(Photo by Matt KingGetty Images)

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 4日間72ホールを最少スコアで回った者が勝利する。それがゴルフの戦いの鉄則だ。本来なら、その「最少スコア」以外に勝敗を左右する基準は存在しない。「誰かが勝つべき」「誰かが勝って然るべき」なんてものもない。
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 だが、「あの人に勝ってほしい」「あの人に勝たせたい」という願いや感情は湧いてくる。そして「あの人」に当たる選手本人も「どうしても勝ちたい」「今、ここで、絶対に勝ちたい」という強い感情を胸に抱く。そして、そうなる背景には、さまざまなストーリーが絡んでくる。
 今週、シドニーで開催されたオーストラリアン・オープンは「どうしても、あの人に勝ってほしい。勝たせたい……」という特殊な雰囲気に包まれていた。「あの人」とは、アダム・スコットのこと。彼自身も勝利を願い、母国の人々も彼の勝利を心の底から願っていたのだが、単独首位で最終日を迎えたスコットを抑え込み、ローリー・マキロイが勝利するという大逆転劇が起こった。
 なぜ、スコットの優勝が期待されていたかと言えば、そのワケはオーストラリアが彼の母国という以外にもいろいろあった。ネクスト・タイガーと目され、すぐにでもメジャー優勝と期待されながら、メジャーで惜敗続きだったスコットが、今年、ついにマスターズを制し、メジャーチャンプになった。
 オーストラリア人選手によるマスターズ初制覇。そんな記念の年に、マスターズ優勝以来、初めての帰国となったスコットを母国の人々が大歓迎したのは当然の流れだった。
 だが、スコットは、その帰国を単なる凱旋帰国に留めず、オーストラリアの3大メジャーであるオーストラリアンPGA、オーストラリアン・マスターズを続けざまに制覇。そして挑んだオーストラリアン・オープンで優勝すれば、2005年にロバート・アレンビーが達成したオーストラリアの年間グランドスラム(別称トリプルクラウン)以来の快挙。
その輝かしい瞬間を人々は心待ちにしていた。もちろん、スコット自身も――。
 けれど、スコットから4打差で最終日をスタートしたマキロイがバーディーやイーグルを重ねてスコットに並び、ついには逆転し、スコットが王手をかけていた勝利を奪い取る結果になった。
 今年、不調に喘ぎ、未勝利の1年で終わりかけていたマキロイにとって、この優勝はうれしさもひとしおのはず。だが、彼は自分の喜びよりも「アダムのトリプルクラウン達成を阻んでしまったことが申し訳ない。僕は優勝できたことより、世界のベストプレーヤーであるアダムを倒したことに満足感を覚える」と語った姿が印象的だった。
 勝ちかけた選手、誰もが勝利を信じた選手が、最後に負ける。勝負の世界ゆえ、そんな逆転劇はしばしば起こるものだが、中でも鮮烈だったのは昨年のファーマーズインシュアランス・オープンで、首位を独走していたカイル・スタンリーが最後に大崩れして初優勝を逃し、ブラント・スネデカーが優勝を飾ったあの大逆転劇だった。
 敗者となったスタンリーは、悔しさをこらえきれず、会見で号泣した。勝者となったスネデカーは優勝会見で自分の喜びを語る前に「たとえこの地球上の僕の最大の敵であっても、あんなふうに崩れる悔しさを味わってほしくない」と、敗者を気遣う言葉を口にした。
 オーストラリアン・オープンで最後の最後に敗者になったスコットは、すでに百戦錬磨のベテランで、すでにメジャーチャンプゆえ、経験も実績もプライドも意地もある。何より彼には素晴らしきスポーツマンシップがある。
 「今日はパターが言うことをきいてくれなかった。でも、それがゴルフってものだよ」
 静かにそう語り、マキロイの今年の初勝利を讃えたスコットのグッドルーザーぶり。そしてルーザーを想う勝者マキロイのグッドウイナーぶり。昨年のスネデカー然り。
 大逆転のストーリーは敗者にはきわめて酷ではあるけれど、勝者と敗者の双方が素敵な一面を見せ、人々がゴルフに魅せられる。だから私は、大逆転の物語がとても好きだ。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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