今年もたくさんの新型車が発売、上陸した。今年新発売されたピッカピカの新型車のなかでも、私が「これは隠れた名車だ!」とひそかに確信したクルマがこれである。この場合、あくまで"隠れた"なのがツボである。たとえば、今年の日本カーオブザイヤーを獲得したVWゴルフも名車といえば名車だが、日本でも老若男女が知っているゴルフは隠れていない。だからゴルフに乗っていると、だれもが素直に「いいおクルマですね」と声をかけてくれちゃうところが、アマノジャクである私のツボに反する(?)。

 ただ、このフォード・クーガが"隠れた"存在なのは、少なくとも先進国では日本だけだ。知っている人も多いように、フォードはわれらがトヨタと世界販売トップの座をいつも争うメガ自動車メーカーのひとつである。本連載18回のエクスプローラーでも紹介したように、本場アメリカではフォードは押しも押されもせぬSUVのトップブランドにして、クーガ(アメリカでの車名はエスケープ)はその主力商品。また、欧州でもフォードはVWとならぶメジャーブランドであり、クーガは日本でいうところのマツダCX-5ばり......の、まったく隠れてない人気車である。

 そんなクーガの内容は、だから、あくまで王道中の王道だ。シツコイようだが、米欧では売れ筋のど真ん中。奇をてらったところはなにもない。逆にいうと、もともとフォードのブランドイメージが薄い日本では、だからクーガはよけいに隠れてしまうのである(涙)。

 カタログやニュースをいろどる奇異なところはなにもないクーガだか、中身は最新鋭にして、素晴らしくよくデキている。エンジンは欧州で流行中の小排気量ダウンサイジングターボ。こんなナリして排気量は1.6リッターしかないが、ターボ付きなのでパワーは普通の2.5リッターに匹敵する182ps。実際の走りもすこぶる力強く、しかも他社のダウンサイジングターボにありがちな、アクセルを踏んでからドーンと蹴り出されるまでの"間"がほとんどない。それに電子制御4WDもハードウエアは他社のものと同じなんだが、エンジンの強力パワーをシレッと受け止めて、まるで4WDとは思わせないところが、逆にスゴイのだ。

 乗り心地はまるで空からワイヤで吊るされたように上下動がない。ボディが水平のままチュドーンと直進して、ピキピキ曲がる。これをなんの電子制御もないアナログ技術でやっちゃっているところが、クーガのスゴさだ。

 ......と、いろいろ細かく説明しても、クーガ本来のツボはそこではない。クーガはとにかく運転しやすい。なんというか、人間と人間生活をマジメに研究してつくった感がアリアリ。エンジンやATは右足指に吸いつくように加減速するので、混雑した街中でもブレーキを踏む頻度がすごく低い。なんにも意識しないでステアリングを操作するだけで、クルマがピタリとねらったところにいく。......と、こういう普通のことをクーガのようにすさまじく高いレベルでやってのけるクルマはそうない。

 それから、クーガには「フォードはやっぱりSUVだなあ」と思わせるポイントが数えきれないほどある。

 たとえばエアコンの吹き出し口も普通のクルマより2つ多くて、それがダッシュボードからちょうどフロントシートのお腹から太ももあたりに吹きつけるようについている。これ、寒い雨や雪の日に服が濡れたまま乗り込んだときには重宝する。また、シートも一見すると平板で乗り降りしやすいのだが、長時間のドライブでもまったく疲れない。ドライビングポジションはどんな体格や好みにもピタリと合う。ちなみに、クーガには最近話題のレーダー式の低速衝突ブレーキがつくのも嬉しい。

 クーガのような存在こそ、本当の意味でツボを突くいいクルマだと私は信じる。日本ではだれがどう見ても"隠れた"存在のフォード(とくにクーガのような欧州開発のフォード)やルノーが、この連載ではやけに頻繁に登場しているのは、奇をてらったウケねらいでは決してない。この両社のクルマが"飛ばしても飛ばさなくても以心伝心"ゆえの運転のしやすさを持っているからである。

 もっとも、 "運転しやすい"なんて表現は当たり前すぎてツボが伝わりにくいのが、もどかしくて仕方ないのだが、とにかくフォードやルノーの経験がない人は乗ってみてほしい。この世にはいかに運転のツボをはずしたクルマがあふれているかを実感できるから。

佐野弘宗●取材・文 text&photo by Sano Hiromune