しいんじゃないでしょうか。


Photography: Bungo Tsuchiya | © THE FASHION POST

 

- なるほど。ファッションの本場であるヨーロッパやアメリカはそこまで日本に興味を持っていないというのが事実としてあるのでしょうか?

ファッションに限って言えば、そんなには日本には興味がないと思います。これは昔からですが、東京ファッションウィークには海外のバイヤーは来ないですよね。ファッション以外の部分、日本の文化に関しては海外のティーンネージャーは興味がある。その辺の文化に限って言えばだんだん認知されてきて人気になっていますね。だけど、そういうものをファッションとして輸出したいかどうかというと、また別の話です。

 

- 特にファッションではプレゼンスを高められていないということですかね。

とは言いながらも、世界全体の中では日本=ファッションと言えると思います。「Japanese Fashion」というステータスも確かにありますし。ただ、いまは僕が見てきたスパンの中では良くない時期だと感じています。90年代は裏原宿ブームで80年代のあとに新しい波が来たような感じでしたが、その後は海外で大きな話題になるようなトピックはないですよね。ある程度海外で流行っている日本のブランドはあっても、いわゆるポスト何々というところで終わってしまって、新しい波を生み出すまでにはなっていない。それはもちろん簡単ではないですけど。もしかしたら日本でのビジネスのやりやすさが逆に問題になっているのかもしれません。日本だとシステムがしっかりできあがっているので、ビジネスはある程度やりやすいのですが、海外はビジネスカルチャーが違いますし、予定通りなんでもうまくいくような感じではないので。向こうで挑戦しようとした際に難しいと感じてしまうのはある意味当然ではあります。

 

- ただそんな状況にも関わらず、A BATHING APE® が近年アメリカを中心に、しかもある種閉鎖的なヒップホップ・カルチャーにおいて受け入れられたのはナゼでしょうか?

A BATHING APE® の場合は NY ですが、成功した理由は現地にショップをつくったからです。NY にベースとなるショップがあって、現地の窓口としての役割を果たしてくれたのが一番大きい。窓口を1つ作って現地の声を聞きながら、コミュニケーションをとってブランドがその土地で成り立った。それに僕がまだ Mo'Wax にいるときから毎週必ず数時間は NIGO® と国際電話で音楽の話ばかりをしていた。それはヒップホップの新しいリリースとか、ほんとにマニアックなことをひたすら延々と話していたんです。NIGO® や僕はヒップホップのいちマニアック ファンとしてそのカルチャーに入っていったので、A BATHING APE® について詳しくない現地の人とも繋がりができていました。だから、A BATHING APE® はそのカルチャーの人たちに最初から需要がありました。オープンの時からお客さんが並んでいましたから。だから、もし NY でショップを出して成功したいなら、NY のカルチャーを先に理解していないとうまくいくことはないでしょうね。

 

- Triple Five Soul (トリプル ファイブ ソウル) や PNB Nation (ピーエヌビー ネイション) のようにヒップホップのシーンと密接に繋がっていたブランドはありましたが、そんな中で向こうの人たちが A BATHING APE® を新鮮に感じた理由は何かあるのでしょうか?

当時の僕らほどヒップホップに関してマニアでなければわからないレベルの話になりますね。当時、僕はロンドンにいたのですが、NY にショップを作る前から1ヶ月に1、2回くらいのペースで現地に行っていて、遠いところからその文化を見て勉強したうえで、実際に現地に行って直に触れることにより自分のイメージしていたものがより明確になった。それに少し離れているから客観的に見ることができて、その文化の内側にいる人よりフレッシュな考え方をすることが可能でした。その距離感、近くて文化に関して十分な理解もあるけど、どこか違うというその細かな部分が向こうの人たちからしたら面白かったんだと思います。それは単純に好きで、ただのファンだったからできたことですね。興味が無くなるとうまくいかなくなる位のレベルです。

東京で成功したい、と思ったデザイナーが、その目標が達成できたからという理由で、そのまま海外に行けばいいだろう、というような考えだと海外ではうまくはいかないです。NY 育ちのデザイナーは、当然自分がここでトップになってやる、と思っている人たちばかりなので、そんな人たちと比べた時に、何を東京から持ってこられるかというのがとても大事です。それを導きだすには、シンプルに日本の洋服はなぜ NY に必要なのか、と考えるのが一番簡単かもしれないですね。

- 考えを逆にして東京で Toby さんが面白いと思っていることは何かありますか?

