壮絶すぎるイクメン・佐々木常夫さんにライフネット生命が子育てについて聞いてみた。
ワークライフバランス」の象徴と呼ばれる男がいる。長男は自閉症、妻は肝臓病でうつ病を併発し自殺未遂。そんな状況の中、佐々木常夫さん(写真右)は妻を守り、3人の子どもの面倒をみながら、東レ同期トップで取締役となり、家族も再生させた。

家庭と仕事を両立させるため、仕事は徹底的なシンプル化、効率化を図り、部下も定時に帰す。東レ課長時代の1日の様子を見ても、その急がしさと効率の高さがわかる。



仕事では破たん会社の再生や様々な事業の改革に取り組み、2001年には取締役に就任。2003年からは東レ経営研究所社長をつとめ、現在は同社特別顧問をされている。

プライベートでは自閉症の長男に続き、年子の次男、長女が誕生。妻は肝臓病がもとで入退院を43回繰り返し、うつ病を併発。激務の傍ら、家事・育児・看護を行い、数々の困難を乗り越えた。現在は快癒に向かった妻、子どもと共に幸せな生活をおくられている。

そしてその佐々木さんの家族の苦難と再生を描いた著書『ビッグツリー 私は仕事も家族も決してあきらめない』は多くの感動をよび、全国的なベストセラーとなった。

そこで今回、「子育て世代の生命保険料を半額にして、安心して赤ちゃんを産んでほしい」という思いで開業したライフネット生命が、佐々木さんに子育てについて聞いてみました。

育児のために会社を早く帰る場合、周囲に気兼ねする人は多そうです。

本人が仕事を一生懸命にしていれば何も問題ありませんよ。結果を出していれば、みんな協力してくれます。しかし、育児があるから仕事はほどほどに、ではダメです。会社は戦闘集団であり、人助けの組織ではないのですから。

また、ムダな残業はできるだけ追放するべきですね。限られた時間の中で、効率よく成果を出すのがプロです。そして優れた管理職は、部下の残業を減らして、なおかつ成果を挙げるものです。残業する、させるのは、仕事ができないといっているようなものですよ。

仕事を効率的にすることで、家族と自分の生活も大切にできる。そういった人生のタイムマネジメントが大切ですね。ワークライフバランスという言葉より、ワークライフマネジメントと言う方が私にはしっくりきます。

人生のタイムマネジメントというのは初めて聞きました。

仕事の場合のタイムマネジメントは、「何が大事なのか」を決めることです。そして人生においても何が大事なのかを決める。仕事は大事ですよ、だけど家族も大事、コミュニティも、趣味も大事です。

だから「何歳になったからこれをする」じゃなくて、その時によって重点配分を変えたらいいんですよ。100%仕事だけやっていると、次の場面で思うようにいかないわけです。大事なものを忘れていますから。

例えば「熟年離婚」というテレビドラマでは、仕事一筋だった主人公が定年退職を迎えた日の夜に、長年連れ添ってきた妻から突然離婚を言い渡されます。この主人公は、仕事のマネジメントはできたかもしれませんが、人生のマネジメントができてなかったんです。

その時々でうまく優先順位を入れ替えながら、バランスを保つことが大事ということですね。

やっぱりね、男には勝負の時があります。例えば30代前半の残業時間は200時間を超えていました。私が先ほど言ったのは、一番会社で楽な時期なんです。課長は楽だった(笑)。

何が楽ってね、部長という上司はいますが、定期的に報告しておけば、細かい事は言ってこないものです。「あいつは黙っていても2週間に1回、報告にくる」と思わせて、結果も出していれば何も言われません。

ところが、段々立場が上になると帰れないんです。私の上に副社長がいて、社長がいて、会長がいて。色んな事を聞いてきたり、指示したりする。まるで担当者ですよ(笑)。だから、課長っていうのは良かった。

今考えてみたら、仕事を滅茶苦茶やった時期、楽だった時期の繰り返しですね。勝負をする時は、趣味も何も全部外して仕事に全力を注ぎます。

多忙なときのご家族との関係は、どんな風にされていたんですか?

