アスリートの腕が大切な広告スペースなっているという話を以前、この連載で書いたが、実は日本が世界に誇るテニスプレーヤー、錦織圭もまた、腕時計を着けて試合をしている。

 しかし、彼の場合、契約をしてから腕時計をつけるようになったアスリートとは少々事情が異なる。

 実はジュニアの頃から腕時計を着けたまま練習していたため、それが習慣になり、プロになっても腕時計を着けたまま試合をしているのだ。

 幼少期の写真を見ても、昔の映像を見ても、トレーニング中はもちろん、マッサージを受けている最中も腕時計を外さない。彼にとっては腕時計があること自体が日常なのだ。

 2007年のプロデビュー以降の彼の写真を検索してみると、実にさまざまな腕時計を着けているのが分かる。衝撃に強いデジタルウォッチの時もあれば、ポップなグリーンのデザインウォッチの場合もある。色にはこだわりがあるようで、2011年の全豪オープンでは、赤いラインが入ったウェアに合わせて赤い時計を着用している。

 つまり彼は、我々がファッションアクセサリーとして時計を選ぶ感覚で、試合中につける腕時計を選んでいるということ。魅せることも、かなり意識しているのだろう。

 若くて爽やか、しかも実力も申し分ないうえに、腕時計も好きというアスリートに、ブランド側が目をつけないわけがない。かくして2012年にタグ・ホイヤーと錦織圭はアンバサダー契約を結んだ。タグ・ホイヤーと言えばモータースポーツで有名だが、マリア・シャラポワともアンバサダー契約を結んでおり、テニス界との交流も深いのだ。

 タグ・ホイヤーと契約を結ぶ際に、錦織圭が試合で着用するために選んだのは「プロフェッショナル スポーツウォッチ」だった。タグ・ホイヤーのコレクション最軽量なので、着用しながら激しいスポーツができるという、まさに錦織圭のために存在するようなモデルである。

 最大の特徴はバックルと時計ケースが一体化していること。ケースの後ろ側を開いて着脱する仕組みなので、手首への負担が少ないのだ。さらにストラップは柔らかくて肌当たりの柔らかいシリコンラバー製。衝撃に強いクオーツムーブメントを使用することで、"Air Kei"と呼ばれるフォアハンドのジャックナイフ(前足で飛んで空中で強いボールを打つこと)の激しい動きに耐えてくれるだろう。

 時計自体も非常に軽く作られており、タグ・ホイヤーの通常のSSケースモデルの30%の重量しかない。これもスポーツをする際に身に着ける時計として重要なスペックだ。

 そもそもスポーツウォッチというのは、スポーツマインドを掻き立てるようなデザインや機構を持っていても、実際にプレーする時は外すというのがセオリー。たとえば、クロノグラフは時間を計測する機構だが、それを着けてマラソンを走る人はいない。ところが「プロフェッショナル スポーツウォッチ」はトコトン本気。着けてプレーするのが目的だ。

 だからこそ錦織圭が選んだのだろう。彼自身もよほど「プロフェッショナル スポーツウォッチ」が気に入ったのか、2012年3月に行なわれたソニー・エリクソン・オープンから使用しており、さっそくラファエル・ナダル(世界ランク1位/12月16日現在)との激闘を展開。さらにロンドンオリンピックではベスト8に進出し、秋に日本で開催された楽天ジャパンオープンテニスでは見事に初優勝を飾るなど、上り調子の1年だった。さらに2013年もランキング上位をキープした錦織は、今季17位(12月16日現在)でシーズンを終えている。

 錦織圭の活躍の隣には、"腕時計を着けてプレーする"という彼のスタイルを邪魔しないスポーツウォッチの存在がある。タイガー・ウッズが考案し、錦織圭が熟成させる「プロフェッショナル スポーツウォッチ」は、その特殊なコンセプトで、特別な人々を惹きつけている。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo