バンクーバー五輪以来の"ダブル大技"に挑戦した浅田真央がGPファイナル2連覇を飾った。大会4度目の優勝は、イリーナ・スルツカヤ(ロシア)が持っていた女子最多優勝に並んだ。

「最初のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)で転倒して体力が持つか心配でしたが、お客さんの応援が後押ししてくれてどうにか最後まで滑りきれました。この大会でアクセルを2度挑戦できたことは次につながると思うし、新しい課題も見つかったので、次の試合までにしっかり調整し、オリンピックにつなげたいと思います。今日は悔しい思いもありますが、次にまた挑戦して跳べるように頑張ります」

 2位と12点近い差をつけての優勝にも、目指す「最高レベルの演技」を見せることができなかった浅田は、すでに先を見据えていた。

 1ヵ月前のNHK杯後にふと「トリプルアクセルを2度入れてもいいかな」と思い、練習を始めてからまだ日が浅い。本人も「時間がまだ足りない」と練習不足を口にする。佐藤信夫コーチが「技術的に(習得は)できている」と言うだけに、あとは練習あるのみという段階のようだ。

 首位に立ったショートプログラム(SP)では、回転不足と判定されたものの「きれいに跳べた」と手応えを掴んでいた。フリーでは2度跳び、冒頭は久々の転倒となり、2本目は回転不足にオーバーターンがついてしまい、後ろに2回転トーループの連続ジャンプをつけることができなかった。本来であれば、トリプルアクセルの基礎点は「8.5点」なので、この2つの大技と2回転ジャンプの基礎点を単純に計算したら18.4点を稼げるはずだが、ジャンプの失敗によってGOE(技の出来ばえ)でも減点されて、単独の基礎点より低い7.59点しか出なかった。浅田にとって一番の武器であるトリプルアクセルは、五輪金メダル争いを勝ち抜くためには必要な大技であり、モチベーションの原動力でもあるが、ハイリスクハイリターンの技であることはいまでも変わっていない。

 今季はシーズン初戦のジャパンオープンから試合で計8度跳んでいる大技も、まだ1度も完璧には成功させておらず、GOEでもプラス評価をもらっていない。それでも、ジャンプの失敗を引きずらずにしっかりと立て直して、『ピアノ協奏曲第2番』の曲に乗って最後まで滑りきってみせた。たとえ大技で高得点が出せなくても、この3年間に修正強化してきたスケーティングやスピンの質の高さとプログラムの出来ばえなどが評価されて演技構成点で高得点に結びつけ、カバーできることは大きい。

「最初のトリプルアクセルで転倒してしまい、体力を奪われてしまった中できちんと立て直せたかなとは思っています。2発目も落ち着いて跳ぼうとしましたが、1発目に転倒しまうと次のジャンプを成功させるのはなかなか難しい。まだシミュレーションができていない状況での挑戦だったので、もう少し練習が必要かなという風に思っています」

「集大成の演技」を目指すオリンピックシーズンで「最高レベルの演技」を目標に掲げて取り組む浅田。彼女にとっての「最高レベル」とは何か。このGPファイナルで見せた、トリプルアクセルを2本跳ぶというフリーのジャンプは、バンクーバー五輪のときとまったく同じである。しかし、この構成にすると、これまで目指してきた3回転ルッツと3フリップ+3ループの連続ジャンプを外さざるを得ない。つまり、浅田の武器である6種類の3回転を跳ぶこともなくなり、高得点が期待できる3+3回転の連続ジャンプも跳ばないために、構成としては必ずしも「最高レベル」とは言えないのではないか。佐藤コーチもこう語る。

「特に女子選手にとって、トリプルアクセルを2度跳ぶことはとんでもなく能力的に難しいということを痛感させられたし、体力的に非常にエネルギーを使うわけですからリスクもいっぱいある。ですが、練習ではできていますし、もう少し頑張って何とか彼女の夢をかなえられたらいいなと思っています。(3回転ルッツや3+3回転を外すリスクについては)最初からそれを計算すると、止めましょうということになってきますから、それは今は言わないで、とにかく可能性を追求していってあげたいと思っています」

 バンクーバー五輪で金メダルを争ったライバルのキム・ヨナ(韓国)は、GPファイナルと同じ日程で行なわれた国際大会ゴールデン・スピン・ザブレブ(クロアチア)で右足負傷からの復帰を果たし、SPで今季世界最高得点を出して優勝を飾った。トリプルアクセルを跳ぶプログラムで滑ったGPファイナルの浅田よりも、SPと合計では得点で上回っていた。同じ土俵での戦いではないので単純な比較はできないが、得点だけを見れば負けたことになる。

 それは今回、得点源となる大技2つで失敗して得点を伸ばすことができなかったせいでもあるだろう。それでも、ソチ五輪でトリプルアクセルに2度挑戦することが最善の策なのか。難しい選択を迫られるかもしれない。実際、佐藤コーチも今後については含みを持たせている。

 浅田自身は「今回挑もうとしたフリープログラムが最高レベルのジャンプ構成です。いまはこの構成でやりたいと思っています」と、あくまでもトリプルアクセル2発を目指していくと意志は固い。ソチ五輪まであと2ヵ月。今後は、トリプルアクセルの成功率をどこまで上げられるかに懸かってくる。

 最終的には五輪前にどう戦うかを決めることになりそうだ。前回のバンクーバー大会と同じようにトリプルアクセルを2本跳んで納得のいく演技を目指すのか、それとも戦略的妥協をして大技を1本にし、プログラムの完成度を高める演技を目指すのか。この3年間のジャンプとスケーティングの強化により演技全体の質は格段にレベルアップしている。どんな答えを導き出すのか、注目したいところだ。

辛仁夏●文 text by Shin Yinha