家内が入院した頃は、子どもが小さかったですから、祖父母に助けを求めました。近所の人や先生、会社の人に頼ったらいいんです。人というのは優しいもので、頼まれてやってあげると、喜ばれるでしょ。そうすると助けた方も幸せを感じますよ。また、子どもは色んな人と接することによって幅広い人間に成長していきます。

娘にもよく助けられました。私は彼女のことを「戦友」って言っているんですけど、最大のサポーターだった。大きくなった今でも、娘は会社に電話をしてきて「お父さん今日お寿司行かない」って誘ってくれる。

一緒に戦ってきた家族です、それなりの信頼関係がありますよね。そういう関係が作れるというのは、自分の幸せに繋がることです。

子育てにおいて重要だと思われることは何ですか?

以前対談で「親というのはなるべく長い時間、子どもと接したほうがいい」という話しをされた方がいたんですが、「それは違うんじゃないですか」と言いました。

私は6歳のときに父を亡くして、それ以来、母は働きづめでした。朝6時半に家を出ていって、帰ってくるのは夜10時の生活。1年で休むのは4日だけ。母との会話っていうのはあまりなかったけれども、うちの家族は絆が深いですよ。

親が子どもと付き合った時間の長さではなくて、「親が子どもにどう真剣に向き合ったか」ということだと、私は思います。私が親になってからの子どもとの接し方も、それに近いものがあった。一瞬一瞬真剣に向き合いました。

佐々木さんの著書でも、お母様との関係が印象的ですね。

私が小さい頃に、果物屋からリンゴを盗って食べたことがあるんですね。それを知った母がものすごく怒りまして。果物屋さんに行って土下座して謝らせて、帰り道のプールのそばで「今度人のものに手を出したら、お母さんはあなたと一緒にこのプールに沈みます」と言ったんですよ。

そのプールはちょうど3週間前に溺れ死んだ人がいて、怖くてね。「もう絶対に人のものは盗まない」と思いました。母の言葉や顔は、今でも覚えていますからね。よほど怖かったんですよ、そして親はよほど真剣だったんですね。

親というのは四六時中注意することはないんです。肝心要の時にドカンとやるんです(笑)。骨の髄までというやつです。

今日のお話もそうですが、著書からも大変な境遇にある中、前向きな人柄を感じるんですが、それは何故ですか。

私は「人の幸不幸は計れない」と思っているんですね。私の抱えていた不幸と、不登校の子を持つ母親の不幸、どっちが大きいか。それはどっちとも言えないですよ。

家族が大変な頃には、何もトラブルが起きないだけで「幸せだな」と感じていました。人間は置かれた状況の中で幸せを感じ、不幸を感じるんだと思います。だから周りからみて大変だなと思われていても、私は普通のことだろうと思ってニコニコしている。

そうすると周りの人も楽しいですよね。私の母は非常に苦労しましたけど、いつもニコニコしていましたからね。それを見て育っていますから。

最後に、ライフネット生命に対するメッセージをいただけますか。

理念がすごくいいなと思っています。保険で嫌なのが、サッと説明されるんですが、その後ものすごく分厚い資料がくるんです、絶対に読まないという(笑)。あんな不親切なものってないですよね。

私はいつも「シンプル主義であれ」って言っています。なんでも簡潔じゃなきゃならない。色んなものを省略すると、コストが下がる。そうすると人間の幸せに繋がるんですよ。世の中は必要以上に複雑で、コストが高すぎるんです。もっと簡潔にして、コストを下げて、経済的負担をかけさせないような仕組みにすべき。そのためには、ネットがすごく重要だと思っています。

本日はありがとうございました。
聞き手:猪瀬祐一(ライフネット生命 マーケティング部)
3歳の女の子と10ヶ月の男の子のパパで、育児に奮闘中。

今回のような育児インタビューは、新米パパママのための特集『育児はいつも、波乱万丈( ̄▽ ̄)』というコーナーで連載中です。次回もお楽しみに!

■記事協力:ライフネット生命
http://www.lifenet-seimei.co.jp/

[PR記事]
■関連リンク
特集『育児はいつも、波乱万丈( ̄▽ ̄)』
佐々木常夫オフィシャルサイト

※佐々木常夫さんが指摘したムダな残業については、ライフネット生命・創業者の出口治明氏も次のようなコラムを書かれています。
日本人の労働時間が長い原因は残業を「評価」する誤った精神論にある


取材・文章:志水理恵子 企画・編集:谷口マサト