12月13日からショートトラックスピードスケートのソチ五輪代表選手選考会が行なわれた。リレーでメダルを狙う女子チームの中でも、3日間の6レースで圧倒的な力を発揮したのは、酒井裕唯(日本再生推進機構)だった。

 9月には今大会と同様に、ソチ五輪選考の対象で選考方法も同じ全日本距離別選手権に出場。酒井は距離別でも500m2勝、1000mは1位と4位、1500mは1位と2位で総合トップに立っていた。(選考方法は500mと1000m、1500mを2回ずつ滑り、それぞれの結果をポイント化。2大会の種目別得点と総合得点で代表を決める)

 そして今大会、他の選手に先手を取られても、「後半はペースが上がってくるので前の選手を抜くデッドラインがある。そこで動かなければ逃げられてしまう」と冷静に展開を読み、絶対的なスピードで外側から前に出て圧勝するというパターンをこれでもかとばかりに見せつけ、6レースすべてで優勝したのだ。

 その圧勝には伏線があった。9月末から始まったW杯では、11月の第3戦と第4戦に五輪の日本出場枠獲得がかかっていた。11月7日からのW杯第3戦トリノ大会では、最も貢献しなければいけない立場でありながら1500mと1000mではインコースを突いた行為を反則に取られて失格してしまった。

「もう日本に帰れないと思いましたね。すごく落ち込んでしまって、トリノの街をさまよい歩いていました」

 結果的に日本はリレーでも出場枠を取り、個人種目もすべて3枠を獲得したが、酒井がその戦いで感じたのは世界の高速化だった。これまでは距離が長くなる外側からでも簡単に前の選手を抜いていた強い選手でさえ、外側からはそれほど簡単には抜ききれないような状況だったのだ。

 そんな経験から、帰国後は男子選手の後に付いてスピード強化をした。その結果、W杯トリノ大会後の約1ヶ月の練習で、1周111.12mのトラックで男子について、ラップタイム8秒7まで出せるようになっていた。これは3年前、バンクーバー五輪後に自らが刻んだラップタイム(9秒3)とは次元の違うスピードである。

「世界で戦うためにはスピード持続力をもう少しつけなければいけないけど、瞬発力も上がっていたので、今回は『スピードがついた』という自信をうまく生かして戦えました」と酒井は笑顔を見せた。

 他の選手たちも酒井に敗れたとはいえ、それぞれ自分との戦いをしていた――。W杯や世界選手権でメダルを獲得した昨シーズンからは、酒井を筆頭に伊藤亜由子(トヨタ自動車)、桜井美馬(東海東京証券)、清水小百合(中京大学)で固められていたリレーメンバー。彼女たちはこの大会に向けて「誰かひとりでも脱落するわけにはいかない。総合ポイント4番以内に入って、全員でソチへ行こう」と話し合っていたのだ。

 その中でも、今年はナショナルチームのキャプテンを務めた、27歳で最年長の伊藤は厳しい状況にあった。9月の距離別で腰を痛め、全治2週間の腰椎分離と診断された。それでもW杯上海大会に強行出場したが、10月下旬には右ひじを脱臼。さらに枠取りがかかったW杯にも出場したため、今大会はまだ十分に腕が振れない状態だった。

 だが彼女が見ていたのは、五輪での戦いであり、この大会の勝ち負けではなかったという。

「今の状態で勝つ方法もあったと思うけど、世界の現状をみると最初から前に出てレースをしないと通用しないので、そのイメージでレースをして、前に出るタイミングやスピードを上げるタイミングは良かったと思います。W杯後はリハビリに時間を費やして滑り込みが不足していたので、スピードを上げていかなければいけない後半に失速していました。でも私としては五輪を見据えたレースをしたかったので、負けてもそこは譲りたくなかったんです」

 こう話す伊藤はこの大会、すべてのレースでA決勝に進出して500mはともに2位、1000mと1500mは2位2回で、合計ポイントでも同大会2位の成績を残した。

 同じようにすべてのレースで決勝に進み、スタート後は常に先手を取るレースをしていた桜井は、この大会の合計ポイントは3位としたが爆発力をみせるまでにはいたらなかった。

「W杯後は酒井さんと一緒に兄(雄馬)の後について滑ったことで、すごくスピード感もつき、先週は自己最高ラップも出せたんです。だから調子はよかったけど、まだレースになると弱気になってしまう部分があるので」と苦笑する。前回のバンクーバ五輪はエースとして大会に出場した。だが今回は酒井や伊藤がいる状況。「気持ち的には前回より楽ですね」という桜井は、さらなるスピードアップを計って自信をつけて本番に臨みたいという。

 そんなバンクーバー五輪経験者と違い、ソチが初めての五輪出場となる清水は、「初日と2日目はすごく緊張して空回りしてしまった」と苦笑する。全日本距離別選手権(9月)が終了した時点で、総合ポイントでは3位につけていたが、今大会2日目までは、500m以外、順位決定戦のB決勝止まり。是が非でも出場権を獲得したかった得意な500mも、最終日の2回目はA決勝に進めず桜井にその権利を譲る結果になってしまった。

「いつも通りの自分を取り戻そうとしたけどなかなかできなくて。でも最終日だけは、気持ちを切り換えて腹を括ったじゃないけど、思い切ったレースをしなければいけないなと思いました」

 こう話す清水は最終種目の1000mでA決勝に進んで3位となり、この大会で初めてメダルを手にして五輪代表を決めた。

 本番のソチ五輪では、この4人にリザーブの菊池萌水を加えた3000mリレーが、メダルの可能性を持つ種目。全員が「メダル獲得が目標」と口にしているが、今季のW杯では全員の調子が上がっていなかったこともあり、4大会ともA決勝に進めずにいる。元々強い韓国と中国以外にも、カナダとイタリアが力をつけてきたのだ。

 伊藤は「今年は他の国の力の入れ方や気持ちの入り方も違うと思います。強かった選手はさらに強くなり、遅かった選手が急に強くなってきていますから」と話す。また酒井も、「イタリアも長い距離が持たなかった選手が、最後までスピードを持続できるようになっているのはわかっている」と話す。

 ソチに向けて選手たち全員が口にする共通の課題は、スピードアップだ。表彰台へ上がっていた時は4人全員が1周8秒台のラップタイムでつなげられていたが、今年は9秒台に落ちてしまうことも多いという。

「トップスピードの足りなさだけでなく、今シーズンのW杯ではタッチのミスも目立っていたからその精度を上げなければいけない。でも日本の強みは全員の力がそろっていて穴がないことです。他の国は強い選手と弱い選手の差があり、1、2走はすごく速くても、3、4走は劣るというのがあるから。バランスの良さを生かしつつ、全員のスピードを上げていくのが課題です」と伊藤は語る。

 リレーの場合は流れも大切だ。遅い選手からタッチを受けると、次の選手はそこから加速していかなければいけないので力を使ってしまう。

「スピードの上げ下げがあると、いくら強い選手でもバテてしまうんです。でも日本の場合はスピードが一定だからきれいに流れを作れる。全員が自分のことだけではなく、次の走者やアンカーのことをすごく意識してやっているチームだから、その良さを生かして勝負したいですね」(伊藤)

 代表も決まり、これからはソチのことだけを考えて練習ができる状況になった。ショートトラック女子のメダル獲得への挑戦は、これから本番を迎える。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi