緩和縮小の見送りによる金の60ドル超の急騰で思わぬ疑惑が浮上
金融政策の転機とされていた9月のFOMCでは、緩和縮小の見送りというサプライズが待っていた。金相場は急騰したが、思わぬ物議を醸すことに。これには、なんと「1000分の1秒」という単位が深く関わっていた。

米国の金融政策の大きな転機になると考えられていた9月のFOMC(連邦公開市場委員会)。現地時間9月18日14時に発表された声明文によると、毎月総額850億ドルの資産買い取りは変更されることなく継続となった。緩和縮小を織り込んで事前に売られていた金は、この発表を受けて60ドル超の急騰。

ところが、発表直後にシカゴ市場で出された大量の金の買い注文が、ニューヨーク市場の注文よりも早かったということで、「情報の事前漏えいがあったのでは」との疑惑が浮上した。この連載で、以前ヘッジファンドのHFT(超高速・高頻度取引)について取り上げたことがある。今や株式でも金でも、ファンドは事前に組まれたコンピューターシステムに沿って判断を下し、1000分の1秒(ミリ秒)単位で売買をするのが常だ。もちろん、注文を受けるほうの取引所も処理能力を上げるためにシステム投資を進め、これらの注文に対応済みとなっている。

瞬時に大量の売買注文が出されることから、取引所側のシステムが混乱したという事例も。2010年5月のニューヨーク証券取引所では、わずか数分でダウ工業株30種平均の株価が1000ドル近く暴落した。当初は何が起きたかわからなかったため、大きな誤発注が原因とされた。後にHFTによる大量の売り注文が瞬時に出され、その結果、買い注文が軒並みさらわれるような形で暴落が起きたことが判明。このときからHFTが広く知られるようになった。

今回の問題は、FOMCの開催地であるワシントンからの距離を踏まえても、シカゴに情報が伝わるのに7ミリ秒かかるということだ。距離的に近いニューヨークへは2〜3ミリ秒で届くため、それだけ早く情報が入手できるという。しかしながら当日の取引では、声明文発表後シカゴのほうが5〜7ミリ秒早く取引が活発化したといわれている。そのため、「シカゴのトレーダーには、発表時刻の午後2時以前に情報が伝わった可能性がある」と指摘する調査会社も出てきた。それを米国経済チャンネルCNBCが報じ、FRB(連邦準備制度理事会)が調査に乗り出したとのこと。FRBは発表時刻直前にFOMCの声明文を報道機関に配布するが、解禁時間を厳格に定めているといわれている。したがって、フライングしたのは通信社ということになるが真相はいかがなものか。

亀井幸一郎(KOICHIRO KAMEI)
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表

中央大学法学部卒業。山一證券に勤務後、日本初のFP会社MMI、金の国際広報機関WGCを経て独立し、2002年より現職。市場分析、執筆講演など幅広く活躍中。




この記事は「WEBネットマネー2013年12月号」に掲載されたものです。