若手選手が台頭し、"戦国時代"の様相を呈している男子車いすテニス界。その頂点に君臨するのが、世界ランキング1位の国枝慎吾選手(29歳)だ。今シーズンを彼は「変化の年」と位置付け、自らにさまざまな試練を課すことで自分のテニスを追求した。改めてテニスに正面から向き合い、何を得たのか。その胸の内を聞いた。

―― 今年はグランドスラムの試合を落とすなど苦労した一方で、最終的には年間世界ランキング1位を獲得されました。今シーズンはどんな1年でしたか。

「パラリンピックが終わった後だし、何が何でも結果を出すという年でもなかったので、勝ちにこだわる試合、内容にこだわる試合と、今シーズンはいろいろ試しました。その中でどれだけできるのかを見たかったんですが、調子が上がらないことが多くて、苦労したシーズンでしたね」

―― 成績だけみると通算7敗しているんですね。近年では珍しい数字だなと思います。

「これほどの数字は最近ではないですね。右肘を手術した去年も含めて、この5年間では多くても3敗くらいだったので。そういう意味では、なかなか負けたシーズンだったなと。でも、自分の成長のためには調整する試合もやらならいといけませんから」

―― 具体的にはどういったことに挑戦したのですか?

「今年は中盤あたりからドライブボール、つまり、ちょっと浮かしたボールで前に詰めてノーバウンドで処理していくというショットを増やしていきました。最近は相手に自分のテニスを研究されていて、試合でも"読まれてるな"と思う場面が増えた。だから、今年のテーマは『変化』だったんです。ドライブボールを増やしたのも、今までのプレイにプラスアルファをしていかないと、これから殻を破ることが難しくなってくると感じたからです」

―― 何かを変えるということは、とても大変なことだと思います。

「たしかに、『変える』ことにちょっと臆病になっていたところがありました。それは結果を出しているからこそかもしれませんが、遅れをとらないために、変化をより意識しないといけないと思っています」

―― 全仏オープンと全米オープンは準優勝でした。この2つはグランドスラムなので、「勝ちにいった試合」の方だったと思うのですが、その試合で負けてしまった時はどのような心境でしたか?

「今まで出ていた結果が出なかったことに対しては、自信が揺らぎました。でも、攻める場面で攻めきれていない、つまり決定力のなさが原因であることは明確だったので、逆にそこさえできれば十分試合展開は変わるという分析もしていました。ただ、原因はわかっても何故それができないのかとなると、やっぱり練習内容が上がっていないからという結論になるので、丸山(弘道)コーチにアドバイスをもらったりしました。最終戦の世界マスターズでは、この課題がクリアできた。結果を残せたのはよかったですね」

―― 変化・挑戦の今シーズン、国枝選手を支えたものは何でしょうか。

「ちょっと矛盾してしまうんですけれど、去年も一昨年も逃していた年間ランキング1位が欲しかったんです。だからここはトライする、ここは勝ちにいってと、計算したうえでの試合の出方をしていました。逆に、なかなか調子が上がらない中で1位になったのは僕の中では大きいですし、これからきっと自信になっていくと思います」

―― 近年は若手選手が台頭してきましたね。

「(グランドスラムに出場する開催国枠以外の)トップ7では去年とは3人が入れ替わっているし、そういう意味では十分変わった年かなと思います」

―― 勢力図が大きく変わろうとしている今、心境に変化はありますか?

「やっぱり、データが入っている戦い慣れた相手と、新しい3人とやるのとでは、自分自身も臨むにあたって心境が違います。若手はなかなか読めない部分もあるので。でもね、今年1年やってみて、手がつけられなくなる感じはしないなと思いました。もちろん成長はしているけれども、自分のコントロール外に行くことはなさそうかなという期待はありますね。ただ僕と彼らとの差は少しになってきているので、最終的には自分が彼らの『壁』になりたいです、やっぱり」

―― 苦しい今シーズンを乗り切るきっかけになったプレイ、ポイントになった大会などはありましたか?

「それはやっぱりフットワークの良さ。自分の原点ですね。そこはいろいろ悩んだんです。勢いある選手が増えたので、試しにパワーを重視した新しい競技用車いすも作りました。でも結局、フットワークの良さが自分自身の武器であり魅力なので、スピードを落としてまでパワーを上げるというのはないかな、という結論に至った。これから車いすを変えるとしても、それはフットワークの良さを生かすことを大前提にしたものになる。いろいろ考えた年でしたよ、そういう意味では」

―― 12月の沖縄合宿は、どういう目標を据えているんですか?

「オーストラリアの2つの大会に向けての調整ですね。もうそろそろ出発なので、フィジカル的にも追い込まなきゃいけない時期です。協会としての合宿のあと、もう一回個人で沖縄合宿をやる予定です。暖かい場所で長期間のトレーニングをするのは貴重ですね」

―― 来シーズンの目標は?

「1月にシドニーの大会(1月10日〜)に出て、その後の全豪オープン(1月22日〜)を取る。それで勢いをつけたいですね。全体としては、変わらずグランドスラムです。今年2つ(全仏・全米)を逃していますし、来年は全部取りたいですね。内容にもこだわって、チャレンジする。来年も年間1位を目指します」

―― プレイの面で磨きたいところは?

「新しいショットというのはもうないけれど、今年は自分の決め球の精度次第で流れが大きく変わっちゃうことを痛感したので、まずはそこをきっちりと仕上げることが必要かなと思います」

―― 最終目的のリオパラリンピックに向けての「のびしろ」は、ご自身ではどう感じていますか?

「今のプレイスタイルがほぼ完成形かなということが見えてきました。車いすを変えれば少しは変わることもあるでしょうけれど、そこまで大きくプレイスタイルを変える必要はないと思う。あとは全体的にショットの精度を上げたり、少しパワーを付けたりと、そういう作業になりますね。テクニック面やプレイスタイルの面というより、フィジカル面の強化のほうが大きいかな。他の選手も急激に変わる様子もないし、自分はまだまだ通用すると感じているので、今のテニスにプラスアルファを付け足していくという感じ。頑張りたいですね」

荒木美晴●文 text by Araki Miharu