「ヨザル夫婦」 〜子育て層の新たなライフスタイル〜

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「赤すぐ」ブランドでもおなじみの大手情報会社リクルートによる「2014年トレンド予測」が発表され、ベビー&マタニティ領域における来年のトレンドキーワードは、

「ヨザル夫婦」

と報告された。

よ、ヨザル夫婦……?
夜遊びとか夜這いの「夜」でサルで夫婦ですか……(照)。ちょっと聞いただけでは、字面や響きが醸し出す何やらアヤシげな雰囲気に、妙な妄想炸裂だ。しかしどうやらこの「ヨザル」、じつは実在するサルの仲間で南米のアマゾン一帯に生息する夜行性の真猿類。注目すべきはこのヨザル、オスの子育て貢献度がかなり高くて、つがいの形としてはオシドリ夫婦よりもよほど現代的で理想的らしい。


「ヨザル」(画像提供:日本モンキーセンター)


というのも、私たちが「仲良し夫婦」のつもりで使っているオシドリ夫婦のオスは、決していいパパなどではない。メスが卵を産むまではぴったりと寄り添うものの、ヒナがかえれば子育てはメスの仕事。しかも毎年違う相手とカップリングするというのだから、意外やオシドリのオスは薄情で多情な男なのである。

おい、子育ての一番大事なところをまるっと放棄するわ他の女に走るわ、サイテーじゃないかオシドリ!? それって熟年離婚に至る典型例だぞオシドリ!? 残念ながら、イマドキのパパとしてはクビである。ふんっ!

一方ヨザルのオスは、抱っこや毛づくろいなど、授乳以外はなんでもやる(!)。しかも決まったパートナーと生涯添い遂げるというのだから、まさに「動物界のベストファーザー」、配偶者としてもベストではないか。びっくりまん丸お目めの可愛らしいいでたちながら、いいねいいぞ、頑張れヨザル! アヤシい響きとか言ってごめん!

ライフスタイルとして大きな潮流となっている「共働き夫婦がチームで家事や育児を分かち合い、チームで子育てする時代」の到来に求められる夫婦像は、もはや薄情なロマンス志向のオシドリなんかじゃない、ユニットを組む相手として信頼でき、内外の仕事が着々と進むヨザルのカップルだ。そう、夫婦って絆とかの前に、まず「信頼」なのである。

子育て界でここ最近に起きていた地殻変動、それはイクメンという概念の浸透だった。
しかし、外歩きでは子どもを抱っこ紐に入れて運んだりベビーカーを押したりするイクメンも、家の中では寝かしつけやウンチオムツ替えは妻に任せっきりだったり、疲れ切った妻の話に耳を貸さなかったり。

あげく、育児している自分の姿をSNSに投稿して多数の「いいね!」を集めるイクメンに、一体どこを向いて育児しているのだ、と妻たちからの反感が集まった。都合の良いときだけパパの顔をする「ファッションイクメン」のドヤ顔に、批判が起きたのだ。

子育てに「参加」したり育児を「手伝う」ようなお客さんとしての立場ではなく、同じ責任、同じ主体性と「当事者意識」を持って、育児して欲しい。ここ数年、そんなママたちの願いがつぶやかれていた。

だって本当は、授乳以外は(さらに本当のことを言えば授乳さえも)誰がやったってできるんだよ、育児って。育児はお母さんじゃなきゃダメだなんて真理でもなんでもなくて、それは後づけの「近代社会の慣習」に過ぎないんだよ……。

でも、これまで声の大きな人たちはあんまりそういうことを言ってくれなかったから、ママたちは目に見えない世間が求めてくる「理想の母親像・妻像」という架空の女の人を見て、そうなれない自分を責めたりしていた。

こちらのヨザル夫婦は、いよいよ子育て層に入ってくるゆとり世代のライフスタイルとも報告されている。またの名を「さとり世代」とも言う、バブル崩壊後に育った、地に足着いた世代。

ヨザル夫婦は、「わたしが仕事を続けたいから、もともとは亭主関白タイプだったパパに変わってもらいました」とか、「僕自身の中では、当たり前のことを当たり前にやってる感覚」と言う。そう、当たり前のことを、当たり前にできなかった上の世代のママパパたちからすると、彼らの姿は眩しい限りだ。彼らがどのような家族像を見せてくれるのか期待しつつ、情報感度の高い諸姉諸兄は「ヨザル夫婦」を覚えておくべし!

河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。家族とともに欧州2ヵ国の駐在経験。