2000年代前半、K−1とPRIDEは隆盛を極め、日本中に格闘技ブームが巻き起こった。しかし、2007年にPRIDEは活動を休止し、K−1も海外を中心とした新体制へと移り変わり、日本の格闘技人気は下火になったと言われている――。

 しかし、今、後楽園ホールを超満員にし、チケットが入手困難になるほどの打撃系格闘技イベントがあることを、みなさんはご存じだろうか? そのイベントの名は、『Krush』。個性豊かな選手たちが織り成すスピーディかつアグレッシブな試合展開と、衝撃的なKO劇の連続が話題を呼び、大きな盛り上がりを見せている。

 一方、週刊ヤングジャンプで連載中のキックボクシング漫画、『モングレル』。超人的なキャラクターと必殺技が飛び出す従来の格闘技漫画とは一線を画す、格闘技経験のないひとりの若者がジムに入会してアマチュアからキャリアをスタートさせるストーリーだ。リアリティある練習や試合の描写は、格闘技ファンだけでなく、選手・関係者の間でも人気を博している。

 今回、そのKrushの第3代−63kg級王者・山崎秀晃と、『モングレル』の作者・村瀬克俊の対談が実現。ファイター、そして漫画家、それぞれの立場からキックボクシングについて熱く語り合った。

山崎秀晃(以下、山崎):今回、対談の話をいただいて、素直にうれしかったです。自分たちもいかにメディアに取り上げてもらい、発信していくかが大事だと思っているので。

村瀬克俊(以下、村瀬):僕は純粋にキックボクシング(以下、キック)が好きなので、Krush王者の山崎選手とお会いできて、ちょっと舞い上がっています......。

山崎:そんなに緊張しないでください(笑)。

村瀬:もともと僕は、中学生のころからずっと立ち技格闘技のファンで、漫画家になって週刊少年ジャンプで初めて連載した漫画(『K.O.SEN』)も、キックを題材にしたものだったんです。『モングレル』を連載している週刊ヤングジャンプは青年誌ということもあって、少年誌では書けなかったリアルなキックのカッコよさを描いてみたいと思いました。

山崎:キックの漫画はあまり聞いたことがなかったですし、Krushファンの人は、絶対に『モングレル』を読んだら好きになると思いますよ。

村瀬:ありがとうございます。僕は山崎選手の試合を会場でも映像でも見ているんですが、倒せるときに確実に相手を倒す姿と、パンチの連打が印象深いです。

山崎:(格闘技は)最後は気持ちなんで、ケンカのつもりで戦っています(笑)。

村瀬:もともと、山崎選手は伝統派空手をやられていたんですよね?

山崎:はい。キックを始めてからも、距離感やステップは伝統派空手と同じです。伝統派空手の間合いはキックと少し違うので、試合中に、「この距離、俺がパンチで入れる間合いやけど、(逆に自分は)ディフェンスしなくて大丈夫?」と思うこともあります。

村瀬:そうなんですね。アマチュア時代には名城裕司(K−1 MAX2011日本王者)選手とも試合しているんですよね?

山崎:無差別級のトーナメントで対戦しました。ちょうど、僕と名城選手が体育館の端と端にいたんですけど、名城選手がミットを蹴ると、僕のところまで「バーン!バーン!」と音が聞こえてくるんですよ。トーナメントを全試合KOで勝ち上がってきてたので、ぶっちゃけ試合はやりたくなかったです(苦笑)。

村瀬:そんなエピソードがあったとは!

山崎:だからもう、名城選手の攻撃をひらりひらりとかわして、自分の攻撃だけを当てる作戦で戦って、それがうまくハマって勝つことができました。今ではいい思い出です。

村瀬:山崎選手にとって、Krushとはどういう場所ですか?

山崎:僕はデビュー3戦目からKrushに出るようになって、最初は新宿FACEからスタートして、結果もドローでした。はっきり言って当時の自分を見た人は、誰も僕が上に行くとは思っていなかったと思います。でも、Krushで経験を積むうちに自信と実力がついてきて、憧れの選手と試合を組んでもらって撃破する――。その繰り返しでステップアップして、チャンピオンになることができたので、(Krushは)自分を成長させてくれた場ですね。客観的に見ても、第1試合からメインまで、選手みんながKrushというイベントを盛り上げようという気持ちで戦っているので、ひとりのファンとしてもお金を払って見たいイベントです。逆にまだ、Krushを見たことがない人は、一度でも試合を見てくれたら絶対に虜(とりこ)になると思いますね。

村瀬:Krushは選手ひとりひとりが、「Krushという舞台」に誇りを持って戦っているように思います。Krushの選手は試合中、「ここで倒せる!」というときに、躊躇(ちゅうちょ)することなく全力で倒しに行くじゃないですか。危険をかえりみずに前に出ていく姿は、心を打つというか、一緒に試合を見に行った僕の担当編集者も試合中に興奮して立ち上がるんですよ。Krushは格闘技に詳しくない人でも興奮・感動する、見ていて気持ちが伝わる試合が多いので、Krushを見ていればキックの一番面白いところが見えるんじゃないかなと思います。

山崎:戦っている側としても、その会場の雰囲気は分かります。でも、僕は会場が冷めていても、それはそれでいいんですよね。「やっぱり俺が行くしかない」「俺が出んとアカンな」という気持ちで戦えるので。

村瀬:これはちょっと漫画家という今回の立場を利用して聞いてみたかったのですが、山崎選手は初防衛戦で対戦した木村ミノル選手と調印式で乱闘寸前になったじゃないですか(山崎と木村は12月14日のKrush後楽園大会で対戦し、山崎がKO勝利)。あれは......、どのくらい本気だったんですか?

