NY発 ファイナンシャルINSIDE_12月号
リーマン・ショックから5年が経過した。米国は株高に見えるが、実は上場企業の売り上げは鈍化傾向にある。その背景にあるのが「大きな政府路線」。金融ビジネス分野で政府や州が介入する傾向が高まったことが、民間への融資や投資の足かせになっている。

9月10日朝、ニューヨークではウォール街の著名弁護士、ハービー・ミラー氏が「貢献した弁護士大賞」なる賞を米国の経済団体から表彰されていた。

ミラー弁護士は連邦破産法の最高権威だ。2008年9月14日に破綻した大手投資銀行リーマンブラザーズの破産手続き筆頭代理人として、リーマン・ショックを乗り切った実績で知られる。

1929年に起きた大恐慌以来の経済危機となったリーマン・ショックから5年。失業率は足元で7・3%まで低下したが、これは就業人口が減ったから。危機以降の米国のGDP(国内総生産)の伸びは平均で2%にとどまる。株高といっても、企業が積み上げた手元流動性を使った自社株買いやFRB(連邦制度準備理事会)による量的緩和の寄与が大きい。S&PキャピタルIQなどのデータによると、上場企業の売り上げの伸びもマージン率の拡大も鈍化傾向にある。

成長鈍化の一因としては、「大きな政府路線」がある。ミラー弁護士によると、危機後の米国では、「金融ビジネスの分野での政府や州の存在感が高まった」という。

「大きな政府路線」は金融行政で目立つ。リーマンは政府支援がないままに破綻したので金融機関が相互不信に陥り、銀行間取引市場では事実上の取り付け騒ぎが発生した。その反省から、米国政府は経営危機に陥った保険大手AIGや複数の地銀大手を支援し、ウォール街の金融機関に公的資金を一斉注入した。また、金融制度改革法に基づいてFSOC(金融安定監督評議会)を設置した。緊急措置的な政府介入や金融システム監督は仕方がないとしても、米国政府は消費者保護庁も設置し、金融機関の報酬体系を規制するなど箸の上げ下ろしまで介入するようになった。目立つのは金融機関への訴訟路線だ。司法省は、JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカに対して危機前後に売りさばいた証券化商品に関連して訴訟を起こした。

米国政府がむきになってウォール街を攻め続けるのは、過大なリスクを取った経営危機に加えて、金融のシステミックリスクを引き起こした経営者個人を刑事訴追することができなかったから。そこで、怒れる国民感情をなだめるために訴訟路線をとっているのだが、個人ではなく企業全体を訴えているので、現在の株主や被雇用者が痛みを被っている。

ウォール街が法令順守にかかりきりになり、危機以降に大手銀行6行が計上した弁護士報酬など法務費用は1000億ドルにも上った。一方の経営面では、負債比率を引き下げて守りの姿勢を続けている。融資や投資など民間への信用供与額を見てみると、2012年で米国GDPの190%にとどまり、危機前の2007年の213%を大きく下回る。ウォール街がなお復活を遂げられないのは、米国政府がポピュリズムに迎合したためでもある。

松浦 肇(Hajime Matsuura)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。




この記事は「WEBネットマネー2013年12月号」に掲載されたものです。