「レーシック」に代わる近視矯正手術として、「ICL(眼内コンタクト)」が注目されている。屈折矯正手術に詳しい眼科専門医、神戸神奈川アイクリニックの診療部長、北澤世志博医師に、「レーシック」と「ICL」の違いなど、最新の近視矯正手術について聞いた。(写真はサーチナ撮影)

写真拡大

  「レーシック」に代わる近視矯正手術として、「ICL(眼内コンタクト)」が注目されている。2013年12月4日に消費者庁が、レーシック手術に関する注意喚起を行って、「レーシック」によるハロー(光の輪が見える)、グレア(光の散乱によるまぶしさ)、ドライアイなどの術後合併症がクローズアップされているが、「ICL」では、これらの症状を避けられるという。屈折矯正手術に詳しい眼科専門医、神戸神奈川アイクリニックの診療部長、北澤世志博医師に、「レーシック」と「ICL」の違いなど、最新の近視矯正手術について聞いた。(写真はサーチナ撮影)

――「レーシック」に代わる近視矯正手術といわれる「ICL(眼内コンタクト)」とは、どのような手術ですか?

  ソフトコンタクトレンズのような柔らかいレンズを、眼の中に挿入して、近視を矯正する手術です。ICLは3mm程度の小さな切開部から挿入しますので、角膜の形状をほとんど変化させず、視力矯正を行うことができます。眼の中にレンズを入れますから、コンタクトレンズのように外して汚れを落とすケアの必要もなく、異物感もまったくありません。

  2007年からICL手術を行っていますが、これまで視力が1.0以上に矯正できたのは98.1%と、強度の近視にも対応できる優れた近視矯正手術であると思っています。

――あまり聞き慣れない手術ですが、「ICL」の実施実績は? 

  1986年にヨーロッパで始まりました。日本では1993年に臨床試験が実施され、2010年に厚労省の認可を受けました。日本での認知度はまだ低いですが、欧米やアジア各国など、世界70カ国で手術が行われています。

  ICL手術を実施する医師は、認定指導医による特別な指導を受けてライセンスを取得しなければなりません。日本では、白内障手術に準じた設備があるなど、一定レベルの設備のあるクリニックで実施されています。ライセンスを持つ眼科専門医は2013年12月現在、121人で、日本における手術実績は、1万件以上あります。

  手術時間は、両目で15分から20分間程度で終わります。点眼麻酔をするだけですので、痛みや入院の必要もなく、手術当日に歩いて帰宅できます。一般的に術後1時間程度で視力は0.5−1.0程度に向上し、翌日からは1.0以上の快適な視力になります。

  ICL手術で使用するレンズは、HEMA(ヘマ)という素材にコラーゲンを含ませたものでつくられ、眼の中で異物として認識されにくく、術後は生涯にわたって使用しても劣化しません。また、紫外線をカットする機能もあるので、眼にやさしいレンズです。

――ICL手術は、誰でも受けられるのですか?

  20歳以上で近視の方なら、基本的に誰でも受けられます。ただ、緑内障、糖尿病網膜症、白内障など眼の病気のある方は、術前検査で詳しく適応を調べた結果、手術が受けられないことがあります。

  20歳以上としているのは、20歳までは近視の進行など視力の変動があるためです。視力が安定するといわれる20歳以上の方々に手術を実施します。

――「レーシック」と比較して「ICL」のメリット・デメリットは?

  「レーシック」は、角膜にレーザーを照射して、角膜を削り、カーブを調整することで近視を矯正するため、角膜の薄い人には不向きです。日本眼科学会が定めるガイドラインで、矯正できる近視の度数が定められています。その点、「ICL」は、挿入するレンズの度数を選べますので、「レーシック」が受けられないほど近視が強い方にも対応できるというメリットがあります。また、角膜の薄い方でも受けられます。

  また、「レーシック」の手術後に現れる、ハロー、グレアなどが、「ICL」では極めて少ないというメリットがあります。また、「レーシック」で問題になるドライアイや知覚過敏という症状も「ICL」ではほとんど起きません。

  さらに、「レーシック」は角膜を削ってしまうため、一度手術を受けてしまうと元に戻せないというデメリットがありますが、「ICL」は必要があればレンズを取り出すことができるので、元の状態に回復することができます。

  このように、「ICL」には、「レーシック」のようなデメリットはないのですが、あえていうなら、手術費用の面で、「ICL」は「レーシック」の2倍ほど費用がかかります。「レーシック」手術は10万円程度から30万円前後で両目の手術が行われていますが、「ICL」では70万円程度の費用が必要になります。

――「ICL」のリスクは?

  眼の中にレンズを挿入するため、角膜の内側にある角膜内皮細胞が減少するリスクがわずかにあります。角膜内皮細胞が減少すると、矯正視力が低下することがあります。ただ、角膜内皮から離れたところ(虹彩と水晶体の間)にレンズを挿入するため、「ICL」による角膜内皮細胞が減少するトラブルは極めて少なく、これまでに1%以下の確率で報告がある程度にとどまっています。

  その他、まれに水晶体が混濁する白内障のリスクがあります。しかし、白内障は治療方法が確立されているため、症状が進行した場合は、手術で良好な視力を回復することができます。また白内障手術の際、多焦点眼内レンズを使用すれば、老眼も同時に治療することが可能です。

――「ICL」を受けた後に視力が低下することはありますか? また、術後のケアは?

  「ICL」を受けた後、近視が進行しなければ視力が低下することはありません。安定性に優れており、矯正効果が長期にわたって続くことが特長です。

  手術後2−3カ月間は、目薬の点眼をしていただきます。「ICL」のリスクをあえて挙げるなら、手術をした方が、あまりに快適になって術後ケアをおろそかにする傾向があることです。当院では、手術後の1年間は数カ月ごとに、その後も1年ごとの定期検診を呼びかけていますが、中には、メガネやコンタクトレンズを使わない快適な生活が当たり前になって、定期検診に来られなくなる方がいます。検診は必ず受けましょう。

  手術直後は、切開したところから細菌が入り、感染症になる恐れもありますから、手術後のケアはきちんと行う必要があります。

――視力矯正手術を考えている方へのアドバイスをお願いします。

  消費者庁から「レーシック」に関する注意喚起があったばかりですので、視力矯正手術に対して不安を持たれている方も少なくないと思います。ただ、消費者庁が発表した内容をみると、手術前に十分な説明がなされていなかったことに大きな問題があるようです。すでに「レーシック」は、国内でも100万件を超える実績があり、経験豊富な眼科専門医が執刀すれば、極めて安全性が高く、その有効性は世界的にも学術論文報告等で確立されています。術後に一時的な合併症があるのは事実ですが、手術に関する満足度は95%以上という調査結果もあります。

  また、現在では、「レーシック」に加え、「ICL」など新しい手術も厚労省から認可され、さまざまな方法の中から、自分に最も合った方法を選ぶことができます。手術にあたっては、事前に医師から十分な説明を受け、納得のいく方法を選ぶようにしてください。(編集担当:風間浩)