山崎:100パーセント、本気です。言葉は悪いかもしれませんが、僕は試合になったら、相手の息の根を止めるつもりで戦うんですよ。そのくらい入れ込まないと、本気で人間を倒せない。だから、僕は試合が決まったら、絶対に対戦相手と握手はしないし、挨拶もしません。たまに計量会場で顔を会わせても、僕は無視しますね。無愛想ですけど。対戦相手は僕の人生を妨害しようとする人間じゃないですか。そういうやつは許さない。そういう気持ちでリングに上がりますね。

村瀬:なるほど。

山崎:ファンの人に「キレたフリをしてるんですよね?」と言われたとき、「ギャグですよ!」と答えることもありますが、正真正銘の本気です。

村瀬:試合前の裏話を聞けてうれしいです。

山崎:やっぱり、僕は人生をかけて格闘技をやっているので。そのくらいの覚悟を持って戦っています。

村瀬:実は、『モングレル』のシーンで、まだアマチュアの選手がプロのトップ選手たちに生意気な口をきくシーンがあるんですけど......。

山崎:大丈夫ですよ。僕もアマチュアのころは、すぐチャンピオンになれると思ってましたから(笑)。アマチュア時代はほぼ負けなしで、当時は「趣味程度に格闘技をやって、それで、『プロで試合してください』とお願いされたらやってもいいかな」くらいに思っていました。今、思うとむっちゃ生意気ですけど(笑)。

村瀬:それを聞いて安心しました! 数ある格闘技の中で、僕がキックに魅力を感じるのは、技のフォームですね。学生時代に格闘技雑誌を見ていて、ミドルキックの写真が大きく使われていたんです。その蹴りのフォームが本当に美しくて、写真1枚を見ただけで、このあと絶対に重い蹴りが飛んでくるんだろうなって想像できました。打撃の技は荒々しくも、ひとつひとつが綺麗で、どれだけ激しいドロドロの試合でも、スロー映像や写真を見るとそこには必ず、『美』がある。僕は、それがキックの魅力かなと思います。

山崎:『モングレル』の第1話で、小菅健太郎(主人公のジム仲間)がワタル(主人公)を倒したカウンターのハイキックのフォームとタイミングは、実戦と同じですよね。

村瀬:ありがとうございます。

山崎:ワタルも熱くなってガードが下がっちゃいましたけど、僕と同じタイプですね(笑)。でも、実際にパンチで突っ込んでいく選手のガードが下がったところにハイキックが当たるというのは、実戦ではよくあることで、ここまで細かく試合を見てもらえると選手としてはすごくうれしいです。

村瀬:写真を見過ぎると、どうしても写真絵になってしまうので、やっぱり僕は漫画絵にしたいんですよね。だから人形を戦わせて、それをモデルに描くこともありますね。

山崎:僕でよければいつでもモデルになるんで、遠慮なく言ってください(笑)。

村瀬:山崎選手は、漫画は読まれるんですか?

山崎:はい。実は結構な漫画好きで、メジャー、マイナー、ジャンルを問わず、どんな漫画も読むんですよ。こう見えて少女マンガも読みますからね(笑)。

村瀬:えーーっ!!

山崎:高校のころ、クラスの女の子からよく少女マンガを借りていたんです。一度、僕が大人になってからドラマ化された漫画があって、「あの漫画って結局、最後はどうなったんやろ?」と思って、まとめ買いして1巻から読破したこともあります。

村瀬:ちょっとイメージと違いますね(笑)。

山崎:もちろん、格闘技系の漫画も好きで、『高校鉄拳伝タフ』(1993年〜2003年に週刊ヤングジャンプで連載)は読んでましたよ。

村瀬:今、書いている漫画は、同じ格闘技漫画でも、アマチュアのジム生が練習して......というリアリティのあるストーリーなのですが、山崎選手はどんな場面が読みたいですか?

山崎:今までの格闘技漫画は必殺技が出てきたり、自分と重ねるのが難しいというか、客観的に読者として読んで面白いものだったと思うんです。でも、『モングレル』はドキュメントみたいな漫画なので、選手ひとりひとりの人間ドラマとか、試合に臨むまでのストーリーをリアルに描いて欲しいです。

村瀬:僕が「こういう楽しみ方をしてもらえたらいいな」と思うのは、登場キャラクターが増えて、読者のみなさんに「あいつとあいつのカードが見たい!」と想像して欲しいんです。「Aは負けちゃったけど引退するんじゃないの?」や、「Bが勝ったんだから、次の相手はCしかいないでしょう!」だったり、そういった試合結果と選手のドラマを、ドキドキ・ワクワクしながら読んでもらいたいです。

山崎:まさにKrushですね(笑)。

村瀬:登場人物に感情移入できるかどうかは、リアルでも漫画でも変わらないと思うんです。感情移入して試合を見たほうが絶対に興奮するし、試合を見ながら手に汗握りますからね。Krushは大会のペースが月1〜2回だと思うので、Krushがないときには『モングレル』を読んで、Krushと同じように楽しんでください、と(笑)。

山崎:相乗効果になるといいですね。格闘技好きな人のためだけでなく、もっと外に向けて発信していきたいというのは僕も村瀬先生も同じだと思うし、キックの漫画があることは、僕ら選手にとっては本当にありがたいです。

村瀬:キックを見たことがない人に、「読んで面白かったです」と言われたり、「ジムに行ってみたくなりました」と言われると、少しはキックに貢献できたかなと思ってうれしくなります。

山崎:僕もKrushのチャンピオンとして、『モングレル』を通じてKrushやキックボクシングの楽しさを知ってもらえたらと思うので、ともに注目していただけたらうれしいです!

中村拓己●構成・文 text by Nakamura Takumi