フリーメーソンの起源は諸説あるが、よく知られているのは中世の石工組合から始まったというものだ。

 石工といっても石垣をつくる肉体労働者ではなく、教会などの大型建築に携わった建築家集団のことだ。彼らは当時としては最先端の技術者で、華麗なゴシック様式の教会をつくりあげる特殊な技法は師から弟子へと伝えられた。彼らはこの技術を携えてヨーロッパじゅうを移動し、「自由なメーソン」と呼ばれるようになった(だからフリーメーソンのシンボルは直角定規とコンパスだ)。

 啓蒙主義の時代になると、イギリスやフランスで知識人がフリーメーソンに続々と入会した。モンテスキューやヴォルテールなどの哲学者のほか、フランス革命の指導者の多くがフリーメーソンだったため、その特異な入会儀式や階級とあいまって、「体制転覆を目指す秘密結社」のイメージが定着していく。

 だがこれは話が逆で、フランス革命前夜、王政打破を目指す啓蒙主義の知識人は反体制派として権力の弾圧を受けていた。そのため彼らは、自分たちの主張や政治行動を秘密にする必要に迫られていた。

 そのようなとき、「秘密」をメンバーの中だけに囲い込む汎ヨーロッパ的な組織が手近にあれば、それを利用するのがもっとも簡単で効果的だ。このようにしてフリーメーソンは発見され、啓蒙主義者や革命家らによって利用されたのだ。

 こうした事情は、「秘密結社大国」である中国ではどうなっているのだろうか。ここでは、山田賢『中国の秘密結社』(講談社選書メチエ)の魅力的な論考を紹介したい。

宗教結社が王朝を倒した中国

 山田氏は、中国の秘密結社を大きく3つの時期に分けている。

 第1期は宗教結社の時代で、14世紀半ば(元朝末期)に紅巾の乱を起こした白蓮教に始まるとされる。

 白蓮教は、仏教の末法思想とマニ教から強い影響を受けた異端の宗教だ。マニ教はササン朝ペルシアの宗教で、善悪二元論のゾロアスター教を引き継いでいる。

 紀元前のペルシアで興ったゾロアスター教は、世界は光(善)と闇(悪)の闘争で、最後の審判に至って救済者(メシア)が現われ世界は光に覆われるという終末論を唱えた。開祖はザラスシュトラ(ツァラトゥストラ)で、ユダヤ教よりも古い紀元前1600年に成立したとの説もある。旧約聖書はゾロアスター教の聖典『アヴェスター』と瓜二つだ。

 終末論とメシアイズム(救世主信仰)を奉じる白蓮教は、「天崩れ地割ける」終末が訪れるとき弥勒仏が人間として地上に転生し、「劫(世界を破滅させる災い)」から衆生を救うと説いて農民たちの反乱を引き起こし、元朝を崩壊に導いた。

 マニ教は中国では明教とも呼ばれ、白蓮教の開祖・韓山童は自らを「明王」、遺児の韓林児は「小明王」を名乗った。彼らは紅い布を頭にまとって目印にしたため、紅巾と呼ばれた。

 紅巾軍の一兵卒から身を興したのが朱元璋で、中国全土を平定して明王朝を創始する。「明」はもちろん白蓮教の救世主の意味だが、その後、この出自は隠蔽されることになる。

 朱元璋は皇帝になるにあたって、白蓮教の教主で「小明王」である韓林児を暗殺した。そのうえ宗教結社が王朝を倒す現実を身を持って知ったことで、白蓮教を「邪教」として徹底的に弾圧した。明朝は“親殺し”によって生まれた王朝だったのだ。

 白蓮教に連なる新興宗教は、その後も興っては消えていった。ひとびとが宗教結社に引きつけられたのは、その教えとともに、相互扶助の共同体だったからだ。

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