ヤングジェネレーションの人たちがおもしろいですね。具体的にあげると「BACON (ベーコン)」。何人メンバーがいるかもよくわからなくて、中には『Tumblr (タンブラー)』に色んな写真をポストしている人もいるし、DJ や映像、グラフィックを作っている人もいて、音楽もやっている。インビジブルなインターネットのクルーです。ファッションという感じではないですが。彼らは面白いです。


Photography: Motoyuki Daifu | © Bacon


Photography: Motoyuki Daifu | © Bacon

これは昔から変わらないのですが、個人的に一番面白いのはミュージック・シーンです。情報もインターネットでほとんど流れてくるいま、ファッションブランドの人たちがやっているイベントなんかは普通に把握が出来ますが、そのイベントでかかっている音楽が好みじゃなかったらよっぽどのことがない限りわざわざ行かないですよね。だから、自分たちも含め同じパーティーに来るような人たちの中で、ある程度シーンが構成されているような気がしています。

ファッションに関してはセレクトショップのバイヤーですね。東京のストリートだと基本的にセレクトショップのバイヤーは旬なトレンドの流れをすごく理解していて、上手にバイイングしています。海外から東京に来るファッション関係者はセレクトショップのラインナップをみると大抵驚くようなリアクションをします。例えばロンドンだとあるテイストのブランドはロンドン中でも1つのお店にしか見つからないのに、東京だとどこに行ってもそれが見つかる。ただ、そのせいで色んなバージョンはありますが、どこも同じテイストにしか見えないようになってしまい、どのお店に行ってもあまり変わらないような印象を受けます。

 

2/2ページ: 「(東京では) セレクトショップのバイイングチームが街全体の見た目を作っているように感じます。」

 


Photography: Bungo Tsuchiya | © THE FASHION POST

- 海外のバイヤーの人が見た時にビックリするのは世界的なトレンドも抑えているからですか?

そうですね。完璧なレベルまで勉強できていると思います。驚くほど上手にバイイングしているおかげで、東京のストリートの平均的な見た目はオシャレなレベルをキープできているのだと感じます。ただ残念なのは、バイイングしているモノの中には、普通とは違う変わったモノがあまりないことです。だからどこも似た様なスタイルになってしまっています。いまの日本のファッションは着ているものだけを見たら T シャツにショーツ、キャップ、というなんてことないスタイリングかもしれないですが、T シャツのリブの太さであったり、キャップのツバの長さ、何ミリのアセテートの眼鏡をかけるかとか、そういうことで印象はぜんぜん変わってくるという非常に細かくて繊細なゾーンに入ってきています。それは、スタイリストは当然ですけどバイヤーが相当細かく見ているからだと思います。僕が見た東京のメンズウエアはそういう印象です。パリや ニューヨーク、それにピッティなどでショーをやっているブランドではなく、セレクトショップのバイイングチームが街全体の見た目を作っているように感じます。でも、いまのように外を見て東京のニーズに合わせて洋服を作っても、結局国内だけで終わってしまって、その作ったものが外に出るようなことはないですよね。ある意味、日本人の十八番ではあると思うんのですが、海外でヒットしたモノの東京版を作っている印象です。

そういえば、このインタビューの話をいただいた時に『THE FASHION POST』をチェックしたら、ファッションブランド ffiXXed (フィックス) の「The International Woolmark Prize」受賞に関するニュースがあがっていたのを見ました。以前に友達が LA でやっている Ooga Booga (ウーガ・ブーガ) というお店で取り扱っているのを見て、面白いと ffiXXed に対して思ったことを思い出しました。東京のモノではないですが、このブランドは気になりますね。洋服もですが中国の工場の近くにオフィスを作っていたりだとか、おもしろいスタンスだと思います。

洋服はなんでもチェックしているので東京っぽいモノというのは特に分からないですが、C.E が東京っぽいと言われるのは嫌ではないですね。東京のシーンに関しては何かしら新しいムーブメントが出てくれば良いな、とは常に思っています。いまは無いに等しいですが、何かあれば外から見た人からするとより分かりやすい状況になるかと思います。

C.E AW 2013 from c.e on Vimeo.

 

- これから新しいムーブメントは起こると思いますか?

C.E がそれを作っていければいいですね。

 

- Toby さんがそう言えるのは、A BATHING APE® という所謂ストリートウエアブランドで、他のブランドが踏み込めなかったところまで到達したからだと思うのですが。

A BATHING APE® は海外で伝わりやすい要素が沢山ありましたからね。A BATHING APE® は日本のブランドだからうまくいったのではない、というのが僕の考えです。僕がまだロンドンに住んでいて Mo'Wax で働いていた時から、A BATHING APE® は海外でも日本と同じ位うまくいくだろうと思っていました。A BATHING APE® に関しては山のようにおもしろい経験ができました。ただ、あそこまでやりたいという強い意志を持っていたのは NIGO® ですから。NIGO® がそういう人間じゃなければ絶対に成立しなかったはずです。僕はどちらかと言うと野心はないので、いけるところまでいきたいと考えられる NIGO® のマインドは素晴らしいと思っています。A BATHING APE® はストリートウエアのブランドとしての見え方としてとてもユニークでした。あの流れがあったから他のブランドが海外に出やすくなったんだと思います。

 

- C.E の今後の展望は?

わりといい感じで伸びてきていると思うのですが、僕らがブランドをどこまでのレベルにしたいか、ということが言えるまでのレベルではないですね。モノづくりに関しては僕とシンちゃん、菱山くんがいいバランスで一緒に仕事ができているいまのスタイルを崩したくないというのが一番です。C.E を始めたのはこのスタイルで仕事をやりたいと思ったのがキッカケのようなものですし。働いてはいるけど仕事っぽくなくて、単純に楽しめているので、この感じからあまりズレたくないです。会社の規模もそんなに大きくしたいとは思っていないですし、人も必要以上に入れたくはない。このやり方だとある程度の限界は出てくると思いますが、この感じで楽しく洋服を作っていければ一番いいですね。

 

- Toby さん自身の展望も教えてください。

僕はときどき大きいビジネスもしたくなったりするので、そういうことも続けていければと思っています。所謂コンサルティングですね。それに関しては僕のクリエイティブな部分はあまり必要ないので、企業とクリエイター、ブランドの間でブリッジのような役割を担当しています。昔、弁護士だったこともあってか、ときどきそういうクライアントワークがやりたくなるんです。

 

- では最後にToby さんの東京のお気に入りのスポットを教えてもらえますか?

自分の家が一番気に入っているスポットです。ただ、それだと面白くないので、取材場所にちなんでカフェを3つ。

 

J-Cook
住所: 東京都渋谷区神宮前3-36-26
Tel: 03-3402-0657
まずはここ、J-Cook。食べ物がスゴくおいしくて、ミーティングで使っていたり、フラッと夜にも来ますね。アットホームな感じだけどすごくオシャレで、かかっている音楽やインテリアもすごく好きです。

洋菓子舗 ウエスト 銀座本店
住所: 東京都中央区銀座7-3-6
Tel: 03-3571-1554
2つ目は銀座ウエスト。変わったライティングでとてもカッコいい場所。不思議な感じがするのも好きなところです。

名曲喫茶ライオン
住所: 東京都渋谷区道玄坂2-19-13
Tel: 03-3461-6858
最後が名曲喫茶ライオン。渋谷の円山町に1930年頃からあるらしいのですが、古いステレオがあって、スピーカーもすごく音がいい。クラシックを流しているんですが、きちんとプログラムがあって、コンサートを聞きに足を運ぶような場所です。全部おすすめですよ。

 

 

(第1回/全3回)【インタビュー】Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル)、ストリートウエアブランド C.Eのディレクターであり NIGO® の相談役。謎に包まれてきた彼のこれまでのキャリアにせまる

(第2回/全3回)【インタビュー】Toby Feltwell (トビー・フェルトウェル)、C.Eのディレクターであり NIGO® の相談役。ヒットブランドの仕掛人が語る、ブランド論とは

 

Toby Feltwell

Toby Feltwell

トビー・フェルトウェル/C.E ディレクター
英国生まれ。96年より Mo’Wax Records にて A&R を担当。その後 XL Recordings で自身のレーベルを立ち上げ、Dizzee Rascal をサイン。03年より NIGO® の相談役として A Bathing Ape® や Billionaire Boys Club/Ice Cream などに携わる。05年には英国事務弁護士の資格を取得後、東京へ移住。11年、Sk8ightTing、Yutaka.Hと共にストリートウエアブランドC.Eを立ち上げる。

HP: https://www.cavempt.com
Twitter: https://twitter.com/CAVEMPT
Tumblr: http://commonerror.tumblr.com
Blog: http://blog.honeyee.com/toby